咬耗
- 【読み】
- こうもう
- 【英語】
- attrition
- 【辞典・辞典種類】
- 歯科矯正学事典
- 【詳細】
- 咀嚼運動や臼磨運動などの日常的な機能を営むことによりエナメル質や象牙質に摩耗が起こる現象である.咬耗の進行過程は食生活の内容や咬合力の影響,ブラキシズムの有無により変化する.咬耗は前歯部で切縁,臼歯部で咬合面にみられることが多く,とくに乳歯では著明な咬耗が生理的に起きる.歯の大きさや形は遺伝によって決定されるが,日常生活による加齢的な咬耗によって個性的な安定した咬合を得る.この咬耗の過程をマーフィー(Murphy,1959)は7段階に分けた.一般的な咬耗の過程は次のようになる.
1)第一大臼歯が萌出を行い咬合を営む.
↓
2)下顎第一大臼歯近心頬側咬頭が咬耗する.
↓
3)上顎第一大臼歯の舌側咬頭が咬耗する.
↓
4)中切歯切端が咬耗する.
↓
5)犬歯尖頭が咬耗する.
↓
6)結果としてモンソンカーブは逆になる.
咬耗は咀嚼運動の仕方や食物の形状により,咬合面ばかりでなく隣接面の摩耗により歯の形状や咬合に変化を起こし,スピーの彎曲(curve of Spee)を平坦化する.また,咬耗には垂直的咬耗と隣接面部の水平的咬耗がある.垂直的咬耗は歯の連続的な垂直方向への萌出により代償される.水平的咬耗は歯冠近遠心幅径の減少に伴う歯の近心移動を生じる.このような経過を経て関節窩,下顎関節頭,関節円盤等をも含めたバランスの良い咬合関係をつくり上げていくことを咬合のダイナミックプロセスという.しかし最近では加工食品などの柔らかい食べ物が好まれ,臼磨運動を行わなくなっていることの影響が現れている.これをマーフィーは咬耗の悪循環とよんでいる.
【咬耗の悪循環】
咬耗をしない.
↓
咬頭が残る.
↓
咬合の固定化が進む.
↓
臼磨運動の制約を受ける.
↓
咬耗をしない.
成長期では機能や形態に対して多少の不都合が生じてもある程度順応できる.しかし成長発育の終了後において引き続くと,いわゆる叢生や捻転を主とした不正咬合により顎関節症を生じる可能性が増加する.