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唇顎口蓋裂

【読み】
しんがくこうがいれつ
【英語】
cleft lip and palate
【辞典・辞典種類】
歯科矯正学事典
【詳細】
 先天的に口唇,歯槽突起,口蓋の一部あるいは多部位にわたって破裂を生ずる奇形で,一次的障害として審美障害,摂食障害,言語障害,二次的障害として聴覚障害,心理的障害などを起こすものである.近年は治療法の進歩によって適切な処置を受ければ,一次的障害はほとんど改善されるようになったが,未だ本疾患に継発する障害は多く,治療にあたっては,現在も多くの問題を残している.出現頻度はおおよそ新生児500人に1人の割合(唇裂は新生児1500人に1人,口蓋裂は新生児2500人に1人の割合)であり,口蓋裂は女性に多いが,唇裂では性比にルとんど差がない.
【分類】唇顎口蓋裂の診療に多大の貢献をなしたベアウ(Veau,1931)は,口蓋裂を中心として次のように分類している.(1)軟口蓋裂,(2)硬軟口蓋裂,(3)一側性完全口蓋裂,(4)両側性完全口蓋裂
完全口蓋裂は,歯槽突起から口蓋垂にいたる裂を伴うとしている.この分類は,現在唇顎口蓋裂といわれているものを完全口蓋裂としており,口蓋の範囲が不明瞭であること,また口蓋裂を伴わない口唇裂を取り上げないなどの難点がある.そこで現在は一般的に次のように分類される.
1)口唇裂:口唇のみに裂のみられるもの;(1)片側性(左,右),(2)両側性
2)唇顎裂:口唇と歯槽突起に裂のみられるもの;(1)片側性(左,右),(2)両側性
3)口唇口蓋裂:口唇と口蓋に裂のみられるもの;(1)片側性(左,右),(2)両側性
4)顎口蓋裂:歯槽突起と口蓋に裂のみられるもの;(1)片側性(左,右),(2)両側性
5)唇顎口蓋裂:口唇,歯槽突起,硬軟口蓋に裂のみられるもの;(1)片側性(左,右),(2)両側性
6)口蓋裂:(1)硬軟口蓋裂(口蓋および軟口蓋に裂のみられるもの),(2)軟口蓋裂(軟口蓋のみに裂のみられるもの),(3)口蓋垂裂(口蓋垂に裂のみられるもの),(4)粘膜下口蓋裂(口蓋に明らかに裂のないもの)
7)正中唇裂など:これをさらに裂の程度により,完全,不完全,痕跡に分けることもある.裂型別の頻度は,唇顎口蓋裂が最も多く,次いで口唇裂,口蓋裂の順になっている.左右別では,左側が右側よりも多く,片側性が両側性よりも多いとされている.
【成因】
1)組織癒合不全説:発生過程に何らかの原因で顔面,口腔を形成する突起の癒合が障害されるかあるいは一度癒合した突起が再び離れてしまった結果,破裂が生ずるという説.
2)中胚葉塊欠損説:口窩の上方の上皮壁内にある中胚葉が発育しないために生ずるという説.
3)上記に1),2)の折衷説.
【原因】
1)環境的要因:(1)薬物;制癌剤,免疫抑制剤,ステロイドホルモン,精神安定剤など,(2)母体の疾病;風疹などのウイルス感染など,(3)機械的外因;胎児に対する異常な圧迫や牽引力,(4)栄養障害;ビタミンA,パントテン酸および葉酸,リボフラビンの欠乏および酸素欠乏,(5)精神的影響
2)遺伝的要因
【形態的特徴】
1)上顎骨の発育不全
2)上顎歯槽の歪み
3)歯の異常(歯数の異常,歯の形成不全)
4)下顎の異常(形態的異常,位置の異常)
5)側貌上の特徴:(1)中顔面の陥凹,(2)反対咬合,(3)下顎の前方突出
6)頭蓋,顎の特徴:(1)N-S(前頭蓋底),S-Ba(後頭蓋底)の実長が小さく,N-S-Baの角度が大きい.(2)上顎は増齢的に後方位をとり,下方向への成長は少ない.(3)Ramus hightは小さい.(4)Gonial angleは大きく,下顎の下方向への回転がみられる.(5)下顎下縁角が急傾斜である.
7)咬合上の特徴:(1)上顎中切歯高の短小,(2)上顎前歯の舌側傾斜と捻転,(3)下顎前歯の舌側傾斜,(4)下顎中切歯高の増大,(5)安静空隙の増加,(6)歯の先天欠如,過多,形態異常,(7)上顎歯列弓の長径,幅径の短小狭窄,(8)裂側の顎堤の著しい舌側傾斜