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2021年4月10日

日本歯科理工学会、第77回学術講演会を開催

「さらなる歯質接着の可能性を探る!」をシンポジウムテーマに

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 さる4月10日(土)、4月11日(日)の両日、タワーホール船堀(東京都)とオンライン配信において、日本歯科理工学会(早川 徹理事長)の第77回学術講演会が開催された。会場とオンライン配信のハイブリッド形式の開催は同学会初の試みだったが、参加者290名を超える盛会となった。

 1日目午後の特別講演では、「令和を迎えた歯科理工学―平成の30年を振り返って」と題して、玉置幸道氏(朝日大教授)が講演。日本歯科理工学会の歴史と、歯科材料の変遷を振り返った。歯科材料の変遷をたどるにあたり、氏が平成元年(1989年)と令和元年(2019年)における同学会講演会における研究発表の内容を比較したところ、次の傾向が見られた。

・有機材料は、コンポジットレジンの研究が多いことは変わらないが、CAD/CAM用コンポジットレジンの研究が増えた。
・無機材料は、リン酸カルシウムの研究が多いことは変わらないが、ジルコニアなどの新素材がクローズアップされてきた。
・金属材料は、30年前はほぼ貴金属合金の研究だったのが、チタン合金やチタンインプラントの研究が増えた。

 特にチタンについては、2020年6月のチタン鋳造冠の保険導入は、日本歯科理工学会と日本補綴歯科学会の共同提案が契機であったことが強調された。

 2日目午前には、塩谷公貴氏(茨城県開業)が「歯科用レーザーの機械的特徴と臨床応用~Er:YAGレーザー『Erwin AdvErL EVO』の特徴と臨床活用法~」の演題で講演。CO2レーザーをはじめ各種歯科用レーザーの特徴と、その特徴に合わせた臨床応用法を紹介した。多種多様なレーザーを臨床で用いている氏だが、最近はEr:YAGレーザー装置の「Erwin AdvErL EVO」(モリタ社)を愛用しているという。その理由は、水を含む生体組織に対する蒸散能力が高く、万一誤操作があっても先に水に反応するため安全性が高い、チップの種類が非豊富、接触型のため患部に当てやすいといったことにあると述べた。
 
 続いて同日午後には、学会主導型シンポジウム「さらなる歯質接着の可能性を探る!」が行われ、日本歯科理工学会からは二瓶智太郎氏(神歯大教授)、日本歯科保存学会からは亀山敦史氏(松本歯科大教授)、日本小児歯科学会からは八若保孝氏(北大教授)、日本補綴歯科学会からは小峰 太氏(日大歯学部准教授)、日本接着歯学会からは田上直美氏(長崎大学病院准教授)ら各学会から計5名のシンポジストが順に講演した。

 トップバッターの二瓶氏は、「これからの歯質接着で必要なことは?」と題して講演。シンポジウムのモデレーターとして、次に続く講演の理解の助けとなるよう、これまでのレジン接着システムの構成と歯面処理操作法を概説した。
 
 二人目の亀山氏は、「『見えない』接着から『魅せる』接着への転換」と題し、診療環境で身近に潜んでいる接着阻害因子について述べた。氏がおもに挙げた「見えない阻害因子」とは、湿度と光照射の出力不足。接着材料が最大限に性能を発揮するには、ラバーダムなどで口腔内湿度をコントロールすることが不可欠であるほか、光照射器の出力低下も思わぬ接着阻害因子になっていると説明した。

 次に「小児歯科における接着について」の演題で、八若氏が講演。乳歯・幼若永久歯の特徴にはじまり、シーラント充填、歯の成形修復、外傷治療、咬合誘導など、小児歯科臨床における接着の利用を詳説した。シーラントにはレジン系とグラスアイオノマーセメント系があるが、氏は辺縁破折が起きた箇所から二次う蝕になるリスクや歯質への接着性を考慮し、グラスアイオノマーセメント系を用いていると述べた。

 その後に講演した小峰氏は、「ジルコニア接着ブリッジの現状と可能性」と題し、接着ブリッジの接着方法の再確認や、長期安定性を得るための要件を解説した。接着ブリッジは、片側性リテーナーと両側性リテーナーのどちらが良いのか。氏は、ジルコニアの接着ブリッジでは、リテーナーにかかるストレスを逃がせる片側性が長期安定性にすぐれると考えている。破壊強度試験の結果や先行研究、そして自身の10年以上の長期症例をもとにその根拠が提示された。

 最後の演者となる田上氏は「歯を活かすための接着を実現しよう」と題して講演。万一、修復物が脱離・破損した際に残存歯質を守るためにはどこが壊れるほうがいいのか、そしてそのためにはあえて接着強度に差を設けておく必要があることを述べた。たとえば根管治療をした失活歯の場合、残った歯根が破損・破折するのが歯にとっては最悪のシナリオである。このようなケースで、過負荷が起こった際に冠が脱離するのなら、歯根へのダメージは最小限に抑えられる。冠が脱離するように仕向けるには、支台築造用コンポジットレジンと歯間修復用材料のあいだのセメント材料の接着強度を下げておくとよい――接着界面の強さに差を設けて術者が望む脱離の仕方を実現するこのような手法は、接着システムへの理解があれば、自由自在とはいわないまでも選択できるようになると説明した。

 次回の第78回学術講演会は、きたる10月16日(土)、17日(日)に神戸商工会議所会館(兵庫県)にて開催される予定である。「歯科理工学東西対抗戦」と題し、所属する地方会により東と西に分かれた演者が研究を発表し合う構想だ。