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2021年12月11日

有床義歯学会、第6回学術大会を開催

「治療用義歯の活かし方」をテーマに、2021年12月31日までオンデマンド配信中

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 さる12月11日(土)より、第6回 有床義歯学会学術大会(亀田行雄会長、以下、JPDA)が、昨年の第5回学術大会と同様に、2021年12月31日(金)まで同学会Webサイト内でオンデマンド配信されている。「治療用義歯の活かし方」をテーマに6題が並んだ。以下にそれぞれの概要を示す。

1)「治療用義歯の立ち位置を再考する」(松丸悠一氏、フリーランス総義歯臨床専門歯科医師)
 本演題では、治療用義歯という用語がどのように扱われているか、およびその臨床について示すことを主眼として解説。日本歯科補綴学会による2015年の定義「最終義歯製作に先立ち、咬合治療、粘膜治療などを目的として装着される暫間的な義歯」をまず示したうえで、『GPT-9』(The Academy of Prosthodontics〔米国〕が発行する補綴用語集)に示されている「interim denture」との違い、有床義歯臨床のフロー、新義歯が機能するための障害を取り除く処置としての前処置の種類(咬合治療としての前処置と粘膜治療としての前処置)、新義歯の機能にかかわる患者の順応、および治療用義歯の用意のしかた(現義歯の改造、複製義歯の製作、治療用義歯そのものの新製)などについて示した後、高度顎堤吸収やClassⅡ症例、そして上下フラビーガム症例に対する治療用義歯の臨床例について提示した。

2)「治療用義歯を用いた有床義歯治療を行う前に知っておくこと」(遠藤義樹氏、宮城県開業)
 本演題では、「治療用義歯とは」「治療用義歯の背景」「治療用義歯の目的」「治療用義歯の適応症とは?」「治療用義歯の適用期間は?」「顎間関係の変化」の6点をテーマに詳説。古今の論文を多数引用しながら上記のそれぞれについて示したうえで、「もともと歯を欠損するにしたがって退行的に変化してきた咬合関係(顎間関係)は、その患者ごとに対応が異なる。維持・支持・安定が図られた義歯形態、歯列弓形態、咬合平面、咬合高径などが生体に調和するにつれ、下顎位の修正が図られる」と結んだ。

3)「クラス3上下顎高度顎堤吸収症例に治療用義歯を用いた1症例」(須藤哲也氏、歯科技工士・Defy)
 本演題では、標題のとおりClassⅢの上下顎高度顎堤吸収症例について、歯科技工士の立場からの取り組みを紹介。演者は治療用義歯を、クラウン・ブリッジにおけるプロビジョナルレストレーションのようなものとして捉えているとし、その意図は「治療用義歯を利用して粘膜調整や下顎位の調整を図ることはもちろんだが、人工歯の審美性や排列位置、顎関節との調和、実際に咀嚼したときの使用感や発音などを、患者自身だけでなく家族や知り合いからの意見も取り入れて最終義歯に反映すること」にあると述べ、製作過程を詳説。仮の咬合採得による模型診断にはじまり、概形印象模型の考察および個人トレーの設計、顎堤が損なわれた症例において義歯床を安定させるための「壁」の活用、また装着中の治療用義歯に対するクロスマウント模型での検証と調整などを示し、難症例に対する治療用義歯の応用法やその効果を存分に示した。

4)「デジタル時代の治療用義歯」(相澤正之氏〔東京都開業〕、岩城謙二氏〔歯科技工士・Dental Labor IDT〕)
 本演題では、歯科医師の相澤氏と歯科技工士の岩城氏が、それぞれの立場から逐次登壇。総義歯のデジタル製作システムであるIvotion Denture System(Ivoclar Vivadent)を用いた治療用義歯および最終義歯の製作と、岩城氏が提唱する「e-Denture System」における治療用義歯調整の話題を軸に、相澤氏の医院を訪れた77歳女性患者に対する処置の工程を供覧。従来のBPS(Biofunctional Prosthetic System、Ivoclar Vivadent)で用いられたゴシックアーチ描記装置のデジタル対応版「ナソメーターCAD」の紹介や、本品を装着した個人トレーの製作法や試適のポイント、またIvotion Denture Systemによる自動設計の傾向や臨床に即した修正法、および実際に同システムによって製作された治療用義歯および完成義歯について示した。また、義歯のリラインについても詳しく説明され、専用のジグ(T-Cパッキングジグ、KKデンタルサービス)を用いた方法や、患者が痛みを訴える場合の対処法や患者説明の要点なども示された。

5)「部分床義歯製作に必要な“暫間義歯を用いた咬合平面の是正”」(前畑 香氏、神奈川県開業)
 本演題では、昨今の「重老齢社会」(75歳以上の後期高齢者の人口が65~74歳の前期高齢者の人口を上回る状態)の到来を受けて部分床義歯装着患者が増加している現状について示した上で、同時に難症例も増加していることに言及。すでに部分床義歯が装着されている症例では咬合平面が乱れている場合も多いが、こうした乱れをそのままに部分床義歯を再度提供しても咀嚼障害や義歯床下粘膜および残存歯の疼痛や違和感、義歯破損などのトラブルが発生する可能性があるため、標題のとおり暫間義歯を用いた咬合平面の是正が必要であるとしたうえで、残存歯による咬合支持の有無によって異なる対応について示した。すなわち、「咬合支持がない場合には、仮想咬合平面を基準にした暫間補綴装置を製作+残存歯の歯冠形態修正」「咬合支持がある場合には、残存歯での咬頭嵌合位が適切であればそれを用い、適切でなければ残存歯の歯冠修復などを行って咬合と咬合平面を是正し、そのうえで残存歯の咬頭嵌合位を基準にしつつ仮想咬合平面を基準にした暫間補綴装置を製作+残存歯の歯冠形態修正」と述べ、実際の症例とともに解説を行った。

6)座談会「治療用義歯の疑問に答える」(山崎史晃座長、富山県開業)
 本演題では、有床義歯学会副会長の山崎氏を座長に、全演者が登壇。「治療用義歯の目的と適応症例」「治療用義歯の材料や形態の違いは?」「患者さんにはどのように説明しているの?」「治療用義歯の評価方法は?」「『前の義歯のほうが良かった』と言われないために」の5題をテーマに、それぞれが臨床における知見をもとにディスカッションを繰り広げた。