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2022年8月6日

認知症と口腔機能研究会第3回学術集会がWeb配信にて開催

「医科歯科連携による認知症に対する新たなアプローチ」をテーマに

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 さる8月6日(土)、7日(日)の両日、認知症と口腔機能研究会第3回学術集会(神奈川歯科大学運営、木本克彦学術集会長、窪木拓男会長)が、「医科歯科連携による認知症に対する新たなアプローチ」をテーマにWeb配信にて開催された。同研究会は2018年設立。「基礎医科学と臨床歯科医学との緊密な融合により、口腔機能の障害や低下が認知症の危険因子となり得る神経・細胞基盤の動態を解明するとともに、口腔機能の維持やその障害の早期の回復が認知症の予防や改善につながる可能性を明らかにして、人々の健康の維持増進を図り、多職種連携のもとに社会に貢献すること(Webサイトより)」を目的に、医科・歯科の基礎および臨床の立場から多数の研究者が参加しているもの。今回は2019年8月、2021年8月に続く第3回目の学術集会となった。

 初日にはまず、医科歯科連携シンポジウムが「認知症患者 600 万人の時代 歯科医療から認知症にどう取り組むべきか?」と題して行われ、「脳機能・口腔疾患医療センターコンソーシアム構想の具現化」と題して鹿島 勇氏(神歯大理事長)が、「認知症専門医による医科歯科連携の必要性」と題して眞鍋雄太氏(同大認知症・高齢者総合内科)が、そして「認知症予防/治療における統合医療の可能性」と題して川嶋 朗氏(同大統合医療学)がそれぞれ登壇。鹿島氏は大学経営の立場から、3年前から構想してきた「学校法人神奈川歯科大学 Medical and oral Health Scienceコンソーシアム構想」について主に解説。その構想の成果のひとつとして2023年3月に開設予定の「脳機能・口腔疾患医療クリニック」のコンセプトと狙いについて示した。さらに「インバウンド・コンソーシアム構想」として、羽田空港内の既存のクリニックおよびPET、SPECT検査で連携する提携病院との連携で、海外からの患者を受け入れるシステムを構築していくプロセスについても示した。また眞鍋氏は、導入としての症例提示、高齢者・加齢からの認知症への連続性、そして認知症への集学的治療介入の3点について解説。認知症性疾患治療には集学的治療と医科歯科連携が重要で、また特にアルツハイマー病に関しては治療の対象とされない段階からの歯科の介入が必要であるとした。そして川嶋氏は、統合医療の定義と、それぞれの療法や物質と認知症への効果について多数解説。統合医療の立場からは運動習慣や定期的な身体活動、聴力低下のケア、高血圧・糖尿病・肥満の予防、そして禁煙が認知症予防の基本であるとしたうえで、認知症予防と食事の相関係数についてや、各種サプリメントや食品の有効性、アロマテラピーや音楽療法、鍼灸といった幅広いジャンルの統合医療について検討した。

 続いての「医科歯科連携セミナー ECCO プロジェクト 進捗状況と今後の展開」では、「認知症と口腔機能の関連に対する医師・歯科医師の双方向型認識調査」と題して白石 成氏(東北大大学院歯学研究科口腔システム補綴学)が、「医科歯科連携に関するアンケート調査」と題して稲用友佳氏(医歯大咬合機能健康科学)がそれぞれ登壇。ECCOプロジェクトとは、Exploratory research project on the Correlation between Cognitive and Oral functionの略称であり、日本老年精神医学会・日本補綴歯科学会・日本老年歯科医学会・認知症と口腔機能研究会の4者が認知機能と口腔機能の相関に関するエビデンスを蓄積し、超高齢社会における健康寿命の延伸に寄与することを目指すもの。本プログラムではまず座長の笛木賢治氏(医歯大咬合機能健康科学)がECCOプロジェクトの概要について示した後、白石氏がECCOプロジェクトで2021年から2022年にかけて行われた双方向型アンケートのうち「患者に対する臨床経験について」と「口腔とのかかわりに対する考えについて」、そして稲用氏が「医科歯科連携について」と「回答者の情報について」それぞれ解説。そのうえで、医科歯科双方で連携の必要を感じており目標も一致していたこと、実際に情報を求められた経験は医師が半数、歯科医師が20%程度であったこと、また生活支援にまで踏み込んだ医師連携の機会はほとんどなかったことなどがまとめとして示され、今後は連携を深めるために歯科医師が認知症や認知機能への理解を深める必要があること、口腔と認知症・認知機能との関連を示すエビデンスを構築し、発信する必要があると述べられた。

 また、初日には一般口演として「口腔感覚入力はどのように咀嚼運動の制御に用いられるか? ―歯のタッピング運動時のfMRI機能結合解析―」(佐原資謹氏、東北大大学院歯学研究科歯学イノベーションリエゾンセンター)も行われ、非侵襲的にヒトの咀嚼・嚥下の制御にかかわる神経回路網の解析を追求してきた演者が「8020状態」「8000状態(無歯顎)」「8000+義歯」のそれぞれの状態でタッピング時のfMRI画像を示し、大脳皮質感覚野、運動野、運動前野、補足運動野、前頭連合野に加えて、帯状回、島皮質、視床、大脳基底核、小脳などの皮質下の部位での賦活状態の違いなどについて示し、咀嚼運動においても、末梢の感覚入力が、反射調節やパターン調節に加え、随意運動の開始・遂行、調節に重要な役割を果たすことが示唆されるとした。

 2日目の午前の招待講演1では「口腔と認知機能研究事始め及び将来展望」と題して小野塚 實氏(名古屋女子大・神歯大)が、招待講演2では「アルツハイマー病の疾患修飾療法最近の進歩」と題して岩坪 威氏(東大大学院医学研究科神経病理学脳神経医学専攻基礎神経医学教室)がそれぞれ登壇。小野塚氏は咀嚼と認知機能の関連を調べるための老化促進マウスを用いたwater maze testや、ヒトを用いたガム咀嚼時のfMRI解析の結果などについて示し、マウスが老齢期に噛めない状態に陥ると海馬の神経細胞変性や細胞死を引き起こす結果認知機能の減退を招くと考えられることや、ヒトにおいては硬いガムよりも中程度の硬さのガムのほうがfMRIシグナル強度が高くなること、およびガム咀嚼は扁桃体や前頭前野のストレス応答を抑制することなどについて多数のデータを基に示した。また岩坪氏は、アルツハイマー病のメカニズムに即した薬物療法や抗体療法の歴史と展望について解説。現在主流となっている抗認知症薬としてのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(アリセプト〔エーザイ〕ほか)はアセチルコリンエステラーゼの活性を阻害し神経末端のアセチルコリンの濃度を上昇させることで副交感神経を興奮させる対症療法で、認知機能低下のスピードを抑制するが神経の変性を止める効果はないこと、またアルツハイマー病の原因となるアミロイドβの産生・蓄積の抑制あるいはその除去を可能とする抗体の研究がかねてから続いており、2021年に米国で認可されたアデュカヌマブ製剤はその嚆矢となったが臨床的な効果はいまだ不十分であることなどについて述べたうえで、その他のアミロイドβ除去性抗体医薬の研究の進展や、より高い効果を目指すためのプレクリニカル期(超早期)の予防・治療の確立、また血液バイオマーカーによるアルツハイマー病のスクリーニングなどが今後期待されるとした。

 続いての宿題報告では、本研究会において昨年に設立された診療ガイドライン委員会において進められているクリニカルクエスチョンに対するシステマチックレビュープロジェクトの進捗報告として2氏が登壇。「咀嚼機能と認知機能の関係に関するシステマティックレビュー」として前川賢治氏(大歯大歯学部欠損歯列補綴咬合学講座)が、「介入研究に関するシステマティックレビューの経過報告」と題して荻野洋一郎氏(九大歯学研究院歯学部門 口腔機能修復学講座クラウンブリッジ補綴学)がそれぞれ発表し、前川氏からは客観的に咀嚼機能が評価された研究ではほぼすべてが咀嚼・認知両機能に正の関連を認めたこと、また主観的に咀嚼機能が評価された研究では両機能間に関連を認めない研究も存在したことなどについて示した。また荻野氏は、口腔ケア・歯科治療・咀嚼トレーニングそれぞれに対する介入研究で得られたエビデンスの概要やバイアスリスクの評価などについて示したうえで、現在報告されている研究では介入の種類も含め統一した見解を導くことは困難であり、今後質の高いRCTが求められる、とした。

 最後に行われた基礎研究シンポジウムでは、テーマを「ここまでわかった、口腔機能と認知症の関係―基礎研究からのアプローチ」として4氏が登壇。「『口腔と認知症』に関する研究のレビューと基礎系から見た現在の問題点」と題して後藤哲哉氏(鹿児島大大学院医歯学総合研究科歯科機能形態学)が、「軽度認知機能障害期の神経生理」と題して吉村 弘氏(徳島大大学院医歯薬学研究部口腔分子生理学)が、「歯周病原細菌と認知症」と題して松下健二氏(国立長寿医療センター口腔疾患研究部)が、そして「咀嚼機能低下と認知症」と題して道川 誠氏(名古屋市立大医学研究科神経生化学)がそれぞれ講演した。後藤氏は1906年にドイツのDr. Alzheimer Aによってアルツハイマー病が報告されてからの歴史やアルツハイマー病発症の前駆期である軽度認知障害の段階での進行阻止の重要性、および歯科と認知症の関連でまだ証明されていない事項(認知症の進行が先なのか、口腔機能の低下が先なのかなど)について示した。吉村氏は早期のアルツハイマー病においては脳内の大規模ネットワークのうち、デフォルトモード・ネットワークの部分にアミロイドβが認められることや、アミロイドβの上昇で脱抑制が引き起こされ、脳波周波数の変調が生じること、また現在行っている「嗅覚・視覚・聴覚情報による摂食イメージ訓練」のプロジェクトについても紹介した。松下氏はPorphyromonas gingivalis(以下、Pg菌)がアルツハイマー病に関連する可能性が高いことや、Pg菌が産生する酵素gingipainsの阻害剤をアルツハイマー病患者に投与した臨床研究による効果が認められた研究があること、また歯周病ケアやケア時の菌血症対策の必要性などについて示した。そして道川氏は、アルツハイマー病の発見やアミロイドβの蓄積にかかわるアミロイドカスケード仮説、またアルツハイマー病モデルマウス(APP-KIマウス)に対して抜歯を行ったところ認知機能が低下したことについて、ストレスによる脳内の炎症やグリア細胞の活性化、それに引き続く神経細胞の活性低下と海馬神経細胞の脱落が認知機能を低下させること、また粉状の餌と液体の餌を比較した際には液体のほうでより記憶力が低下したことなどについて示した。