関連キーワード

2023年3月号掲載

日本歯科麻酔学会の「顔」

歯科麻酔科医が活躍できる環境を醸成したい

 歯科治療を行うにあたり時に麻酔を用いるが、歯科麻酔について十分な理解が進んでいないことから、患者の麻酔治療のニーズに十分に応えられていない現状がある。歯科麻酔専門医のポジション不足や地域偏在、治療施設の不足などをはじめ、課題は山積している。本欄では、飯島毅彦氏(一般社団法人日本歯科麻酔学会理事長)に歯科麻酔の現状や課題を解説していただくとともに、日本歯科麻酔学会の今後の方針についてうかがった。

飯島:日本歯科麻酔学会は、安全で快適な歯科治療の場を提供し、口や顔の痛み、麻痺を取り除くための歯科医学と歯科医療の発展に貢献することを目的とした団体です。私の所属する昭和大学歯科病院では、歯科治療恐怖症や異常絞扼反射などを理由に、必要な歯科治療を受けることができない人が数多く来院されます。現在の一般歯科(かかりつけ診療所)では、歯科麻酔の活用について十分に周知されていないため、歯科麻酔を必要としている患者に対し、満足な歯科治療を提供できていないのが現状です。この傾向は地方に行けばより顕著になり、歯科麻酔科医が一人もいない地域も存在することから、地域格差の是正も大きな課題です。歯科麻酔治療を滞りなく提供するには、環境の整備が不可欠です。

 医科による麻酔科の手術件数は年間で400万件ほどですが、それに比べて保険請求されている歯科による麻酔の件数は、鎮静麻酔と全身麻酔をあわせてもわずか15万件ほどです。そのうち歯科大学、歯科麻酔治療施設で治療が行われている割合は22%と、残りの約80%近くは医科の施設で行われています。一部の病院歯科では歯科の麻酔症例が増加傾向にありますが、一握りの歯科麻酔専門医が限られた施設で歯科麻酔を行うため、患者の需要には応えられていないのが現状です。これは、歯科麻酔科医の不足に加え、歯科側で十分な麻酔治療を提供できるだけの施設数が確保できないことや、医科の麻酔科医のみならず歯科界の中でも歯科麻酔の重要性が浸透していないのが要因です。

 また、これまでは課題を挙げてきましたが、実は病院経営において歯科麻酔科医は十分に収益に貢献できるポジションです。保険診療において、歯科は医科に比べて全体的に診療報酬が低く抑えられていますが、麻酔管理は比較的高い保険点数が算定できます。まずは歯科界の中で抜歯や鎮静下の治療を必要とするケースなどをはじめ、歯科麻酔の活用について見識を深め、そして医科との連携を活性化することで、歯科麻酔は十分に活躍できる場を増やすことができると考えています。

 当学会は、歯科麻酔のさらなる普及に向け、麻酔学会と協働して医科の麻酔科でトレーニングを受けられる議論を進めると同時に、医科麻酔研修ガイドラインの改訂も準備を進めています。そして歯科や医科、そして国民からも「歯科麻酔はもっと必要だ」と声が挙がるよう、積極的に周知を図ってまいります。