学会|2026年5月12日掲載
「デジタルイノベーションの共創:未来を拓く歯科医療」を大会テーマに約600名が参集
(一社)日本デジタル歯科学会、第17回学術大会開催
さる5月9日(土)、10日(日)の両日、グランキューブ大阪(大阪府)において、一般社団法人日本デジタル歯科学会第17回学術大会(柏木宏介大会長、末瀬一彦理事長)が、「デジタルイノベーションの共創:未来を拓く歯科医療」を大会テーマに大阪歯科大学を主管校として開催され、全国各地から約600名が参集した。
以下に、主な演題の概要を示す(講演順)。
(1)大会長講演「デジタルイノベーションの共創と未来:大阪歯科大学におけるデジタルテクノロジーへの取り組み」柏木氏(大阪歯科大学歯学部有歯補綴咬合学講座)、座長:末瀬氏(奈良県開業)
初日冒頭は開会式に引き続き、柏木氏が大会長講演として登壇。歯学部、口腔保健学科(歯科衛生士養成課程)、および口腔工学科(歯科技工士養成課程)の3つを擁する大阪歯科大学の立場から、それぞれの学部・学科がいかにデジタル化教育に取り組んでいるのかについて横断的に解説。口腔保健学科におけるアンダーグラデュエートでの口腔内スキャナー(以下、IOS)およびデータ処理に関する教育や、歯学部5年生と口腔工学科3年生の共同実習の紹介などを通じ、デジタルを共創基盤とした未来を拓く教育の実践について示した。また、CAD/CAM冠の保険収載以前、2012年から行われてきた先進医療としての取り組みや、2016年に行ったシンポジウム「近未来の歯科医療のすがた」―デジタルデンティストリーの世界(CAD/CAM)」の紹介など、同学が将来を見据えて行ってきた事業についても示された。
(2)シンポジウム1「三次元プリンティング義歯の最前線」大久保力廣氏(鶴見大学歯学部口腔リハビリテーション補綴学講座)、石川航生氏(歯科技工士、やまざき歯科医院)、山崎史晃氏(富山県開業)、座長:大久保氏
本シンポジウムでは、「三次元プリンティング義歯の基本と臨床活用」と題して大久保氏が、「三次元プリンティング義歯 ―5年間の技工経験から―」と題して石川氏が、そして「三次元プリンティング義歯 ―5年間の臨床経験から―」と題して山崎氏がそれぞれ登壇。大久保氏は、プリント法とミリング法それぞれのメリット・デメリットや破損時の修理法、およびまだまだエビデンスが不足する製作法であることから、保険導入後の中長期的な経過観察と今後のマテリアルの改良が望まれるとした。石川氏は、三次元プリンティング義歯のデザイン上の注意点とプリンティング成功の秘訣、および仕上げ工程について解説。デザインにはじまり、ティッシュコンディショナーが付与された試適用義歯のスキャンや本義歯のプリントや仕上げまでを含めて包括的に示した。そして山崎氏は自院で石川氏とともに臨床に携わる立場から、三次元プリンティング義歯で得られる時間的コストの削減やアナログによる製作工程とくらべて遜色ない精度が得られること、またデジタルでもアナログであっても印象採得が重要であり、その基本は不変であること、そして最後に、三次元プリンティング義歯が保険診療に導入されたことにより、日本の歯科医師と歯科技工士はこの分野で世界を牽引する存在になってゆくであろうとした。
(3)シンポジウム2「CAD/CAM 冠の現状と今後の期待」疋田一洋氏(北海道医療大学歯学部口腔機能修復・再建学系デジタル歯科医学分野)、正木千尋氏(九州歯科大学口腔再建補綴学分野)、新谷明一氏(日本歯科大学生命歯学部歯科理工学講座)、座長:小峰 太氏(日本大学歯学部歯科補綴学第Ⅲ講座)
本シンポジウムでは、「CAD/CAM 冠が先導する保険診療のデジタル化」と題して疋田氏が、「エンドクラウンの有用性と今後の展望」と題して正木氏が、そして「CAD/CAM にて製作されたコンポジットレジンブリッジの評価」と題して新谷氏がそれぞれ登壇。疋田氏は、デジタル歯科学会の会員数の推移と保険診療において導入されてきたデジタル関連装置・技術が連動してきたことや、現在保険診療で行うことのできる最新の内容について示したうえで、10年後について展望。CAD/CAM冠用ブロックの新規開発やAIの活用、そして支台歯形成の自動化などに期待したいとした。正木氏は、エンドクラウンについて初めて言及されたPissis P(1995)の論文の紹介にはじまり、この10年でPubMedにおける論文数が増えているとしたうえで、ポストクラウンとの違いや確実な窩洞形成・接着操作の重要性や、クリアランスが確保できない臼歯部症例への活用などについて示した。そして新谷氏は、2025年10月に日本歯科理工学会および日本補綴歯科学会より公表された「コンポジットレジンを用いた3ユニットCAD/CAM ブリッジの具備すべき機械的性質要件に関する基本的な考え方」に基づき、一体構造ならびに2層構造(ファイバーフレーム併用型)など複数のデジタル製作様式における構造的特徴を整理。すでに保険適用となっている高強度硬質レジンブリッジと比較して、CAD/CAMにて試作されたコンポジットレジンブリッジ(CAD/CAMブリッジ)は同等以上の機械的性質を有しているとした。
(4)特別講演「アバターと未来の医療」石黒 浩氏(大阪大学基礎工学研究科/ATR石黒浩特別研究所)、座長:柏木氏
本演題では、アンドロイド研究の第一人者であり、2025年の大阪・関西万博にてパビリオン「いのちの未来」をプロデュースした石黒氏が登壇。アバターとはインターネット上の仮想世界においてユーザーの分身となる存在であり、実際に人型として動くものと、画面上でキャラクターが動くものの2種に大別される。講演中では、石黒氏みずからの姿を再現し、そして石黒氏のすべての著書のデータを取り込んでいるという「ジェミノイドHI-6」が人と会話している様子をはじめ、石黒氏が携わった各種システムが5才児検診や遠隔診療、児童精神科の現場、さらにはコンビニエンスストアなどで活用されている様子が紹介された。このように、時間や場所の垣根を越え、障害などで外出できない人にも活躍の機会を与えるアバターにより、ダイバーシティやインクルージョンがもたらされる共生社会の実現が目標であるとした。
(5)特別セミナー「デジタル歯科が拓く持続可能な歯科医療の未来」高橋英登氏(公益社団法人日本歯科医師会会長)、座長:末瀬氏
本演題では、日本歯科医師会の活動とその意義、診療報酬改定の流れと過去からの動向、薬科と歯科の診療報酬の逆転、全身と歯科、なかでも心臓外科周術期の口腔ケアの意義などについて示された。またデジタル歯科関連としては、今後の進化が見込まれるCAD/CAMコンポジットレジンブリッジや鋳造チタンブリッジの紹介、令和8年度の歯科診療報酬改定で新設される「3次元デジタル加算」の解説、また歯周組織検査票の音声入力による歯科衛生士の省力化や経済産業省が実施する「中小企業省力化投資補助金(一般型)」を活用したデジタル機器の導入など、多岐にわたるトピックが示された。
(6)歯科技工士セッション「ʻ伝えるʼからʻ共有するʼへ ―歯科技工士と歯科医師の新しい関係―」木村健二氏(歯科技工士、協和デンタル・ラボラトリー)、座長:陸 誠氏(歯科技工士、コアデンタルラボ横浜)
本演題では、過去30年以上にわたり歯科技工に携わってきた木村氏が登壇。「今後の歯科技工士の仕事の本質は、“技術”ではなく“役割”へと変化する」とした上で、AIやクラウドサービスの進化や自社で導入してきた装置・ソフトウェアの変遷について紹介。とくにクラウドサービスに関しては、歯科メーカー各社がそれぞれに別のサービスを提供している現状であるため、自社で統合できるシステムを開発しているとした。また、現在の歯科技工界においては「産業革命以上の歴史的転換点で仕事ができることを楽しむ」べきであることを強調。CAD/CAM領域での作業が増えていくなかで、自分たちが変化していくことが重要であるとした。
このほか、会場では前述したものを含めシンポジウムが5題、企画講演が2題、スポンサードセミナーが2題、ランチョンセミナーが5題、歯科衛生士セッションが1題、そして学会企画講演1題およびポスターセッションが行われ、いずれも盛況となっていた。
なお、次回学術大会は、きたる2027年5月15日(土)、16日(日)の2日間、横浜市開港記念会館(神奈川県)において、鶴見大学を主管校に小川 匠氏(鶴見大学歯学部クラウンブリッジ補綴学講座)を大会長として開催予定である。