0歳からの成育歯科に取り組む歯科医師

2023年6月号掲載

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2023年6月号掲載

0歳からの成育歯科に取り組む歯科医師

食べることをとおして地域の人々の健康(幸福)を支援したい

 柿崎陽介氏(宮崎県開業)の歯科医院には、全国各地から多くの歯科医療従事者が見学に訪れる。注目される理由は「健康のためにずっと通いたい歯科医院」を具現化し、そのノウハウを全スタッフで実践しているからだろう。本欄では、柿崎氏が考え実践する歯科医療と地域に根ざした歯科医院のあり方についてうかがった。

柿崎:当院は1999年、2台のユニットからスタートしました。当時を振り返ってみると、矯正歯科と小児歯科でしたので1日の来院数3~5人で患者さんはとても少なかったのですが、患者さんに対しては、とにかくメインテナンスの重要性について説明し、う蝕予防と必要な時期の歯列矯正の介入による口腔成育を目指していました。

 現在、宮崎市では医療費助成により中学生まで無料または月額200円で歯科受診ができます。当時は乳幼児の医療費助成が3歳未満まででしたので、治療が必要な4、5歳児の場合は治療費を一部負担していただくこともありましたが、それでもメインテナンスによる定期管理の重要性を根気よく説明し続けました。

 そのおかげもあり患者さんが少しずつ増え、これまで自分で行っていた治療の説明、治療後の注意事項、定期管理の大切さなど、ていねいな説明が難しくなり始めましたので、歯科衛生士やコーディネーターに役割を分担していきました。またスタッフでも必要かつ十分な説明ができるようにするため、資料作成やスタッフ教育にも取り組んできました。私たちの考えを理解してくださる患者さんの増加にあわせてユニットも少しずつ増やし、13年目には16台体制となりました。さらに16年目には診療室だけでなく待合室も増築し、18年目には保育園(企業主導型保育施設)も開設しました。

 保育園では、それまで行ってきた食育の保育現場での実践と、スタッフが子育てしながら安心して働ける職場環境を構築するとともに、離乳食教室や育児相談も行っています。また、そこでは遊びをとおして口を使うことを取り入れ、食事においてもかじりとりや手づかみ食べで一口量を覚え、咀嚼の基本の学習や味覚の形成を行っていくことを大事にしています。さらに、五感の発達を促すためのリズム運動や体幹を強くするプログラムなどを取り入れ、身体全体の機能を向上させていくことを目標にしています。これらを実践するために、歯科医療従事者だけでなく保育士や管理栄養士の多職種とも連携しています。

 歯科の2大疾患であるう蝕と歯周病の予防はすでに明らかにされています。しかし、食べる機能や姿勢の大切さについて患者さんにどのように伝え、実践していくのかが地域の歯科医療を提供する側の課題です。そのためには歯科だけでなく多職種や行政と協働し、口腔の健康と全身の健康の関係について広く伝える努力や工夫をする必要があります。

 当院は地域の歯科医院として食べることをとおして住民の健康(幸福)を支援し、地域に還元できるように取り組んでまいりたいと思います。