社会|2025年5月21日掲載
「症例×討論―症例から学ぶ成功のポイント―」をテーマに
第25回歯内療法症例検討会開催
さる5月18日(日)、第25回歯内療法症例検討会(株式会社Toppy主催)が、東京科学大学(東京都)において、現地およびWeb配信を併用したハイブリッド形式で開催され、計131名が参加した。
本会は吉岡隆知氏(東京都開業)を中心に、歯内療法の症例についてさまざまな角度からディスカッションし、日常臨床におけるヒントや治療へのモチベーションを共有することを目的として開催されている。新たな試みとしてディスカッションを主軸に据えた構成となった今回は、4つのセッションが設けられ、それぞれに若手歯科医師1名が症例を報告し、毎回異なる3名のパネリストを交えて活発な議論が展開された。
1つ目のセッションでは平野恵子氏(東京科学大学)が、下顎右側第二小臼歯の根未完成歯に認められた根尖孔外のガッタパーチャ様異物に対し、感染源の除去と緊密な封鎖という歯内療法の原則に則り治療した症例を提示。アペキシフィケーションの実践過程と、その後の良好な治癒経過を報告した。パネリストの吉岡俊彦氏(広島県開業)、飯野由子氏(フリーランス歯科医師)、大森智史氏(東京科学大学)との間では、根尖孔外異物に対する考え方と対処法、根未完成歯に対するアプローチについて議論が交わされた。
続いてのセッションでは齋藤 彩氏(昭和医科大学)が、上顎右側側切歯に生じたOehlersの分類Type2の陥入歯に対し、陥入部の完全除去および根管治療を行った症例を提示。複数の類似症例と比較しながら、臨床判断に至るプロセスを解説した。歯髄へのアクセスと、形態異常歯への対応の難しさが印象的な症例であった。ディスカッションには八幡祥生氏(東京科学大学)、山内隆守氏(東京都開業)、村野浩気氏(神奈川歯科大学)が登壇。陥入部をどこまで切削するか、その判断基準をめぐって議論が白熱した。陥入部の完全除去にはリスクがともなうこと、また初手で逆根管治療を選択すべきかといった、実臨床における葛藤が浮き彫りとなった。
3つ目のセッションでは三好俊太郎氏(東京都勤務)が、「歯髄保存か、根管治療か」という選択を迫られた症例を報告。可逆性歯髄炎と判断した下顎左側第二大臼歯に対して歯髄保存療法を試みたが、治療後の違和感から最終的には抜髄に移行した。須藤 享氏(宮城県開業)、辺見浩一氏(東京都開業)、馬場 聖氏(昭和医科大学)によるディスカッションでは、歯髄感受性試験の解釈や治療方針の選択、断髄の役割について検討された。三好氏は本症例を失敗と捉えていたが、吉岡隆知氏は「本症例は失敗ではなく、歯髄保存療法から抜髄へと移行したことは治療として必然的なものであり、術前の患者説明がいかに重要かを再認識させる」と述べた。
最後のセッションには牧 圭一郎氏(東京科学大学)が登壇し、逆根管治療を行ったが治癒に至らなかった根尖病変を、再手術によって改善へ導いた症例を提示した。初回の手術では根尖処置のみを行ったが治癒せず、2回目の手術では掻爬のみを実施した結果、明確な治癒傾向が認められた。病変内には放線菌も確認され、逆根管治療における掻爬の有無と治癒の関連性が議論の焦点となった。パネリストには井澤常泰氏、高林正行氏(ともに東京都開業)、八尾香奈子氏(東京都勤務)が登壇。井澤氏は文献に基づき掻爬の適応について解説し、「完全な掻爬はかならずしも必要とは限らず、肉芽組織が良好であれば自然治癒も見込める」と述べた。
本会は、単なる症例発表会ではなく、専門医同士が実臨床の観点から語り合うことで、理解が深まり、視野が広がる場であることを実感させた。日々の歯内療法で判断に迷う場面にこそ、本会で得た知見がおおいに役立つだろう。次回の開催にも期待が高まる。