ディスプレースメント
- 【読み】
- でぃすぷれーすめんと
- 【英語】
- displacement
- 【辞典・辞典種類】
- 歯科矯正学事典
- 【詳細】
- ディスプレースメントとは,下顎閉鎖路が下顎安静位から始まり中心咬合位に至るまでの間に咬合の不調和により発生する下顎の変位で,スムーズでないものをいう.歯の亀裂や疼痛,歯周組織の損傷を伴うことが多い.ディスプレースメントには側方でのものと矢状方向でのものとがある.
1.側方でのディスプレースメント:しばしば片側性の交叉咬合にみられ,とくに正中のズレがある場合には側方へのディスプレースメント(lateral displacement)の存在を疑うべきである.ディスプレースメントを伴う片側性の交叉咬合では矯正装置により上顎歯列弓を対称的に拡大し,咬合の障害(咬頭干渉)を早期に除去しておく必要がある.
2.矢状方向でのディスプレースメント:矢状方向におけるディスプレースメントは切歯における早期接触を原因として起こることが多く,しばしば下顎の咬み込みすぎ(overclosure)を伴う.
1)前歯部におけるディスプレースメント
(1)切歯が切端咬合となるような中等度のアングルIII級症例では,側方歯群を咬合させるために下顎を前方に変位させる.これは乳臼歯の早期喪失によって起こる習慣的III級咬合の場合がほとんどであるが,なかには乳歯の早期喪失がまったくみられない症例でも起こることがある.中等度のマイナスのオーバージェットとプラスのオーバーバイトを有する症例では切歯が容易に切端咬合となりうるかどうか診査し,切端咬合が可能であれば早期に矯正治療を始めるべきである.
(2)上顎側切歯が舌側転位しており下顎切歯の舌側で咬合している場合にも前歯部でのディスプレースメントは起こる.この場合,ディスプレースメントの量は比較的軽度であり,咬み込みすぎの状態はみられない.他のディスプレースメントと同様に,変位された位置で側方歯群の咬合が確立する以前に咬頭干渉を早期に改善しておくべきである.
2)臼歯部におけるディスプレースメント
臼歯部におけるディスプレースメントは抜歯により後方の支持を失った場合に最もよくみられ,しばしば下顎の咬み込みすぎや筋の疼痛を伴うことがある.この場合,後方歯の修復を行うことにより咬み込みすぎもディスプレースメントも改善される.このようなディスプレースメントは歯の萌出期間を通して長期にわたって形成されることが多いため,可能な限り早期に,咬合の発育の間に咬合の不調和を改善することが賢明な方法である.咬耗していない乳犬歯や咬合平面より挺出している乳犬歯では,何か形態的,機能的問題が存在するかまたはそれが発現する兆候を示すということを疑ってみることがきわめて大切である.
→デビエーション,下顎の習慣的位置