リップバンパー
- 【読み】
- りっぷばんぱー
- 【英語】
- lip bumper
- 【辞典・辞典種類】
- 歯科矯正学事典
- 【詳細】
- リップバンパーはアメリカで1950年代からリップガード(Renfroe),アクリックラビアルアーチ,リップハビットアプライアンス(Graber)などの名前で報告されていたが,1966年にSubtelnyらによりリップバンパーとして発表された.本装置は下口唇の筋力が強いために下顎の前歯部の平坦化や叢生を生じたり,さらに舌側傾斜が生じている場合,下口唇の過度の筋力が歯列に加わらないように排除する目的で使用する装置である.
1.基本的構造
1)帯環:装置を口腔内に維持する際,固定源の歯に密着させるもの.
2)頬面管:帯環に鑞着または電気溶接し,唇側線と帯環を連結するとともに口唇による機能的矯正力を固定歯に伝える.
3)唇側線:0.9~1.2mm線のワイヤーからなり口唇部の筋の排除に間接的に働き,また機能的矯正力の伝達路となる.
4)唇側線止め:唇側線が回転移動しないように頬面管の前でとりつけられる垂直ループで唇側線の調節にも利用できる.また垂直ループをつけず頬面管の遠心部で鑞着することもある.
5)バンパー:パッドともよばれ直接的には口唇の排除を行い,口唇による機能的矯正力を伝える.レジン製のものやワイヤーの屈曲によるものがある.
2.作用機序および使用目的:本装置の主な作用機序は下口唇の異常機能圧の排除と,この機能圧を利用して矯正力を得ることである.
1)下口唇の機能圧の排除:本装置を上下前歯部と下口唇の間に介在させることにより,上下の前歯部に加わる下口唇の異常な機能圧を排除する.これにより上顎の前歯の舌側移動は容易となり,下顎前歯は舌圧により自然にあるいはほかの矯正装置との併用で唇側に移動でき,短期間にオーバージェットが改善される.さらに,オーバージェットが大きい症例にみられる口唇の悪習癖を未然に防ぐことになり動的治療期間の短縮が期待できる.
2)下口唇の機能圧の利用:上下前歯部と下口唇の間に介在する本装置は,下口唇の機能圧を直接受けることになり装置自身を介して下顎大臼歯に伝えられ,これが機能矯正力になる.
(1)リップバンパーが下顎の前歯の唇面から離れていれば,下口唇の圧は装置を介して下顎大臼歯に伝えられ,これを遠心に移動する力となる.
(2)固定源の加強として:リップバンパーが下顎前歯の唇面に密着し,舌側より舌側弧線装置で下顎前歯が保持されていれば,II級顎間ゴムを使用する際に,その固定源となる下顎第一大臼歯の近心移動を防ぎ加強固定となる.
3.特徴:通常一定の口唇の筋訓練を行わないと上口唇は筋の緊張が低下した状態にあるので,上唇部のリップバンパーに加わる力は少ない傾向にある.これに対し,下顎ではオトガイ筋が強い緊張を示し,大きなオーバージェットの中に下口唇が入り込むことがあり,一般的には下顎用のリップバンパーがより効果的であるといわれてる.
→機能的顎矯正法(機能的矯正法)