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2021年9月15日掲載

日本酒「SAKE」の世界へようこそ

美酒へのいざない (第8話)

美酒へのいざない (第8話)

第8話:秋に愉しむ「冷卸(ひやおろし)」

江戸時代から偶発的要因によって生まれた秋の旨酒
 夏酒は、我々日本酒に現在携わっている人たちの営為で2000年代半ばに生み出されたものでした。今回はそれとは異なり、江戸時代から各種の偶発的要因によって生まれた秋酒についてふれてみたいと思います。

 日本酒の世界では、秋の雰囲気をまとった酒のことを冷卸(ひやおろし)といいます。専門用語の詳細については他に譲るとして、ここでは簡潔にお伝えします。昔の頃、現在ほど酒造技術が高まっておらず、寒造りとよばれて冬に仕込んだ日本酒は、出来立ては渋く必ずしも旨いと評されるものではなかったようです。ちなみに、精米技術も現在ほどではまったくなく、よって高精米原料を用いるいわゆる純米大吟醸などとは大きく異なる味わいのものが当時主流だったろうとイメージします。

 また、発酵食品である日本酒は、内在する微生物の管理も流通上重要であり、当時は主に殺菌効果が見込まれる加熱処置を数回行うのが理想的でした。加熱処置を重ねると日本酒の風味がどんどん損なわれてしまいますし、そもそも江戸時代にたくさんの日本酒を加熱する熱量、つまり熱湯を用意するのもたいへんでした。殺菌などの処置が未熟な日本酒を、できあがってから気温が上昇する春や夏などに流通させると、衛生上非常にリスクが高まってしまいます。これらの課題を一挙に解決する方策が秋に流通させるというものでした。

 冬にできあがったものをおおよそ半年間熟成させて秋まで待つことで味わいにまとまりが出てきて旨味が増してきます。加えて、秋を迎えて醸造酒の品質の変化が加速度的に早まるといわれる気温20~25℃を下回ってきますと、加熱処置を数回重ねなくても比較的安心安全に日本酒を流通させることができます。この気温が低くなった→空気が「冷」えてきた頃に、流通させる→「卸す」ので冷卸(ひやおろし)とよばれるわけです。昔から秋の旨酒として愛されまして、現在では秋上がりなどとも称されます。

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