アクチバトール
- 【読み】
- あくちばとーる
- 【英語】
- activator
- 【辞典・辞典種類】
- 歯科矯正学事典
- 【詳細】
- (同)アクチベーター,FKO(FKOA)
アンドレーゼン(Andresen, V.)とホイップル(Haupl, K.)によって1936年に考案された装置で,彼らが推奨した機能的顎矯正法(functional jaw orthopedics)というテクニックから生まれたもので,アクチベーター,FKO,FKOAともよばれる.本装置は本来,正常な筋機能が正しい上下顎関係ならびに歯や歯槽骨の正しい発達を起こさせるという考えに基づき考案され,装置を媒体とした咀嚼筋の機能を活性化させ,歯および顎骨に間歇的矯正力を作用させることにより歯の移動と下顎骨の移動および顎関節部の骨改造を期待する.この機能の活性化はいわゆる構成咬合の採得により得られる.本装置の原型になった装置はピエール・ロバン(Piere Robin)のモノブロック(Monobloc)であり,また根本理論となった顎全体での移動はキングスレイ(Kingsley, N.W.)の咬合斜面板による斜面理論である.
1.基本構造:本装置の構造は大きく分けて金属線よりなる誘導線と,合成樹脂によりなる床により構成される.
1)誘導線:誘導線は他の矯正線とは異なり弾力を必要とせず主に筋の機能力を直接歯に伝えたり(動的作用),遠ざけたりする(静的作用)役目を有する.
(1)動的作用:唇側線が上下顎の前歯唇面に接触している場合は,接触歯は筋機能を直接受けて舌側に形成された誘導面にそって舌側に移動する.
(2)静的作用:唇側線が上下顎前歯の唇面に接触していない場合は,治療上障害となる筋の機能力を排除するためのもので,口唇や頬筋を圧排し前歯の唇側移動や臼歯の頬側移動に間接的に働く.
(3)誘導線の種類
[1]上顎唇側誘導線;主に上顎前突症で動的作用,下顎前突症では静的作用として用いる.
[2]下顎唇側誘導線;主に上顎前突症で静的作用,下顎前突症では動的作用として用いる.
[3]顎間誘導線;主に下顎前突症における動的作用として用いる.
2)床部:床部は合成樹脂性の一塊構造であり口蓋部(舌側部),床翼部,誘導部(咬面部)を有する構造をなす.
(1)口蓋部:上顎に相当する部位をいい,口蓋の3分の1程度を覆う.
(2)床翼部:下顎の床部を歯槽部にまで延長した部位をいう.
(3)誘導面:口蓋部,床翼部の舌側面に相当し,歯と接触する部分を個々の歯が歯槽性移動が行いやすいように形成した面をいう.また,誘導面の形成にあたり削除する床の部分をとくに咬面部とよんでいる.誘導面を形成することにより,臼歯部では歯が誘導面に接触し水平圧迫が起き削除面に沿った垂直的な誘導が起こる.
[1]下顎前突に対する誘導面形成の概念;構成咬合により作られた強制的環境変化に対し,下顎は元の不正な位置に戻ろうとする.それにつれて本装置は下顎と同様に前進し上顎の前歯の舌側に強くあたり,機能的矯正力が生じて唇側への移動が始まる.その際,上顎の犬歯,小臼歯,大臼歯の舌面が誘導面に陥合した状態では移動しない.そこで,上顎歯誘導面の遠心部分を削合することにより装置の移動を図り上顎前歯の唇側移動が起きる.また,上顎を固定として考えた場合,下顎の前進に伴い下顎前歯には誘導線(とくに顎間誘導線)の水平部が接し,下顎前歯の舌側への移動が起き,このとき下顎前歯の舌側面の誘導面と上顎と同様に下顎の犬歯以後の誘導面の近心部を削合することにより下顎前歯の舌側移動が起きる.同時に咬面部では歯の形態に合わせ装置がスムーズに移動を起こすような削合,平滑化を図り機能的矯正力の一助をなす(飯塚,1964年).
[2]上顎前突に対する誘導面形成の概念;本装置の下顎前突の治療と同様に構成咬合で得られた強制的環境の変化により機能矯正力を及ぼさせる.その際誘導面の形成は次の通りである.下顎が元の不正な位置に戻る力に合わせ装置は後方に移動する.その際,上顎前歯は唇側誘導線水平部に接し舌側への移動を起こす.そのため上顎前歯の舌側の誘導面は削合する.同時に下顎前歯は唇側移動および圧下が起きる.さらに,下顎前突症例の誘導面と同様に,犬歯部および犬歯以後の臼歯部の上顎は近心部,下顎は遠心部の誘導面の削合を行う.また咬面部を削合することにより,歯の挺出および頬側移動により正しい咬頭嵌合が得られる.
3)補助装置
(1)小誘導線,犬歯誘導線:補助的に付加する線で,前歯の近遠心的移動,回転,保隙装置として用いる.
1)拡大ネジ:主に床の口蓋部に置き,臼歯部に交叉咬合を有する症例に用いる.
2.使用方法:本装置は,在宅時またはとくに睡眠中が有効であり最低10時間以上の使用が必要である.
3.適応症
1)上顎前突における適応症
(1)アングルI級の症例で,上顎前歯の唇側転位または唇側傾斜で歯列狭窄を伴うもの.
(2)アングルII級1類
2)下顎前突における適応症
(1)アングルI級の症例で,上顎前歯の舌側転位または前歯の唇側転位を伴うもの.
(2)アングルIII級,ただし構成咬合採得可能なもの.
3)アングルII級2類
4)交叉咬合
5)過蓋咬合
6)その他の応用法
(1)保定(2)保隙(3)顎骨骨折(4)歯ぎしり
4.禁忌症
1)構成咬合が不可能なアングルIII級
2)装置使用不可能なもの:口呼吸や鼻的疾患など装置挿入不可能なもの
3)上下顎骨発育過程に大きなズレ(discrepancy)のある場合
4)叢生
5)上下顎前突
6)捻転
5.派生装置:アンドレーゼンとホイップルによって考案されたアクチバトールは臨床で長い間使用されているが,その中で何度も改良を受けさらに発展した.その代表的な装置には次のような物がある.
1)へーレンのアクチベーター(Heren’s activator)
2)シュワルツのボウアクチベーター(A. M. Schwarz’s bow activator)
3)シュウマッハのアクチベーター(Schmuth’s activator)
4)カルヴェスキーのアクチベーター(Karwetzky’s activator)