専門情報検索 お試し版

鼻上顎複合体の成長発育

【読み】
びじょうがくふくごうたいのせいちょうはついく
【英語】
growth of nasomaxillary complex
【辞典・辞典種類】
歯科矯正学事典
【詳細】
 上顎骨,さらに適切にいえば鼻上顎部分は一連の骨や各領域によって構成される複合体である.この部分には鼻腔,上顎洞,眼窩底と上顎歯列弓と上顎複合体に付属した突起(前頭突起,歯槽突起,口蓋突起,頬骨突起)ならびに口蓋骨,鼻骨などが含まれる.上顎には4つの主な縫合部(前頭上顎縫合,頬骨上顎縫合,頬骨側頭縫合,翼突口蓋縫合)が互いに平行に存在し,同じ前下方へ走行しているためにこの縫合部の成長は上顎複合体の前下方への移動に重要な役割を果たす.したがってそれら縫合部における骨形成,後上顎結節部における骨添加,歯槽部における骨添加,骨全体における骨の吸収,添加機序によって骨の改造を行いながら脳頭蓋に対して前下方に成長する.また,上顎骨の幅の成長には主に正中口蓋縫合,その他,蝶形骨翼状突起,篩骨上顎縫合,涙骨上顎縫合,頬骨縫合,鼻骨縫合と上顎骨側壁の骨の添加性発育が関係している.上顎の成長の時期は10歳ごろまで各縫合部での成長が盛んであり,とくに2~3歳ごろが一番成長量が多い.その後10歳ごろからは骨の表面添加,歯槽部での成長が主体をなすようになる.
【上顎骨における成長発育】
1)上顎歯列(槽)弓
(1)上顎結節部への添加(上顎外側唇面骨皮質の吸収と内側舌側骨皮質の添加)により歯槽弓の長さが増加すると同時に遠心に移動する.
(2)歯槽の唇側の吸収,舌面への添加により歯槽弓が後方に移動する.
(3)頬骨突起より後方における歯槽の唇側への添加により歯槽弓(後縁)の幅が拡大する.
(4)歯の萌出に伴う歯槽突起への骨添加により上顎複合体の高さが増大する.
※(1)~(3)はエンローのV原理(Enlow’s “V”principle)に準じた成長発育の様相を呈する.
2)口蓋:口蓋弓は垂直的にV字形を呈する.骨の添加は口蓋窩内面全面に起こり,同時に反対側が吸収される.この反対側は鼻腔底部でもあるので口蓋が下方へ移動すると同時に鼻腔も下降し,周囲の上顎骨と鼻腔は垂直的に拡大する.すなわちエンローのV原理に基づいて内面は添加性,外面は吸収性である.
3)切歯部付近:外側唇面での吸収,内側舌面への添加により切歯部は下後方に移動する.
4)頬骨突起:上顎がその後端で添加成長により長さが増加すると頬骨突起は後方ならびに側方に移動する.前面の骨の吸収と後面の骨の添加が起こり,前面が側面へ移行すると骨吸収は終わり,外面に骨の添加が起こる.その反対の側面は吸収性である.後方への頬骨突起の移動の結果,成長している上顎結節部,眼窩,鼻ならびに頭蓋底に対する頬骨弓の相対的位置が一定に保たれ,頬骨の側方移動により面の添加と内側面の吸収により頬骨突起は後方ならびに側方移動により顔の幅が広くなる.
5)鼻部付近:鼻の部分は上顎骨の前頭突起と隣接する鼻骨より成っており,側方,前方,上方の三方向が外側に面している.これらの表面は骨添加性が特徴であり,また内面では骨の吸収を伴う.鼻壁外面への骨の添加により鼻全体が前方に移動し,鼻腔が拡大し,鼻そのものの深さが増加する.
6)眼窩底部:眼窩底は主に上顎骨によってつくられている.この部分の骨は単一の皮質により構成される非常に薄い骨で中間層は存在しない.表面の添加,内面(上顎洞上面)の吸収により骨は側方,上方,前方に移動する.眼窩底の側方への成長により眼窩が互いに離れ,鼻腔の幅を増大させる.