2023年3月1日掲載
―患者さんとスタッフを幸せにする処方せん―
第3回 男性脳と女性脳の違いは?
第3回:男性脳と女性脳の違いは?
男性脳は解決志向型、女性脳は共感志向型
近年、歯科医院は女性が半数以上の職場となっていて、院長以外のほとんどは女性ということも増えてきました。では、男性の院長が女性スタッフとコミュニケーションを取るとき、男性脳と女性脳の違いで気をつけたほうが良いことはあるでしょうか。
私が企業の管理職などに「聴く力を高める」トレーニングを実施していると、男女を問わず「女性のほうが共感が得意ですか?」という質問を受けます。また、男性の管理職からは「どうして女性はくだらないと思えるテーマで、あいづちを打ちながら、話を聞くことができるのでしょうか。私には無駄に思えてとてもできません。女性社員と接するときはそれを我慢しないといけないのでしょうか」と相談を受けます。
話をする、話を聞く、あるいは物事の判断や解決への進め方に関して、男性と女性で違いがあるのでしょうか。
1982年、Science誌で男性と女性では脳梁の厚さが違うことが発表されました1。脳梁とは、右脳と左脳の橋渡しをする役割があり、この厚さは男性のほうが厚く、女性は薄いそうです。つまり女性のほうが右脳と左脳の行き来が活発で、人の話を相手の立場になって聞きながら、自分ごととしても捉え聞くことができるそうです。
また男性は解決志向の脳、女性は共感志向の脳といわれ、男性は話を聞くと、すぐに片方の脳を使って解決を考えます。一方、女性は感情と言葉の行き来がうまく、感情で受け止めかつ言葉で受け止める力が強いそうです。
脳科学・人工知能研究者である黒川伊保子さんが書かれた『女と男はすれ違う! 共感重視の「女性脳」×評価したがる「男性脳」』(ポプラ新書)は、男性と女性という単純に分けるステレオタイプ的な捉え方などとてもわかりやすく解説されていて、120万部も売れています。
男性脳と女性脳の違いはなく個人差!
では本当に男性脳と女性脳の違いは本当にあるのでしょうか。2015年にMRIを用いて281名の脳を測定した結果では「男性」「女性」で違いはなく、個人差が大きいという結果が出ています2。
女性であっても解決志向の方がいますし、ビジネスで鍛えられた女性の中には、「私は完全に男の脳なのよ!」と話す方もいます。一方、男性であっても共感志向の方もいます。男性脳、女性脳というより、共感型が強い方や解決思考型が強い方がいるのです。そして共感型と解決型に関しては、仕事の場合と、育児や家事、友人と会う場合というように切り替えることができる方、役割によって変えることができる方がいます。
脳の機能・構造はつねに固定されているものではなく、大人になってからも変化し、社会や教育の影響を受けます。運転や楽器の練習を続けると変わるという報告があります。子どもの研究では、厳しい体罰により前頭前野(社会生活をする上で非常に重要な脳の部位)の容積が19.1%減少し、言葉の暴力により聴覚野(声や音を知覚する脳の部位)が変形した日本人研究者の報告があります3。また心理学の研究では、思いやりと関心は従業員の忠誠心と信頼を高めるというイギリスの研究や、人間は恐れと不安を抱くと脅威に対する反応が起動し、認知制御が悪影響を受け、生産性と創造性が損なわれてしまうという米国スタンフォード大学の研究があります。
したがって、男性脳や女性脳というステレオタイプな見方で人を決めつけるのではなく、院長がスタッフそれぞれの個性や強み、価値観を把握し、異なったピースを組み合わせて歯科医院の総合力を高めていくことが望まれます。
歯科医院の総合力を高めるために必要な「聴く力」
一人ひとりを承認・尊重してお互いが信頼感あふれる職場をつくっていくためには、院長だけがスタッフの個性などを知るのではなく、相互理解があったほうが歯科医院の総合力が高まります。院長は、スタッフそれぞれの個性を知ることをスタートさせ、また一人ひとりが個性を発揮しながら総合力を高める取り組みを決定し、推し進めていくのもリーダーとしての役割です。さまざまな環境で育ち、個性をもつ歯科医院のスタッフの思いやりと関心をつくり出すには、相手のことをよく知る「聴く力」がたいへん役立ちます。
どんな時に共感型あるいは解決型を発揮するか、共感と解決を発揮する順番はどのような順番が良いかなど状況によって異なりますが、状況を把握するには「聴く力」です。緊急時には共感より解決が優先されます。悩みや未来についての相談などは、状況や想いを相手の立場で理解する「共感型理解」を行った後に解決に進むほうが望ましいです。
多忙な歯科診療ですが、顧客を大切にすることはもちろん、スタッフの一人ひとりも尊重するための時間を設けることで、きっと歯科医院の力が高まるはずです。