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2025年5月号掲載

治療同意書は医院と術者を守る盾

※本記事は、「新聞クイント 2025年5月号」より抜粋して掲載。

 歯科医師の先生方は患者さんにていねいに説明したつもりでも、後日「そんな説明は聞いていなかった」などと、言われた経験はないだろうか。医療紛争の多くがこのような認識のずれから始まっている。

 診療契約は法律上「準委任契約」に値し、「完治を確約する」のではなく「医療のプロとして最善を尽くす」ことの約束である。その中には、患者さんに説明すべき内容が定められているが、特に重要なのがリスク説明と選択肢の提示である。なお、リスク説明は「合併症の可能性がある」といった抽象的な説明では不十分であり、具体的な説明かつ、複数の治療選択肢を提示することが求められる。加えて、これらの説明は患者さんが理解できる平易な言葉で行わなくてはならない。

 たとえ患者さんに十分な説明を行っていたとしても、患者さんはすべてを正確に記憶することはできない。特に自己負担額の大きい自由診療では治療結果への期待値が高くトラブルに発展しやすいが、必要十分な同意書を作成することでリスクは最小限に抑えられる。治療同意書は、患者さんがリスクを含めて説明を受けたことを確認できる記録として、安心と信頼を提供する。そして、万が一のトラブル時には、医療者が十分な治療説明を行った証として医院と術者を守る盾となる。

 人はみな忘れる生き物である。だからこそ、お互いの認識を「目に見える形」で残しておくことが、患者さんとの良好な関係を保ち、医院を守ることにつながるのである。