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オトガイ(頤)

【読み】
おとがい
【英語】
chin
【辞典・辞典種類】
歯科矯正学事典
【詳細】
 オトガイとは顔の正中にある隆起で形は多種多様であり下顎のオトガイ結節の部分に位置する.この部分の下顎骨には小三角状の低い隆起があり,オトガイ隆起という.第二小臼歯の歯根の下方で外側面にはオトガイ孔があり,オトガイ神経やオトガイ動脈・静脈が通っている.オトガイ結節から斜上方には斜線とよばれる線状に走る骨の隆起があり顔面表情筋の一部が付着している.下顎のなかで最も変化に富んだ成長パターンをとるのはオトガイの領域であり,その形成は人と象だけにみられる特徴である.オトガイの出現については人類の進化に基づく脳頭蓋の拡大や顔面骨格と歯槽部の縮小化の結果であるのか,あるいは筋活動や咀嚼,嚥下,呼吸,発音などの機能の結果である(ウェイデンライヒ:Weidenreich)と考えられ,また顎の縮小と後退,大後頭孔の前方移動,頭蓋底の角度変化の結果であるとも考えられている.オトガイの形成はオトガイ下縁部が骨内膜性皮質性成長(endosteal cortical growth)により前方に成長し,それにより上方の歯槽部の吸収機転とともに著明になり,またオトガイに対する下顎骨内面には骨膜性成長(periosteal growth)が起こり,シンフィージス(symphysis)の形態が形成されていくと考えられている.
上顎前突患者を治療する場合,臨床上はオトガイ部が比較的突出しているもの(アゴありタイプ)とオトガイ部が後退しているもの(アゴなしタイプ)とでは矯正治療結果に大きな影響がある.上顎前突におけるオトガイ部の突出,後退を客観的に,かつ実用的に表現する方法として,エフェクティブシンフィージス(effective symphysis,NB to Pog(mm))の大きさによる分類がある.一般にオトガイ突出型の上顎前突は上顎前歯の前傾に比べて下顎前歯は整直されており,ロウアングル症例(low angle case)の場合が多い.このような場合,咬合挙上に長期間を要するが側貌は良好となりやすい.逆にオトガイ後退型の場合は上顎前歯の前傾とともに下顎前歯も前傾しておりハイアングル症例(high angle case)が多い.このような場合,側貌という面からの治療結果は良好となりにくく,歯列は整理され改善されても側貌は依然としてアゴなしとなることが多い.また実際,下顎においてオトガイ部の突出度を示す計測項目としてアクチュアルシンフィージス(actual symphysis)がある.一般にFMA, SN to mand. p., ゴニアルアングル(gonial angle)の大きなハイアングル症例ではアクチュアルシンフィージスが大きいといわれ,またアクチュアルシンフィージスの大きな症例では下顎下縁に対して下顎切歯歯軸が,整直しているものが多いといわれている.
→下顎(骨)の成長