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下顎前突

【読み】
かがくぜんとつ
【英語】
mandibular protrusion
【辞典・辞典種類】
歯科矯正学事典
【詳細】
 下顎前突とは,上下顎前歯が逆被蓋を呈する上下顎歯列弓関係の不正を総称するもので,欧米人に比べて日本人に多いといわれている.
1)骨格性下顎前突:上顎骨の劣成長または下顎骨の過成長もしくはその両者により,下顎骨が上顎骨に対して前方に位置する骨格パターンによって下顎歯列弓が上顎歯列弓より近心に偏位しているものをいう.顎性下顎前突,構造性下顎前突,真性下顎前突ともよばれ,先天的要因によるものが多いとされている.
【顔面所見】正貌では細長い顔で下顔面の長い場合が多く,側貌は凹型(コンケーブタイプ:con-cave type)を呈し,オトガイ部が著しく前方位を示すことが多い.
【口腔内所見】下顎第一大臼歯が上顎第一大臼歯より,下顎犬歯が上顎犬歯よりそれぞれ正常対咬範囲を超えて近心位にあり,アングルの分類のIII級を示す.また上顎前歯の唇側傾斜と下顎前歯の舌側傾斜を示すことが多く,下顎切歯切端が上顎切歯切端より前方に位置する反対咬合を呈する.
【頭部X線規格側貌写真所見】一般的にSNB,顔面角,上顎中切歯歯軸傾斜角が大きく,SNA,ANB,Y軸角,下顎中切歯歯軸傾斜角が小さくなる.
【治療方法】乳歯列期および混合歯列期では,下顎骨の成長抑制のためにオトガイ帽装置を用いる.また上顎骨の劣成長が認められる場合には,上顎前方牽引装置や拡大装置を用いて上顎骨の成長を促進させる.また,上顎の劣成長と下顎の過成長が合併している場合は後頭部・オトガイ部固定装置(OMA)が用いられる.さらに,必要に応じて機能的矯正装置や顎間固定装置などにより早期に被蓋の改善をはかる.永久歯列期では,小臼歯または大臼歯の必要抜歯を伴うマルチブラケット装置による治療が行われる.また,矯正治療のみでは治療できないほど骨格的な不正が大きい症例には外科的矯正治療が併用される.
2)歯槽性下顎前突:上下顎骨間に前後的な偏位はないが,下顎歯列弓または下顎前歯が上顎のそれより相対的に近心に位置するものをいう.乳歯と永久歯の交換期の異常や口腔不良習癖によって起こり,歯性下顎前突,機能性下顎前突,仮性下顎前突ともよばれる.
【顔面所見】正貌は著明な特徴が認められない場合が多く,側貌は直線型(ストレートタイプ:straight type)や軽度の凹型(コンケーブタイプ:concave type)を示す.
【口腔内所見】上顎前歯の舌側傾斜や下顎前歯の唇側傾斜もしくはその両方が認められる.アングルの分類は軽度のIII級またはI級を示す.
【頭部X線規格側貌写真所見】一般的に,上顎中切歯歯軸傾斜角,上顎中切歯突出度が小さく,下顎中切歯歯軸傾斜角が大きくなる.また,SNA,SNB,ANBは平均的な値を示すことが多い.
【治療方法】混合歯列期では,機能的矯正装置や顎間固定装置により被蓋の改善をはかる.また必要に応じてオトガイ帽装置が用いられる.永久歯列期では,一般的にマルチブラケット装置による治療が行われる.
→不正咬合