2021年2月28日掲載
理事長講演、特別講演、スポンサードセミナーのほか、一般口演15題も行われる
日本義歯ケア学会、第13回学術大会Web開催
1)理事長講演「義歯ケア学会の共同研究から考える学会の特徴と方向性」(河相安彦氏、日大松戸歯学部有床義歯補綴学講座)
本演題では、義歯ケア学会理事長の立場から(1)義歯ケア学会の変遷とDNA、(2)DAG研究(Denture Adhesive Guideline;同学会加盟の10校が参加して行った義歯安定剤利用ガイドライン構築に関する基盤研究)が教えてくれたこと、(3)義歯ケア学会の方向性、の3点について解説。(1)に関しては、2009年に刊行された学会誌をはじめ、それぞれの時代の論文や学会員の著書などについて紹介したほか、同学会は義歯補綴学の教科書には載っていないデンチャープラークコントロールや義歯安定剤の応用などを主題とし、研鑽を重ねる傾向がある、とした。また(2)では、質の高い研究が少ない義歯安定剤の領域において、エビデンスベースのガイドライン構築に挑んだ経緯と結果について紹介。10施設での無作為割付臨床試験における取り組みの難しさ、多くの大学人から得た協力、そして義歯安定剤の根拠に基づく使用への足がかりが得られたことについて述べた。そして(3)では、会員100名程度の「小回りのきく」学会であること、またさまざまな流派がある義歯の製作法ではなく、製作された義歯に対する裏装法や洗浄法を研究することから共通認識が生じやすいことなどを挙げ、先回りのDNAを有する小回りのきく学会として、高齢者の疾病に対する姿を、義歯のケアを通じて産業・学識者・臨床家・患者(産学臨患)で考究していかなければならない、とした。
2)特別講演「心身の健康管理における口腔衛生管理と口腔機能管理の意義 ―40余年にわたる高齢者医療を振り返って―」(米山武義氏、静岡県開業)
本演題では、高齢者に対する口腔ケアの白眉であり、誤嚥性肺炎の発生率低下のために口腔ケアが重要な役割を果たすことを実際のデータで示したことで著名な米山氏を招聘。これまでの経験から、超高齢社会における保健・医療・福祉のゴールは「終わりよければすべてよし」、すなわち最期に苦しまない、納得できることがゴールであるとまず述べたうえで、みずからが1979年から取り組んできた口腔ケアの歴史について紹介。口腔のことがまったく忘れ去られていた特別養護老人ホームでの取り組みにはじまり、口腔ケアが介入することで熱発の頻度が下がった実例や義歯装着の有無による肺炎発生率の違い、また口腔ケアの介入による低栄養状態の改善(血清アルブミン値の上昇)など、多くのエビデンスを基に高齢者の口腔衛生管理と口腔機能管理の意義について示した。また、歯科によるこうした取り組みによる効果は継続して行われなければ元の木阿弥になってしまうとし、システム整備の必要性も訴えた。そして締めくくりとして仏教用語の「抜苦与楽」を掲げ、患者の苦を取り除いて安らぎを与えることがわれわれの使命である、とした。
3)スポンサードセミナー「義歯の機能的なケアのための口腔機能低下症入門:検査結果を用いた『お口年齢』の活用」(佐藤裕二氏、昭和大高齢者歯科学講座)
本演題では、株式会社ジーシーの協賛により、日本老年歯科医学会の前理事長を務め、老年者の義歯治療に関する著書・講演も多数の佐藤氏が登壇。標題のとおり、口腔機能低下症およびオーラルフレイルに対する認識がますます求められるなか、2018年の診療報酬改定から検査料と管理料が認められるようになった口腔機能低下症の7つの検査法と代替検査法について詳説。各検査項目の内容や必要な装置類と、それぞれが何を意味するかについて、実例を多数示しながら述べた。また佐藤氏が考案した、口腔機能低下症の検査結果から「お口年齢(口腔機能年齢)」を計算できるMicrosoft Excelのワークシートについても紹介。Microsoft Excelで、上記の検査項目を入力することで口腔機能年齢が表示される本ワークシートは昭和大歯学部高齢者歯科学講座のWebサイトから無料でダウンロードが可能となっている。
なお、次回の第14回学術大会は、朝日大学を主管校(都尾元宣大会長)に、2022年2月に開催予定とのこと。