2026年6月号掲載
【PR】クラレノリタケデンタル株式会社Presents 特別座談会 Dr. Blatz と学ぶ、 ジルコニアと接着の現在地&将来像
※本記事は、「クイント・オーラル・インフォメーション 2026」より抜粋して掲載。
今回は、米国ペンシルベニア大学教授のMarkus B. Blatz 氏、そしていずれも日本臨床歯科学会に所属し、臨床はもとより講演・執筆でも活躍する開業医の西山英史氏(西山デンタルオフィス)、髙山祐輔氏(新百合ヶ丘南歯科)、小林豊明氏(五大歯科)の4氏に、ジルコニア材料の活用とその接着に関する最新事情と今後の展望について、症例を交えつつ語っていただいた。
はじめに
小林:本日は、クラレノリタケデンタル社の接着材料・ジルコニアセラミックを軸に、「現在のジルコニアは臨床でどこまで使えるのか」「適応と勘どころは何か」「接着をどう捉えるべきか」を整理することを目的としてお集まりいただきました。
近年、日本でもジルコニアは若手の先生ほどファーストチョイスになりつつあり、材料もスーパートランスルーセント/ウルトラトランスルーセント、さらにマルチレイヤードへと進化してきました。一方で、実臨床では「どの症例に適用できるか」「注意点は何か」「接着はどこまで信頼できるのか」などのコンセンサスが、まだ十分に得られていない場面もあると思います。
私自身は、ペンシルベニア大学での留学中にBlatz先生と材料研究に携わり、ジルコニアに関するエビデンスが臨床へ実装されていく過程を見てきました。今日は、現時点の到達点と今後の発展まで議論できればと思います。ですがその前に、われわれが所属する日本臨床歯科学会(Society of Japan Clinical Dentistry、以下SJCD)とジルコニアのかかわりについて、東京支部長の西山先生からご紹介いただきます。
日本の、ジルコニアと接着に関するコンセンサスをリードしたい
西山:SJCDは全国で約3,200名の会員を擁し、数年前に学会化して組織的に活動しています。東京支部だけでも約1,000名が在籍し、小林先生や髙山先生のように、若手~中堅が臨床のアップデートに意欲的な点が特徴です。歯科衛生士や歯科技工士との連携も活発です。
私たちは数年前からBlatz先生のAPCコンセプトなどを踏まえてジルコニアを日常臨床へ取り入れてきましたが、今もなお「ジルコニアは接着しない」という“神話”が残っています。そこで、論文を読み、基礎から臨床へ落とし込むという姿勢をグループとして強め、歯科医師だけでなく歯科衛生士・歯科技工士も含めて共通言語をもつことを重視しています。日本のジルコニア、そしてその接着に関するコンセンサス形成をリードしていきたいと考えています。
ジルコニアの接着を裏付ける研究結果に学ぶ
Blatz:素晴らしい取り組みですね。とくに、若い世代への教育は重要です。私が懸念するのは、SNSなどで“見栄えの良い症例”が拡散される一方、根拠となるプロトコールが示されない、あるいは誤情報が混在する点です。著名な先生の発言ほど影響が大きく、基礎理解が不十分なまま模倣が起こるのは危険です。
私が伝えたいことは単純で、「なぜそうするのか」を理解し、自分で判断できるようになってほしい、ということです。私たちは患者さんを治療する特権をもちますが、その責任として、材料を理解し、適切な患者に適切な材料を使わねばなりません。
西山:日本では、論文を自ら読み、内容を咀嚼したうえで臨床に落とし込むという姿勢が十分に定着しているとは言えません。「だれかがそう言っていたから」「ジルコニアは接着しないと聞いたから使わない」といった、他者の発言に依拠した判断が少なからず見受けられます。しかし今後は、基本に立ち返り、文献を自ら読み、自分の頭で考えたうえで臨床に活かしていく姿勢が不可欠だと考えています。SJCDはオピニオンリーダーが集う組織だからこそ、方向性を誤ることなく、Blatz先生の論文をはじめとしたエビデンスを正しく伝えていきたいと思います。
髙山:日本では長らく、研究に従事する歯科医師と臨床を担う歯科医師が分断されている状況が続いてきました。しかしSJCDは数年前に学会化したことで、臨床家自らが日常臨床で抱いた疑問を出発点に原著論文を作成し、検証のために統計解析を行うという流れが、この5年ほどで着実に形成されてきています。
Blatz:すばらしい取り組みですね。こうした中、私の研究の出発点は、2000年ごろに「ジルコニアのボンディング」をテーマにしたことでした。最初に行ったのはシステマティックレビューで、セラミックの種類が異なれば、ボンディング法も異なるという考えかたを提示しました。
ここでよく起こる誤解は、接着のインターフェースが2つあることを見落としている点です。ひとつは歯質側、もうひとつはセラミック側。議論がセラミック側だけに偏ると、「シリカ系のほうが接着が良い」「ジルコニアは接着しない」といった短絡的思考に陥りやすいのです。重要なのは、臨床として成立するレベルで歯質側の接着と整合することであり、その条件が満たされていれば、セラミック側の“数値の差”だけで優劣を断じるのは本質的ではありません。
私がつねにお伝えしているのは、「セラミックに対する接着が、歯質に対する接着と同等のレベルで確立していれば十分である」という考え方です。その条件が満たされているのであれば、セラミック側の接着が“どれだけプラスαで優れているか”という点は、本質的な問題ではありません。
しばしば、「シリカベースのセラミックのほうが接着に優れる」という議論がなされます。たしかに、その主張が成り立つ側面もあります。表面に対する接着強度のみの数値を比較すると、シリカ系セラミックのほうが優れた結果を示すように見える場合があります。しかし重要なのは、接着強度の絶対値ではなく、failure mode(破壊様相)です。シリカ系セラミックでは、接着強度試験において、セラミック内部での凝集破壊が生じることがあります。これは、シランカップリング処理後に典型的に認められる現象です。一方、アルミナやジルコニアでは、主として界面破壊が観察されます。この違いが、議論の混乱を招く大きな要因になっています。
しかし、ジルコニアに関しても、適切なエアアブレーション、「クリアフィル® セラミック プライマープラス」(クラレノリタケデンタル)などのMDP®を含有するプライマーと「パナビア® V5」のように適切なレジンセメントの選択と使用といった正しいプロトコールを遵守すれば、歯質に対する接着と同等レベルの良好な接着が得られます。臨床的に本当に重要なのは、どのインターフェース(歯質側か、セラミック側か)がボトルネックになっているのかを見極めることです。その視点を欠いた議論は、臨床的な意思決定には結びつきません。
私たちが初めて行ったin situの臨床試験では、呼気・吸気による湿度の影響でエナメル質への接着力が大きく低下することも示されました。つまり、接着の成否は材料論だけでなく、防湿(ラバーダムなど)を含む臨床環境に強く左右されます。
臨床データとしてはとくに、Matthias Kern先生(故人、キール大学〔ドイツ〕)のジルコニア接着ブリッジの研究において15年間で98%の成功率という良好な成績が報告されています。失敗が起こる場合も、かならずしもジルコニアが接着しないからではなく、設計(リテイナーの数や可動要素)など構造的要因が支配的なことも多いとされています。材料の利点だけでなくその限界も理解し、失敗を材料のせいにしない姿勢が大切です。
出席者それぞれのジルコニア&接着症例供覧
小林:それではここからは、今回参加されている歯科医師それぞれから、ジルコニアと接着技術を活用して症例を供覧させていただきたいと思います。
まず私から、矯正歯科治療を併用し、
の矮小歯にジルコニア製ラミネートベニアを装着した症例を示します(図1~4)。叢生があり補綴スペースが不足していたため、術前にデジタルプランニングを行い、IOS・CT・口腔内写真を重ね合わせて移動量を設計しました。
スペース確保後、モックアップと形成ガイドを用いて支台歯形成し、歯肉縁上マージンで仕上げました。周囲の歯がホワイトニングされており明度が高かったため、最終材料にはジルコニアを選択しました。正中・スマイルライン・切縁位置の左右対称性を意識し、自然な見えかたになるよう意図しました。
Blatz:接着時にラバーダムを用いた点が良いですね。
小林:矮小歯では、材料によっては破折のリスクが課題になりますが、ここでジルコニアを選択できるのは強度面でメリットが大きいと感じます。
Blatz:そうですね。やはり強度がすぐれているという点があると思います。
髙山:また、二ケイ酸リチウムですと、条件によって透過で暗く見える場面があります。今回のようにマテリアルスペースが大きいケースでは、ジルコニアのほうが明度コントロールの自由度が高い印象です。一方で、切端の透明感はエナメルと同一にはなりにくいので、症例によってはカットバック+レイヤリングも選択肢でしょう。
Clinical case 1:Dr. Kobayashi

矮小歯の審美的改善を希望された。図2 矯正歯科治療後:
、
の幅径を揃えた。
図4 術後:マイクロレイヤリング法によるジルコニアラミネートベニアを製作・装着した。ホワイトニングシェードのジルコニアに0.3mmほどのマイクロレイヤリングを行い製作した。
小林:それでは次に、髙山先生から片側リテイナー型ジルコニア接着ブリッジのケースを供覧していただきます。
髙山:
、
の先天性欠損に対し、矯正歯科治療終了後に補綴依頼で紹介された症例です(図5~8)。機能面を考慮し犬歯誘導を与える設計で、歯科技工士とワックスアップから計画しました。歯肉形態の課題もあったため結合組織移植を併用し、軟組織の安定後に最終補綴へ移行しました。
補綴は片側リテイナーの接着性ブリッジとし、形成は可能な限りエナメル質内で、マイクロスコープ下で象牙質露出を最低限に抑えています。内面処理はエアアブレーション後、MDP®含有のプライマー処理と適切な接着操作を行い、ラバーダム下で接着しました。経過は良好で、患者満足も高い症例です。
Blatz:設計が適切です。両側リテイナーは可動要素が増え、片側が脱離・破折しやすい。脱離後に片側で保持させると成績が改善する、という知見とも整合します。問題を「接着」だけに帰すのではなく、設計と力学で捉えるべきです。
髙山:私がこの治療を行ったのは2016年でしたが、その時点ですでに、片側性の接着性ブリッジが有利であること、およびジルコニアは適切なプロトコール下で確実に接着可能であることについて、約10年のサバイバルデータが報告されていました。私はそれらのエビデンスを根拠に、本症例の治療を開始しました。
その後、さらに15年のサバイバルレートに関する報告も公表されていますが、私が治療を行った当時は、ちょうど「10年予後のデータが新たに示された時期」にあたります。
Kern先生も繰り返し指摘されているように、シングルリテイナー設計が圧倒的に有利であるという点は、これらの長期データからも明確になっていますので、確信をもって取り組むことができました。
Clinical case 2:Dr. Takayama

、
の先天性欠損に対し、矯正歯科治療終了後に補綴依頼で紹介された症例。
小林:それでは最後に、西山先生からお願いいたします。
西山:
の咬合痛と前歯部の審美性改善を希望した患者さんです(図9~12)。
は歯根破折で抜歯と診断し、欠損部にはインプラントを計画しました。前歯部は歯科技工士とのコミュニケーションのもと、プロビジョナルレストレーションで形態を検証しながら全顎的に最終補綴へ移行しました。
この症例は、5年前のデジタル技術ではスマイルデザインなどに時間を要しましたが、デジタル咬合器へのトランスファーを含め、プロセス全体をデジタルで統合できたことが印象的でした。最終補綴装置は、上顎はジルコニアをフェイシャルカットバックしてライトレイヤリングおよびステイニング、下顎はモノリシックジルコニアでステイニング、で仕上げていただきました。このレベルの質感が再現できると、臨床でジルコニアを選べる場面が明確に増えますね。一方で、ブリッジを従来型セメントで装着すると、片側脱離から対応困難に陥ることがあり、支台歯への確実なボンディングの重要性を痛感しています。
Blatz:フルカバレッジのクラウンでは、状況によりペースト中にMDP®を含有するセルフアドヒーシブ系レジンセメント「SA ルーティング Multi」を選ぶこともあります。防湿が不完全なケースでは、複雑な手順を増やすほど失敗しやすいですから。とはいえ、内面のエアアブレーションは必須です。
Clinical case 3:Dr. Nishiyama
図10 デジタルソフトウェア上で画像の合成を行い、さらにそのデジタル上でワックスアップを行っていく。最終的なデジタルワックスアップの完成時。
終わりに:将来への展望
小林:デジタルデンティストリーの進展とジルコニアは、相性が良いと感じます。今後の関係性をどう見ますか。
Blatz:ジルコニアの加工は、デジタルなしに成立しません。現在はスキャナー精度そのものよりも、スキャン品質が術者に依存する要素が大きくなってきています。また教育も「どうスキャンし、どう設計し、どう作るか」へ移っています。AIの導入で、デザインはさらに短時間で高品質に行えるようになってきました。
そして将来は、ジルコニアも3Dプリンターでのプリンティングが鍵になる可能性があります。ただ現時点ではミリングが優位で、プリンティングはまだ物性面で課題が残ります。もし、複数レイヤー/複数材料のプリントが実用化されれば、天然歯に近い光学特性の再現に道が開けるかもしれません。分光計やAIが材料選択(レシピ化)を支援する技術も、すでに一部で始まっています。
髙山:これを含め、審美と強度のトレードオフを埋める技術がさらに進むことを期待したいですね。クラレノリタケデンタルさん、ぜひお願いします。
西山:新しい材料にはかならず反対意見が出ますが、メリットを正しく見極め、若い世代が方向性を誤らないよう、私たちがエビデンスベースで牽引していきたいと思います。
Blatz:日本の企業や歯科技工のレベルは非常に高いです。既存の技術をブラッシュアップすることに加え、やはりジルコニアのプリンティングを進めてほしいと思います(笑)。最後に私からは、「患者さんのために、患者さんにとって最良の材料を選んでください」というメッセージをお伝えしたいと思います。
―本日はありがとうございました。