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マルチブラケット法

【読み】
まるちぶらけっとほう
【英語】
multibracket method
【辞典・辞典種類】
歯科矯正学事典
【詳細】
 マルチブラケット装置を用いて行う矯正治療法をいう.マルチブラケット装置とは,多数歯にブラケットおよびバッカルチューブを装着し,アーチワイヤーの弾性やゴムなどの付加物の力を利用して三次元的な歯の移動を行う装置の総称で,ブラケットやバッカルチューブを直接歯に接着して用いる.また,ブラケットやバッカルチューブを溶接したバンドをセメントにて合着して用いるものは全帯環装置とよばれる.歴史的には,アングル(Angle,E.H.)が1899~1907年に歯弓拡大線装置,1912年に釘管装置,1916年に紐状装置(現在のベッグブラケットの原型)を発表し,1928~1929年に新紐状装置(現在のエッジワイズ装置の原型)として完成させたことに始まる.その後,ツイード(Tweed,C.H.),ブル(Bull,H.L.),ベッグ(Begg,P.R.)らが抜歯論を立証したことにより本治療法の適応症は飛躍的に拡大した.
本法の長所は,歯軸の三次元的なコントロールが可能,精密な咬頭嵌合が得られる,治療期間が短い,永久歯列期の症例に効果を発揮するなどがあるが,外観上難がある,口腔清掃が行いにくい,治療に熟練が必要である,混合歯列期に治療を行えない症例もあるなどの短所がある.本法の代表的なものには,横長のブラケットを用いて主に歯体移動を行うツイード法をはじめとするエッジワイズ法や,縦長のブラケットを用いて弱い力により主に傾斜移動を行うベッグ法,さらにエッジワイズ法とベッグ法の特徴を調和させたジャラバック法やKBテクニックなどがある.また,ブラケットスロットに三次元的な傾斜をつけたストレートワイヤー法などが発表され,ワイヤーベンディングの必要性が少なくなった.さらに,セラミックやグラスファイバーを用いた透明または白色の各種ブラケットやリンガルブラケット装置が開発され,審美的に優れた装置が使用できるようになっている.1990年代に入り形状記憶合金を用いた既製のワイヤー(Ni-Ti wire)が主流を占めることにより,ワイヤー屈曲が殆ど行われなくなり,現在ではマルチブラケット法は従来からのワイヤーを主として屈曲することによって歯を移動する方法(1980年代までの)と,ワイヤーの屈曲は殆ど行わずワイヤーをレールとして歯を移動させて歯牙移動する,いわゆるスライディングメカニックス応用のマルチブラケット法(1990年以降)として分類する方式も行われている.