2025年12月15日掲載
Dr. 野中の実践講座!歯科英会話と異文化を学ぼう!!(#12)
#12 レディーファーストは“思いやり”?
1.レディーファーストは国際儀礼の1つ
日本では「レディーファースト=欧米のマナー」と思われがちですが、正しくは国際儀礼(プロトコール)の5原則の1つです。つまり、現在では欧米限定の文化ではなく、世界共通の決まりごととして扱われています(図1)。

日本人にレディーファーストの話をすると、しばしば次のような反応があります。
- 男性:「下心があると誤解されたら恥ずかしい」
- 女性:「女性慣れしていて遊んでいるように見えるから嫌」
このように“恋愛マナー”だと誤解されていることが、日本で広まりにくい原因なのかもしれません。しかし本来は、恋人や夫婦間のものではなく、“他人”にこそていねいに行うべき国際儀礼です。
現代では、レディーファーストは「女性への気遣い・思いやり」として捉えられており、そこまで難しく考える必要はありません。
すべてを完璧にこなす必要はありませんが、男性がエスコートしたい場面では、少しの振る舞いで紳士的な印象が伝わります。ちょっとした動作だけでも「頼れる人だな」と感じてもらえるはずです。
2.レディーファーストが必要な3つのシーン:C・D・R
覚えておきたいのは C(Chair / Car)・D(Door)・R(Road) の3つです。
① Chair(椅子)
サービススタッフが椅子を引いてくれる場面では不要ですが、自分がエスコートしている女性には椅子を引いてあげましょう。
フォーマルな場では、
- 男性が女性の椅子を引く
- 女性が席につくのを待ってから男性が座る
- 女性が席を立つと、男性も一度立ち上がる
といった動作が基本です。
映画「プリティ・ウーマン」でも、女性が席を立つと男性全員が立ち上がるシーンがあります。これはまさにこのマナーが理由です。日本ではそこまで厳格ではありませんが、国際的な場を知るうえで覚えておく価値はあります。
イタリアではこの文化が特に大切にされています。私もフィレンツェで Dr. Pierpaolo Cortellini と食事をご一緒した際、席に戻ると椅子を引いてくださり、とてもていねいな文化だと感じました(図2)。

② Door(ドア)
欧米では、ショッピングモールなどでも振り返って後ろに人がいれば、男女問わずドアを押さえたまま待つことが多いです。
レストランでは、
- ドアマンが開けてくれる場合:女性 → 男性の順で入る
- ドアマンには軽く会釈して「Thank you」(ありがとう)と言う
受付後の案内の並びは、スタッフ → 女性 → 男性が基本。男性はそっと女性の背中に手を添えて、「After you」(お先にどうぞ)と促すとスマートです。
また、日本のタクシーは自動ドアですが、海外は基本的に手動です。女性と一緒に乗る場合は、男性がドアを開閉するのがエチケットです。
※もちろん、女性も「開けてあげたい」と思わせるような振る舞いが大切です。
③ Road(歩道)
車道側は男性が歩き、女性を危険や水跳ねから守ります。これは日本でも見られる習慣ですね。
余談ですが、日本特有の“点字ブロック”はヒールの女性にとって歩きにくく、危険な場合があります。こうした点にも配慮して歩けると、より紳士的なエスコートになります。
3.なぜレディーファーストが必要なのか?
理由を理解していないと身につきにくいものです。レディーファーストの本質は 「思いやり」 にあります。中世の上流階級の女性は、
- ロングドレス
- ハイヒール
- 絨毯の床
といった、非常に歩きにくい格好でした。
そのため、
- よろけても支えられるように、男性は後ろを歩く
- ドレスが乱れないよう男性が椅子を引く
- ドレスの裾を踏まないよう男性が先にドアを開けてとおす
など、女性を守り助けるための動作がレディーファーストとして文化になったのです。
4.ビジネスシーンでのレディーファースト
近年は過度なレディーファーストは敬遠される場面もありますが、女性を大切にする気持ちは欧米の紳士文化として根強く残っています。
ビジネスでは、
- 基本は 役職や立場の序列を優先
- そのうえで 常識的な範囲でレディーファーストを適用
というバランスがもっともスマートです。
仕事もマナーも、大切なのはバランス感覚。画一的なマナーに振り回されるのではなく、その場で最適な行動を選べることが何より重要です。