2018年1月27日掲載
官・産・地域の先駆的取り組みを共有
平成29年度 口腔衛生関東地方研究会大会 開催

わが国では母子保健、学校保健、成人保健(産業保健)、高齢者保健と、各ライフステージに沿ったさまざまな保健活動が行われているが、現実には、縦割りの弊害により効果的に連携した取り組みは少ないのが現状である。そこで本大会では、ライフコースを通した歯科保健の展開を目指し各分野で先駆的な取り組みを行っている先生方に、経験や知見を共有してもらうことを目的としている。
行政の分野からは、鳥山律子氏(東京都足立区衛生部データヘルス推進課)、産業保健の分野からは、加藤 元氏(日本アイ・ビー・エム健康保険組合予防歯科)、地域歯科保健の分野からは、東京都港区芝歯科医師会の福澤洋一氏(東京都開業)がそれぞれ官・産・地域の取り組みを講演した。
鳥山律子氏の演目は、「糖尿病アクションプランにおける歯科口腔保健対策について」。足立区では現在、区民の健康づくりのために糖尿病対策を推進しており、その主軸のひとつに歯科口腔保健を捉えている。早食いや丸のみ、軟らかい炭水化物過多の食生活は肥満や糖尿病につながりやすいが、それを防ぐにはよく噛めることが大切だとして、子どものころからの歯と口の健康維持に重点を置いている。
具体的には、むし歯が急増しやすく、かつ3歳児歯科健診と就学時歯科健診の空白期間となりやすい4~6歳の児童全員への歯科健診の機会の提供(年1回)や、健診後に治療が必要な児童を歯科医療機関につなぎ、その結果を集約・フィードバックする仕組みが構築されている。
また、成人の糖尿病の重症化予防には、59歳以下の区民でHbA1cが7.0%以上、かかりつけ歯科医のない人に、内科医の紹介を通じ無料で歯科健診を受けられる「医科歯科連携チケット」を提供している。
続いて、加藤 元氏が「働く人々を合点で動かす 産業歯科保健の今とこれから」を演目に講演。日本アイ・ビー・エム健康保険組合では、通常の健康診断にくわえ、希望する社員に歯科健康診断も行っている。2004年から実施されているこのプログラム(p-Dental 21:「nico」2017年2月号にて特集)には毎年約3,000名が参加し、これまでの参加人数はのべ2万5,000名超。
健診は歯科医師とのインタビューに始まり、歯周病検診に続き、歯周病のメカニズムの説明、セルフケアの指導で終わる。全体で約30分で、単に疾患の検査に終わらず、歯周病の原因を説明する、CCDカメラで口腔内を見せる、位相差顕微鏡で口腔内の細菌を観察してもらうというふうに、参加者の「合点」を重視した内容になっている。健診の実施後には、満足度調査や、その後のセルフケアのようすを尋ねるメール、予防の知識をまとめたウェブサイト「い~でんたるへるす」の活用を促すといった、参加者へのフォローアップも行っている。
とくに、プローブを歯周ポケットに差し込んだ状態をCCDカメラで撮影し見せるというのは、ポケットの深さが一目瞭然となり、参加者の心に響くという。
最後は福澤洋一氏が「地域歯科医師会は歯科保健の総合百貨店 ライフコース売り場と特別催し物会場のご案内」という演目で講演。港区では、保健所と歯科医師会が協働で「お口の健診」事業を毎年行っている。20歳以上の区民は、期間中は1回無料で歯科健診を受けられるというもので、通院が難しい区民には訪問での健診も受け付けている。
健診には、問診、診査のほか、唾液検査や咀嚼機能検査(ガム)、舌の汚れの検査も含まれ、歯と口の健康維持に関して総合的な指導が行われる。健診結果はそれぞれの項目で点数化されており、自身の状態がどれくらい改善・悪化したかが一般の人にもわかりやすく、モチベーションアップにつながりやすい仕組みとなっている。
平成28年度の「お口の健診」の受診実績は、20,166件。受診データはすべてコード化されているため、コホート研究にも生かせるという。