咬合挙上
- 【読み】
- こうごうきょじょう
- 【英語】
- bite opening
- 【辞典・辞典種類】
- 歯科矯正学事典
- 【詳細】
- 咬合挙上とは上下顎切歯の垂直的な被蓋(オーバーバイト)を減少させる目的で行われ,主にオーバーバイトの深い上顎前突や過蓋咬合などの症例に対して行われる.このための装置としては咬合挙上板,ヘッドギア,マルチブラケット装置などが用いられるが,咬合挙上板による咬合挙上は主に臼歯部の萌出あるいは挺出を主体とするもので,前歯圧下はあくまで下顎前歯部に付加的に起こるにとどまるのに対し,ヘッドギアはその牽引する方向によって上顎前歯部の圧下あるいは上顎骨の回転による咬合挙上を期待するものであり,一方上顎前突症例におけるマルチブラケット装置は前歯部の圧下を主体とした咬合挙上を期待するものである.たとえばべッグ法(KBテクニック)におけるバイトオープニングベンド,エッジワイズ法におけるゲーブルべンドなどはいずれも咬合挙上を目的としてワイヤーに付与される代表的な屈曲である.
バイトオープニングベンドは上下顎前歯を確実に圧下させるために上顎前突症例(オーバーバイトおよびオーバージェットがともに大きいアングルII級1類症例,またオーバーバイトが大きく上顎前歯が後退しているアングルII級2類症例)および叢生捻転症例で咬合挙上を必要とすると思われる症例などに,アンカレッジベンドとは別に犬歯の遠心部にバイトオープニングベンドを与える.アンカレッジベンドは固定大臼歯の固定と犬歯のバイトオープニングに働き,バイトオープニングベンドは中,側切歯のバイトオープニングとして働く.この両者のアンカレッジベンドとバイトオープニングベンドとで役割を分担させることにより,咬合挙上の力は中切歯にも確実に作用し中切歯,側切歯の圧下が確実にしかもほぼ同時に起きてくる.
咬合挙上の方法には,(1)大臼歯の挺出,(2)下顎前歯の圧下,(3)上顎前歯の圧下,(4)上顎歯槽骨の変形などの方法が考えられるが,顎間II級ゴムの強さをウルトラライトフォースにすることにより,上顎前歯および海綿骨を含めた上顎歯槽突起をゆっくりと変形させることが可能になり,バーティカルディメンジョンを良好にコントロールし,咬合平面のカウンタークロックワイズローテーションを生じさせるような矯正治療が,後戻りあるいはgummy face(ガミーフェイス)の防止のために重要である.最近ではアーチフォームが日本人用のカウンターフォース用(カーブオブスピー,リバースカーブオブスピー)のNi‐Ti形状記憶型ワイヤー(.016", .016"×.016", .018"×.018", .020"×.020")も市販されbite opening bendやanchorage bendの付与もすでにされているので使用すると便利である.とくに角ワイヤーのカーブオブスピーNi-Tiは咬合挙上が速やかに行われてゆく.
また,SN to Mdの値が小さいロウアングルの上顎前突などの症例は顎間II級ゴムによる固定大臼歯の挺出量も小さく,したがって大きなオーバーバイトは上下顎切歯の確実な圧下により行われなければならないので咬合挙上にかなりの時間を要する.これに対してハイアングルの上顎前突症例では顎間II級ゴムによる固定大臼歯の挺出畳も大きく,上下顎切歯の圧下はあまり起こらなくてもバイトオープニングがなされた状態を呈するので期間が少なくて済む.しかしバイトオープニングは固定大臼歯の挺出によるところが大きいのでオーバーバイトは術後後戻りしやすい.バイトオープニングベンドの妥当な角度は中切歯と犬歯の垂直被蓋(オーバーバイト)の大きさによって異なってくる.べッグ法における咬合挙上ほ歯根の2/3を覆っている歯根膜線維(オブリークファイバー)が弱くて持続的な力がアーチワイヤー,顎間II級ゴムによって加えられると支点から根尖側の唇側と支点から切端側の舌側の歯根膜が圧縮され,支点付近の歯根膜線維を除いてすべての歯根膜線維が分離状態となる.まず舌側方向への傾斜移動が起こりそれにつれて歯の移動の支点が移動するにつれて,今まで支点であった部分の歯根膜線維のェ離状態となるに十分な牽引,圧縮力を受ける.しかしその力は持続的で弱い力であるので,持続的な歯の移動となり歯根膜全域が傾斜移動が完了するまで歯根膜線維は分離状態となり再付着されずこれにアンカレッジベンドによる圧下力が持続的に作用するので圧下現象ならびに傾斜移動が起こり続ける.
いずれにしても臼歯部の挺出,下顎切歯部の圧下によって行われた咬合挙上は後戻りの傾向が比較的強く,長期的には再度の咬合閉鎖を招きやすいと考えられ,可及的に上顎前歯部の圧下によって行われるのが望ましい.なお,多数歯の喪失や歯ぎしりによる異常な咬耗などに伴う咬合高径の減少を補綴的に解決することを咬合挙上ということもあるが,矯正領域におけるそれとは区別される.