歯根膜線維
- 【読み】
- しこんまくせんい
- 【英語】
- principal fibers of periodontal ligament
- 【辞典・辞典種類】
- 歯科矯正学事典
- 【詳細】
- 歯根膜線維の概念はセメント質に固着し,そこから伸びて広がり,歯槽壁に固着されたり歯肉結合組織などの組織に入りこんで歯の正しい位置を維持する主線維であるといわれている(Black,1887).その主体はコラーゲン原線維で,大量のI型コラーゲンと少量のIII型コラーゲンを含んでいる.主線維の走行は部位によって異なり,Kronfeld(1936)は配列形式から次のように分けた.
1)歯槽頂線維:歯頸部や歯槽上歯根部(セメント-エナメル境と歯槽骨頂の間の部分)から歯槽骨頂へ走行している線維.
2)水平線維:歯根膜腔の入り口に存在し,歯槽骨頂よりわずかに根尖よりの位置でセメント質から歯槽骨へ向けて水平に走行している線維.
3)斜線維:最も多い線維で歯根膜線維全体の2/3を占める.セメント質から歯槽骨へ歯冠方向に斜めに走行し,歯槽骨内よりもセメント質により多く入りこんでいる.
4)根尖線維:根尖部のセメント質から歯槽底周囲の壁に向かって,ほぼ垂直に放射状に走行している線維.
5)根間線維:複根歯の分岐部のみに存在し,セメント質から根間歯槽頂部へ放射状に走行する線維.
これらのコラーゲン線維はセメント質と歯槽骨の両方に入りこんで歯根膜線維を支持固定している.この硬組織内に埋入した線維の末端部はシャーピー線維(Sharpey’s fibers)とよばれる.歯根膜の機能は歯を歯槽内に植立し,咬合時のショックをやわらげる機能や血管を介して栄養を供給する機能がある.また,骨膜のような形成機能を有し,矯正力が歯に加わると歯根膜の圧迫側においては組織が変性し肉芽組織で満たされ,そこに膠原線維が新生されて歯根膜の線維構造が再形成される.牽引側では歯根膜は伸展され,その線維束に沿って骨の新生が起こる.一方,歯根膜線維のもつ弾力性やその走行が歯の移動の難易性や移動後の後戻りに深く関わることもよく知られている.たとえば上顎前突,過蓋咬合などの治療の際に行われる前歯部の咬合挙上には比較的長期間を要するが,これは基本的に咬合力の加わる方向への移動(圧下)であるために,歯根膜線維(なかでも斜走線維)が強い抵抗を示すことによると考えられており,また捻転歯が治療後に後戻りしやすいのは伸展した歯間水平線維の再配列に長期間を要することが関与しているといわれる.いずれにせよ程度の差はあるとしても,歯根膜線維はあらゆる移動様式の矯正力に対して抵抗を示し,また移動後の後戻りに影響を与えるとみてよい.後戻りの対処法としては保定に加えて線維束の過度の伸展を目的としたオーバーコレクション?一般的な方法といえるが,時に必要に応じてセプトトミーによる伸展した線維束の離断が図られることもある.