顎関節症
- 【読み】
- がっかんせつしょう
- 【英語】
- arthrosis of temporomandibular joint
- 【辞典・辞典種類】
- 歯科矯正学事典
- 【詳細】
- 顎関節痛,雑音および異常な顎運動を単独にまたは併発して経過する非感染性,顕著な非炎症病態を欠く症候群である.従来,矯正治療が顎関節症の原因の1つとなる場合と,顎関節症が矯正治療によって軽減したり消失したりする場合とがあるといわれている.矯正治療中に発症する顎関節症は下顎の中心位の誤りに起因することが多い.顎関節症の誘発原因としては次のような原因があげられる.
1)下顎の中心位の誤り
2)歯軸の設定の誤り
3)オトガイ帽装置の使用によるもの:ゴムによる荷重をかけすぎたり長時間(24時間)の使用などによって顎関節症を起こしやすいといわれている.しかし低年齢においては順応性が高く,また成長発育というクッションがあるため発現は低い.
4)顎間ゴムの使用によるもの:顎間II級ゴムの使用による二態咬合の発生やIII級ゴムの使用による上顎大臼歯の近心傾斜や歯軸の誤り,第二大臼歯との間の段差を生じることなどが原因となることがある.また顎間II級ゴムの使用時にも発現頻度が高い.顎関節症が矯正治療により軽減するのは,矯正治療開始時に原因となっていた早期接触や叢生による機能的変異や運動制限が解消されるためである.このように矯正治療は顎関節症の発症原因になることも,また治療になることもあるためMRIなどによる形態的診査を行うとともに機能的咬合系の十分な診査を取り入れ病態診断を行うことが不可欠であると思われる.日本顎関節学会(1988年)によると顎関節症を次の5つに分類している.
顎関節症I型:咀嚼筋に異常のあるもの
顎関節症II型:慢性外傷性病変(靭帯・関節包に異常のあるもの)
顎関節症III型:顎関節内症(関節円板に異常のあるもの)
顎関節症IV型:変形性顎関節症(下顎頭関節軟骨に異常のあるもの)
顎関節症V型:精神的因子によるもの
I型からV型までは後者になるほど重篤であり,I型では運動障害・開口障害が生じ,II型では圧痛が発症する.円板の転位や変性・クリッキングなどの雑音が生じるのはIII型である.確定診断は円板の位置を手探りで探すのではなくMRIを用いて行うことが大切である.III型の治療は,可及的早期に転移した関節円板をスプリント(スタビライゼーション・スプリント)療法により復位させることである.関節円板の転位がクローズドロックの場合では,徒手的関節円板整位術(マニピュレーション)を行い復位をした後(MRIによる確認をすることが大切である)に整位型スプリントを用い安静をはかる.また,IV型はクレピタス(ザリザリ,ガリガリ)などの関節雑音を伴う場合である.治療にあたっては全歯接触型バイトプレートを用い関節内での下顎頭の位置を変え安静をはかるが,長期にわたる経過が必要となる.ほとんどの場合はI型からIV型に分類することが可能である.V型はI型からIV型までのいずれにも該当せずに心理的要因がより強く関与すると考えられるものをいう.歯科的治療法としては全歯接触型バイトプレートを装着するが,症例によっては神経内科,精神科への対診を要する心身医学的アプローチが必要となる.患者指導のポイントとしては患者の訴えを十分に聞くことにある.