嚥下
- 【読み】
- えんげ
- 【英語】
- swallowing
- 【辞典・辞典種類】
- 歯科矯正学事典
- 【詳細】
- 嚥下とは,食塊が口腔から咽頭,食道を経て胃まで送られる過程をいう.出生後の乳幼児の嚥下は,本能的な顔面神経支配筋(頬,口唇,オトガイ)の律動的収縮によって行われる.乳児型嚥下の特徴は次のようである.
1)上下顎は離開し,舌は突出して上下顎の歯槽堤の間に位置する.
2)舌背は低い位置をとり,正中溝はくぼんでいる.
2)口腔周囲括約筋の活動により口唇はすぼめられる.
3)下顎は前方へ突出される.
4)嚥下は上下口唇と舌の間の知覚の相互交換によりコントロールされる.
第一乳臼歯が萌出し,後方歯の咬合が確立されると咀嚼運動が始まり,成熟型嚥下の習得が始まる.徐々に,三叉神経支配の筋肉が嚥下時の下顎の固定の役割を果すようになり,顔面神経支配筋はより繊細かつ複雑な会話や表情の機能をもつようになる.成熟型嚥下は12~15ヵ月でほとんどの子供達が習得する.成熟型嚥下の特徴は次のようである.
1)瞬間的に上下顎切歯は接触する.
2)主として第V脳神経(三叉神経)支配を受け下顎位が保持される.
3)舌尖部は口蓋に接し,上顎切歯部の上後方に位置する.
4)舌背部は高い位置をとり,臼歯部咬合面に舌の辺縁部が入り込む.
5)口輪括約筋の緊張は減少する.
6)下顎の前方への突出はない.
成熟型の嚥下運動は,次の3相に分かれる.
(1)口腔相:食塊が口腔から咽頭へ送られる時期で,随意運動である.口腔底の挙上により舌背が硬口蓋を前方から後方へ圧迫し,食塊が舌の上を後方へ送られる.その後舌根は後下方にさがり,食塊は咽頭に向かう.
(2)咽頭相:咽頭に送り込まれた食塊が嚥下されて食道に入る時期で,不随意運動である.食塊を咽頭から食道へ進める運動と同時に,鼻腔,口腔,喉頭腔への進路は閉鎖される.
(3)食道相:食塊が食道を通過して胃に入る時期で,不随意運動である.食塊が食道内に入ると喉頭はもとの位置に下降し,食道の入り口は閉鎖される.
成熟型嚥下の習得がうまくいかずに乳児型の嚥下が残っていると,異常嚥下癖として開咬などの不正咬合の原因の1つとなる.
→口腔機能の発育