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2024年1月号掲載

第8話:歯科ができる災害支援

※本記事は、「新聞クイント 2022年9月号」より抜粋して掲載。

災害支援で学んだ普段からの準備の大切さ

 本年8月は北日本を中心とする記録的な大雨により、被害があいついでいます。日本は地震だけでなく大雨による災害リスクがつねに身近にあることからも、まさに災害大国といってもよいでしょう。
 今回は、私がかかわった災害支援についてご紹介させていただきます。私は、これまでに「東日本大震災」「熊本地震」「ネパールの医療支援」などの活動に参加してきました。
 被災地では、近年は段ボールベッドが配備されることも増えてきましたが、まだまだ特定の場所に限られているようです。避難所の中には床に布団を敷いて寝たり、靴を脱がずに生活区域まで行ったりするところもあり、砂ぼこりなども立ちやすく、衛生状態が悪くなります。また、人口密度も高くプライバシーの確保ができない環境です(図1)。そのような環境下では、口腔ケアをしっかりと行っていただくことが重要です。とはいえ、避難所の洗面台の数は限られていますし、大切な水が止まっていることもあるため、水がなくても口腔ケアが行えるよう準備しておく必要があります。
 災害はいつ起こるかわかりません。就寝時に義歯を外している方が避難の際に義歯を自宅に置いてきてしまったというケースも少なくありません。そして高齢者の中には咀嚼が難しい方や嚥下障害を抱えている方もいるので、その方々の口腔状態を考慮した非常食の準備が大切です。訪問診療で摂食嚥下障害の方がいる場合には時には非常食の準備など、お声掛けをいただくことも有効かもしれません。

図1 当時、私が支援にかかわった避難所の様子。

歯科ができる「食べる」の支援

 避難所で配給される食事は、パンやおにぎりなどの主食となるものがほとんどですので、特に高齢者は気をつけていただきたいです。肉や野菜はなかなか摂ることができませんので、野菜ジュースやプロテインなどを利用した低栄養への対策も大切です。
 そして避難所生活は、身体を動かさないことが多く、人との会話などの社会的なかかわりも減ります。これらは、生活不活発病を引き起こし、近年は一般的にフレイルといわれています。避難所には、低栄養、活動量の低下といったフレイルの原因と隣合わせです。そうならないためにも、歯科としては災害時の口腔ケアを含めたオーラルフレイルの予防や栄養への対策、そして普段からお口の健康に関する情報発信に努めていただきたいと思います。

言語聴覚士にできる災害に備えた支援

 摂食嚥下障害の方は、配給のパンやおにぎりなどは食べづらいことが多いので、普段の外来や訪問の際に、レトルトの嚥下調整食、補助栄養食品などの備蓄をすることや普段からそのようなものに食べ慣れてもらうようなアドバイスをしています。
 言語聴覚士は摂食嚥下障害以外にも、コミュニケーションや聴覚を専門としています。口腔機能に問題を抱えていたりする場合には音声によるコミュニケーションがとれないこともあります。そのような場合には、コミュニケーションボードが活用できます。
 たとえば、私は普段の臨床で、ALSなどで意思伝達装置を使用されている方にも、災害時に備えて透明の文字盤にも慣れておいていただくよう説明しています。また、発達障害をもつ小児の場合は、災害による心理的負担や睡眠障害、多動/衝動性・不注意症状の増加、感覚過敏性・常同行動・パニックの増加などがみられることもあります。さらに高齢者では難聴の方も多く、普段は補聴器を使用していても避難時に持ち出せなかった、電池がなくなってしまったなどの聴覚の問題を生じていることもあります。これは日常の歯科診療でも同じことがいえると思いますが、歯科医師とともに治療や支援に入る際に、言語聴覚士がこのような点に配慮できることで、スムーズな治療や支援ができると感じています。