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2016年11月27日

第1回有床義歯学会学術大会・設立総会開催

300名あまりを集める盛会に

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 さる11月27日(日)、東京医科歯科大学M&Dタワー(東京都)において、第1回有床義歯学会学術大会・設立総会(有床義歯学会〔Japan Plate Denture Association、以下JPDA〕主催、亀田行雄会長)が開催された。本大会は、2016年4月にスタディグループ「JDA〔Japan Denture Association〕」から改組の上発足したJPDAにとって初となる学術大会。JDA時代にも2009年からオープンな講演会を例年行ってきたが、JPDAでもその伝統を引き継ぐ形となった。会場には300名あまりの参加者が日本全国から参集する盛会となり、有床義歯の名称を冠した新学会への注目度を感じさせた。以下に、演者・演題とその概要を示す。

1)「従来型と吸着義歯製作法の違いを整理する」(亀田氏、埼玉県開業)
 本演題では、JDA時代からの積年のテーマである「下顎総義歯吸着理論」と、従来法の義歯製作の方法の違いを概観。また、亀田氏の歯科医院に入局してきた臨床1年目の歯科医師がコンパウンド義歯を製作して上顎総義歯が落下する結果となったところを、下顎総義歯吸着理論を教えることで十分に機能する総義歯を製作できた事例を紹介し、下顎総義歯吸着理論の優位性を訴えた。

2)「阿部二郎先生の書籍では伝わらない! 印象・咬合採得の手付き・立ち位置を模倣しよう!」(阿部二郎氏、東京都開業、JPDA名誉会長)
 本演題では、阿部氏が自らの下顎総義歯吸着理論を世界に広める過程で、とくに海外の人々に伝えることの難しさやそこにおける気付きについて紹介。その上で、「つねに同じ診療ポジションで臨床を行うこと」の重要性を強調。「頭で勉強することは簡単だが、同じ動作をすることは難しい」「自分自身も、矢崎秀昭先生(東京都開業、JPDA監事、東歯大同窓会長)のもとで勤務していたときには、先生の動きをすべて真似していた」などと述べた上で、臨床における体の動かし方の重要性について述べた。また、最近になり紹介しているという「下顎印象採得時のシリコーンパテを用いた舌側封鎖テクニック」についても述べた。

3)「個人トレーの外形線『従来型と吸着型』」(山崎史晃氏、富山県開業)
 本演題では、下顎総義歯吸着理論において大きな役割を占める標記について詳説。下顎総義歯吸着理論では、筋の付着に基づいて耐圧面積を確保する従来型のトレー外形線ではなく、義歯の全周が粘膜によって封鎖されるための外形線が必要であるとした。また、誤って大きすぎる義歯を製作したことによる失敗例も示し、理解を助けていた。

4)「咬合採得の『技』」(齋藤善広氏、宮城県開業)
 本演題では、咬合採得について主に(1)中切歯の位置、(2)咬合平面の位置、(3)咬合高径の評価、(4)リップサポートと切縁の位置、(5)水平的下顎位の評価法、の5つに分けて解説。とくに、(5)に関しては講演・執筆多数のゴシックアーチ描記法について詳説した。

5)「クラスII、IIIの機能的人工歯配列の実践」(須藤哲也氏、歯科技工士・Defy)
 本演題では標題のとおり、アングルのクラスIIおよびIIIの症例に対する人工歯排列について須藤氏が心がけていることを提示。クラスII、IIIの症例では顆路角が急峻になるため調節性咬合器が不可欠になること、下顎骨と咬筋の関係・作用方向が変わるためその点に配慮すること、オーバージェットの量はゴシックアーチを参考に決定することなどについて述べた上で、ゲルバーダイナミックフェイスボウおよびコンディレーター咬合器(いずれもCondylator service,リンカイ)を用いたクラスIIの総義歯症例を供覧した。

6)「クラスII、IIIの不正咬合を素敵に見せるテクニック」(岩城謙二氏、歯科技工士・Dental Labor IDT)
 本演題では、アングルのクラスIIおよびIIIの症例において生じがちな審美性の問題について、人工歯配列および歯肉形成によって解決を図るための方法と症例を紹介。あえて翼状捻転を与えることでリップサポートを与える方法や、バッカルコリドーを埋めるための第一小臼歯人工歯のモディファイ法、また高齢者では下顎前歯部が露出する場合が多いため、上顎だけでなく下顎の人工歯排列にも配慮する、といったトピックが示された。

7)「ダイナミック印象テクニックとそのコツ」(前畑 香氏、神奈川県開業)
 本演題では、軟質裏層材によるリラインの前に行うダイナミック印象テクニックについて、そこで用いられるティッシュコンディショナーの一般的特性およびその手順について解説。また、院内で「あいうえお印象法」と題した会話をしながらの機能印象を行わせ、その後1週間患者に義歯を使用させる方法などについても示した。

8)「訪問歯科治療と吸着テクニック」(湯田亜希子氏、北海道勤務)
 本演題では、湯田氏が高齢者の「最期まで食べたい」という思いを受けて訪問診療の道に入ったエピソードから、訪問歯科治療に下顎総義歯吸着理論を用いて高い義歯使用率を得たという研究を紹介。また、さまざまな機能が衰えた高齢者に対して下顎総義歯吸着理論を適用するには(1)概形印象採得法、(2)咬合床、(3)閉口機能印象法、の3点に独自の工夫が必要であるとし、それぞれ示した。

9)「吸着を破壊させない必殺の裏技」(佐藤勝史氏、山形県開業)
 本演題では、下顎総義歯が浮き上がってくるポイントとして(1)頬側、(2)唇側、(3)舌下ヒダ部、(4)顎舌骨筋線部、(5)レトロモラーパッド、の5ヵ所を挙げ、とくに(2)と(5)について詳説。(2)に対しては唇側の両側側切歯間の研磨面に凹面を付与すること、(5)に対しては舌縁が義歯床のレトロモラーパッド周囲の研摩面に強く当たって浮き上がりの原因になっていないか確認し、必要に応じて形態修整を行うこと、などのテクニックを示した。

10)「BPS吸着義歯の将来展望」(Dr. Frank Zimmerling、Ivoclar Vivadent社International trainer/ lecturer)
 本演題は、先日Wieland社を傘下に収めたIvoclar Vivadent社によるプレゼンテーション。CAD/CAMで総義歯を製作することの優位性および、「Wieland Digital Denture with Dr. J. Abe」と題した、BPS(Biofunctional Prosthetic System,Ivoclar Vivadent)をベースとした印象採得~CAD/CAM総義歯完成までのステップを示した。本法は従来のBPSに加え、セントリックトレーによる顎間関係の記録時に「UTS CADフェイスボウ」を用い、個人トレーはミリングによって製作される。また、従来のナソメーターも「ナソメーターCAD」という名称となり、取り付けが容易になる、などの特徴があるとのこと。

 床義歯をテーマに、歯科医師と歯科技工士がともに設立に携わった、他に類をみない本学会の動向に注目したい。