2026年6月号掲載

知っておきたい! う蝕の現在地

【PR】ミュータンス菌が引き起こす 全身疾患の基礎知識

※本記事は、「クイント・オーラル・インフォメーション 2026」より抜粋して掲載。

 歯科における二大疾患のう蝕と歯周病――。歯と口の健康が全身の健康に関連することが明らかになってきているなか、特に歯周病は、糖尿病や動脈硬化、誤嚥性肺炎、認知症などのリスクを高めることが知られています。一方で、う蝕原性菌のStreptococcus mutans のうち、コラーゲン結合タンパクを有する菌(以下、Cnm陽性ミュータンス菌)が脳血管疾患(脳出血、微小脳出血)や感染性心内膜炎、IgA腎症をはじめとした全身疾患に悪影響を及ぼしていることも最新の研究結果で明らかになってきました。

 本欄では、その研究に取り組んでいる仲野和彦先生(大阪大学大学院歯学研究科小児歯科学講座教授、同大学大学院歯学研究科長・歯学部長)に発症メカニズムをはじめとする最新知見について解説していただくとともに、歯科医療従事者に伝えたいメッセージをうかがいました。 (編集部)

ミュータンス菌は全部同じ菌ではない?
2つのタイプのミュータンス菌が存在!

 う蝕の原因菌として知られている「ミュータンス菌」(図1)。その中でも大きく分けて2 つのタイプの「Cnm陰性ミュータンス菌」と「Cnm陽性ミュータンス菌」がいることが最近の研究で明らかになってきました(図2)。

図1 ミュータンスレンサ球菌の光学顕微鏡像。
図2a、b 各種ミュータンス菌株の走査型電子顕微鏡像。Cnm 陽性ミュータンス菌は血管にくっつきやすい性質を有する(b)。

 前者の「Cnm陰性ミュータンス菌」は皆さんご存じのとおり、いわゆる歯の表面の硬組織に付着してう蝕を誘発させる菌です。ミュータンス菌はこれまで硬組織には付着しますが、軟組織(歯肉や歯根膜などの粘膜)には付着しないと考えられていました。しかし、じつは軟組織にも付着する一部の悪玉ミュータンス菌「Cnm陽性ミュータンス菌」が存在したのです。その特徴は、血管にくっつきやすい(表面がトゲトゲしたような)性質をもち、傷害のある脳血管に悪さをすることがわかっていて、1〜2割の人が保有していることがわかっています1

口腔細菌が全身疾患に影響する?
ミュータンス菌が傷ついた血管の修復を阻止?

歯肉から出血したときや観血的歯科治療の際に菌が血液の中に入ることがあります。血管に入った場合、通常は活性化された血小板が血管の修復や止血を行います(図3)。Cnm陽性ミュータンス菌が存在すると、健康な血管には付着しませんが、傷ついた血管に菌がくっついて炎症を起こして、血を止める働きを邪魔します(図4、5)2

図3 通常の止血時のイメージ。活性化された血小板が血管の修復や止血を行う。
図4 Cnm 陽性ミュータンス菌が存在すると、コラーゲンに付着することで出血が継続・悪化する。
図5 損傷した脳内血管内皮に付着するCnm陽性ミュータンス菌の走査型電子顕微鏡像(左)。
脳内微小出血発症のMRI 画像(右)(赤矢印が微小出血)。脳内微小出血を放っておくと脳出血や血管性認知症リスクも高くなる。

脳血管疾患、感染性心内膜炎、IgA 腎症も?
その原因としてCnm 陽性ミュータンス菌に注目が!

 近年、口腔細菌と全身疾患との関連は世界的に注目されており、「Oral-systemic connection」として研究が急速に進展しています。現在、Cnm陽性ミュータンス菌と全身疾患との関連性については、脳血管疾患(脳出血、微小脳出血)、潰瘍性大腸炎、非アルコール性脂肪肝炎、感染性心内膜炎、IgA腎症といった疾患の報告があり(表1)、さまざまな研究が進められています。たとえば、感染性心内膜炎や脳内微小出血、IgA腎症など、ヒトを対象とした研究では唾液中からCnm陽性ミュータンス菌が高い割合で検出されています。また、感染性心内膜炎においては、Cnm陽性ミュータンス菌が病変形成に関与する可能性が示されています(図6、7)。

表1 Cnm陽性ミュータンス菌と全身疾患との関連性1
図6 感染性心内膜炎の発症メカニズム。
図7 グラム染色したCnm 陽性ミュータンス菌に感染したラットの心臓弁の水平断像(a)。疣贅とよばれる菌と血小板、フィブリンからなる塊ができている。紫色に染色された塊が疣贅を示す。Cnm 陰性ミュータンス菌(b)に感染したラットの心臓弁では何もできていない。

 歯科治療の際に、全身疾患の既往がある方で治療や投薬を続けているけど数値がなぜか改善しない患者さんがいた場合は、「もしかしたらCnm陽性ミュータンス菌が口の中にいるかも?」と口腔細菌が原因であることを疑っていただきたいと思います。そして、患者さんへの保健指導や声がけの際には、そのような話題を提供していただくことでセルフケアの意識が高まるかもしれません。

どうすれば予防できる?
「出血」を止めて侵入口を封鎖せよ!

 ミュータンス菌は、多くの方々の口腔内にいる常在菌ですので、陽性と陰性にかかわらず一生のお付き合いとなります。現在までの研究では、Cnm陽性ミュータンス菌が全身疾患に影響していることがわかってきましたので、要はその菌が血管から体の中に侵入しないように予防すればよいわけです。理想は、患者さんの口腔内にCnm陽性ミュータンス菌がいるか検査ができればよいのですが、現段階では大学などの研究施設で特殊な機器を使用しなければ検査することができず、費用も高額となっています。将来的には、歯科医院で簡便にCnm陽性ミュータンス菌を調べることができるとよいでしょう。

 しかし、前述したとおりCnm陽性ミュータンス菌と全身疾患との関連性が明らかになってきたので、口腔内細菌を減らし炎症や出血を抑えることが、最大の予防策であり効果になります。深いう蝕のみならず進行した歯周病によって、口腔から全身への「細菌の入口」を作ってしまいます。最近は歯が残っている高齢者は多くなっている一方で、加齢や歯周病によって歯肉が下がり、象牙質が露出する「根面う蝕」にも注意する必要があります。

 では、どのように予防すればよいでしょうか――。答えはとてもシンプルで、普段のセルフケアや定期的な口腔健康管理によって、口腔内を健康な状態を保つことで出血を防ぎ細菌の入口を封鎖することで、全身疾患の悪化を防ぐことが可能となります。

 歯と口の健康を保つことは、自分の口で美味しく食べることだけではなく、全身の健康も守るというたいへん「コスパ」が良い方法といえます。歯科医療従事者の皆さんが臨床現場で取り組まれている口腔健康管理が全身の健康管理に寄与しているといっても過言ではないでしょう。

 なお、現在私たちの研究グループでは、Cnm陽性ミュータンス菌を不活化させる研究も進めています。今後、全身疾患リスクの低減を目的とした新たな口腔ケア法につながる可能性があります。

参考文献
1. 野村良太,仲野和彦.口腔バリアと疾患 その破綻とう蝕病原性細菌が引き起こす全身疾患.実験医学.2017;35 (7):1182-8.
2. 宮谷史太郎,仲野和彦,渡邉功.コラーゲン結合能を有するう蝕原性細菌と脳血管疾患・認知症が関連!?その新たな知見をイラストとともに解説.the Quintessence.2019;38(2):149-58.

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