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2022年12月号掲載

コロナ禍で失ったものと得たもの

 学会長として定期的に発信しているコラムに「コロナ禍で失ったものは多い」と記した。失ったものは人さまざまだ。私自身、コロナ禍でテレワークが増え、それまでの通勤時間を映画鑑賞にあてた話だった。結末が明瞭ではない映画を好み、その先の展開を自分の人生経験をもとに勝手につくりあげるというささやかな楽しみを得た。人生も後半になってなお楽しみを見つけるのは、変化のない日常を続けるなかでは起こりにくい。結果的に、失うことを恐れる必要はなかったわけだ。

 さて歯科界がコロナ禍で得たものは何か。平成20年から2年間、中医協専門委員を務めた時に歯科の初診評価が200点を超えた。加点理由の1つに、スタンダードプリコーションを提案した。歯科外来環の施設基準に入っている口腔外バキュームやパルスオキシメーター不要論もあったが、コロナ禍にも歯科治療はしっかり耐えると周知された。時間をかけて体制構築を進めた結果であろう。

 第24回日本歯科医学会学術大会では、コロナ禍でも医療収入を保った診療所形態におけるマンパワーの重要性が述べられた。学会の新歯科医療体制検討委員会では、今後の歯科医療の方向性が議論されている。歯科診療所からの紹介も受ける地域支援型多機能診療所を増やし、歯科専門医や自由勤務を選択できる女性歯科医師などを増やす具体案を委員会に諮問している。あらゆる潮流の変化や荒波に耐えられる歯科の体制を臨学産官民で創る、その意欲の共有こそコロナ禍で得たものだと言いたい。