専門情報検索 お試し版

頭部の成長発育

【読み】
とうぶのせいちょうはついく
【英語】
growth and development of cranium and face
【辞典・辞典種類】
歯科矯正学事典
【詳細】
 頭蓋は脳髄を包含する脳頭蓋(頭蓋骨)と顔面を構成する顔面頭蓋(顔面骨)とからなる.脳頭蓋は前頭骨,頭頂骨,後頭骨,側頭骨,蝶形骨,篩骨,下鼻甲介,涙骨,鼻骨,鋤骨の10種,顔面頭蓋は上顎骨,口蓋骨,頬骨,下顎骨,舌骨の5種から構成されている.脳頭蓋のうち前頭骨,側頭骨,頭頂骨,後頭骨,蝶形骨,篩骨の一部は脳を覆う骨かごを作るが,この半球形の上方にふくらんだ部分を頭蓋冠,底の部分の脳頭蓋と顔面頭蓋との境の部分を脳頭蓋底とよぶ.脳頭蓋は神経系型の成長発育を示し幼年期までにその大部分を形成する.顔面頭蓋の成長発育は一般型に属しその成長発育の曲線はシグモイド曲線を描く.脳頭蓋と顔面頭蓋(上顔面頭蓋,下顔面頭蓋)の比率も年齢の増加とともに異なり,年齢0歳では8:1,6歳では5:1,成人になると2:1となり出生以後は顔面頭蓋の成長する割合が大きくなる.上顎骨と下顎骨はともに一般型に属する成長発育曲線を示すが,上顎骨は脳頭蓋底に直接付着して一体となっているため,脳頭蓋の成長(神経系型)に類似した一般型の成長曲線を示し,これに対して下顎は上顎よりも一般型の成長発育曲線に似た曲線となる.したがって,思春期性の成長発育の場合は上顎よりも下顎で明確となる.
1.脳頭蓋の成長発育:脳頭蓋の成長発育は頭蓋冠の成長発育と脳頭蓋底の成長発育とに分けられる.脳の成長発育は神経系型に属すので,脳頭蓋の成長発育は乳幼児期で旺盛でとくに出生後1~2年が最も盛んである.また6歳ごろには成人の脳頭蓋量の90%以上を占めるようになる.
1)頭蓋冠の成長発育:脳を覆い脳を保護している頭蓋冠の成長発育は,脳頭蓋底よりも脳の成長発育の影響を大きく受ける.頭蓋冠の大きさの増加は主に縫合部での結合組織の増殖と化骨や骨の表面や内面で起こる添加と吸収(骨膜性化骨)により成長発育する.頭蓋冠の幅の増加は,矢状縫合,前頭縫合の部分で行われ,高さの増加は骨の表面への添加と頭頂骨,側頭骨,後頭骨および蝶形骨の接する縫合部が関与する.
2)脳頭蓋底の成長発育:脳頭蓋底は主に脳(神経系型)の成長発育をするが,顔面頭蓋との境に位置することから部分的に顎顔面の成長発育つまり一般型の成長発育の影響も受ける.また上顎骨や下顎骨の成長発育に影響されるとともに,影響を与えるといわれている.脳頭蓋底は蝶形篩骨軟骨結合,蝶形骨間軟骨結合および蝶形後頭軟骨結合での軟骨の成長によって,その前後径を増大させるがこれらのうち蝶形骨間軟骨結合部での成長は出生時に消失し,後頭骨内軟骨結合は3~5歳で停止する.頭蓋底の成長に寄与する2つの主な軟骨結合は,蝶形篩骨軟骨結合と蝶形後頭軟骨結合である.蝶形篩骨軟骨結合は生後約7年で化骨する.したがって,それ以後は頭蓋底の前方での前頭骨の成長発育があり,また蝶形後頭軟骨結合では18~20歳ぐらいまで活動がみられるので,頭蓋底の後部の成長発育をみることができる.
2.顔面頭蓋の成長発育:顔の成長発育も成長(グロース;大きさの増加)と発育(デベロップメント;分化と成熟)とが同時に,しかも互いに独立して起こる.成長の割合が早められる時期を“スパート(spurt)”という.逆に,成長の割合が少なくなる時期を“平坦期(plateau phase)”という.出生後の顔面の成長発育には2つのスパートと2つの平坦期がある.第1番目のスパートは5~6歳までであり,第2番目は思春期をはさんで思春期前と思春期間中である.平坦期は第1と第2番目のスパート以後にある.
1)出生前(胎生時)の顔の形成
(1)顔の形成:顔の発生は胎生3週頃に口窩とよばれる浅い外胚葉性陥凹の形成が始まる.胎生の4週半までに口窩は周囲に隆起群(前頭隆起,上顎突起,下顎突起)を形成する.胎生5週中に外側および内側鼻突起が生じ,のちに鼻窩とよばれる陥凹の底をなす鼻板を取り囲む.外側鼻突起は鼻翼を形成し,内側鼻突起は一次口蓋全体だけでなく鼻の正中部,上唇の正中部を形成する.胎生7週間頃には上顎突起は内側に成長しつづけ,内側鼻突起を正中線に向けて圧迫し,その後突起同士が互いに癒合する.上唇は2個の内側鼻突起と2個の上顎突起とで形成される.外側鼻突起は上唇の形成に関与しながら鼻翼を形成する.上顎突起は下顎突起ともわずかの距離だけ癒合する.その結果,頬が形成され口の大きさが決まる.下顎は第5週から第8週まで正中で突起が癒合し,胎生の第12週目までに眼瞼や鼻孔が形成される.
(2)口蓋の発育:口蓋の発育は次の3つの過程より成る.
(1)口蓋を構成する成分ができること:胎生5週頃内側鼻突起から切歯部の口蓋(一次口蓋)が生じる.胎生6週頃両側鼻突起からそれぞれ口蓋突起の形成が生じる.
(2)側方の口蓋突起が垂直位から水平位をとると同時に舌の上に位置すること.
(3)胎生8週頃には口蓋突起が癒合して二次口蓋を形成し,一次口蓋(内側鼻突起からの内側口蓋突起)と癒合する.
2)出生後の顔の成長発育:増齢的に数多くの形態的特徴や変化が顔面頭蓋に起きてくる.顔の大きさの増加だけでなく,種々の割合で成長していくこのことを,ディファレンシャルグロース(differential growth)という.一般的に頭が最初に完了し,次に顔の幅,最後に顔の長さと深さの順に完了していく.
(1)顔の高さ:顔の高さは一般的には3歳までに約73%は成長が完了する.その後,ストラッツ(Stratz)によると第1の成長のスパート(5~7年)と思春期のスパート(11~15年)との間の平坦期にさらに16%が成長し,残りの11%の増加は思春期成長のスパートの間に起こる.顔の高さは一般的には,男子のほうが女子よりも大である.また後顔面高(下顎頭から顎角部まで)の全顔面高に占める割合は年齢とともに増加する.すなわち顔の後方部分は前方部分よりも比較的大きく増加し,結果として下顎下縁平面の傾斜は増齢的にゆるやかになる.矯正治療を行ううえで顔の高さについて注目すべき点は,全顔面高の少なくとも70%が3歳までに完了し,85~90%が一般的に矯正治療を受ける年齢の10歳までに完了してしまうということである.
(2)顔の幅:顔の幅には上顔幅(頬骨弓幅)と下顔幅(顎角間幅径)とに分けられる.このうち上顎幅の計測は頬骨弓の外側面の間の最大幅径を示すものであり,もう1つの下顎幅の計測は1966年メレディッシュ(Meredish)によると(1)外皮の両顎角間距離として,あるいは(2)骨格上の両顎角のレントゲン上で計測される.上顎幅は2歳時にすでに成人の大きさの70%が完成され,10歳時では90%が形成されている.下顎幅は主に出生後5年の間に成人時までの下顔面幅の増加量の66%が形成される.そして第一大臼歯萌出時期までには85%が完了する.上顎幅に対する下顎幅の割合はわずかに増加する傾向にある.また,上顎幅と上顎歯列弓の幅との間,下顎幅と下顎歯列弓の幅との間には相関関係はない.
(3)顔の深さ:顔の深さは矯正学上,不正咬合において前後的方向での異常要素をもつことが多いことから重要である.顔の深さは上顔面部,中顔面部,下顔面部の3つに分けられ,3歳で上顔面部が成人量の80%,中顔面部が77%,下顔面部が69%それぞれ成長をすでに完了している.5~14歳までに上顔面部の深さは15%増加し,中顔面部は18%,下顔面部は22%増加していく.すなわち下顔面部が深さでは中顔面部よりもより多く成長し,中顔面部は上顔面部よりも多く成長する.また,下顔面部は中顔面部よりも下前方により速く成長し,中顔面部は上顔面部よりも速く成長していく.したがって,小児の凸型の側貌は成長とともに直線的な側貌となっていく.
→臓器発育曲線,口蓋裂