Quint Dental Gate 歯科のコミュニケーションサイト

文字サイズ
標準
特大

トピックス


2021年6月6日

日本臨床歯科学会東京支部、2021年度第1回 Web例会を開催

全国各地から約300名が視聴

ログインされますと、関連書籍が表示されます。
会員でない方はこちら
(※関連書籍がないトピックスは表示されません)

 さる6月6日(日)、日本臨床歯科学会東京支部2021年度第1回Web例会(日本臨床歯科学会東京支部主催、大河雅之東京支部長)が開催された。日本臨床歯科学会東京支部では例年、メインイベントの1つとして年に3回の集合型例会を開催してきたが、今般のコロナ禍を受けて2020年3月の「2019年度第3回例会」を最後に自粛を余儀なくされてきた。しかし、2021年度からは学術活動を本格的に再開することを決定し、このたびのWeb例会が実現した。当日は、従来の集合型例会と比較しても遜色ない約300名が視聴し、気鋭演者によるケースプレゼンテーションと著名演者らによる教育講演、そしてディスカッションを通じて学びを深めた。以下に、各演題の概要を示す。

(1)ケースプレゼンテーション「全顎的咬合機能回復と前歯部審美障害の回復を図った症例」(高山祐輔氏、東京都開業)
 本演題では、下顎左側臼歯部の歯肉腫脹を主訴に、ガミースマイルの改善や既存補綴物の再治療も希望して来院した初診時63歳女性に対して全顎的治療を行った症例を提示。初診の状態ですでに左右上顎臼歯部および下顎右側臼歯部に合計8本のインプラントが埋入されており、考慮事項の1つとなった。また、下顎左側臼歯部の歯肉腫脹は5ユニットブリッジの支台歯となっていた下顎左側第三大臼歯の歯根破折によるものであることがX線検査から明らかとなった。下顎前歯部の咬耗と叢生や臼歯部の咬合干渉もみられ、すでに前医で歯冠長延長術と補綴治療を受けていた上顎前歯部はインサイザルエッジポジション・歯頚ラインともに不整であった。その他、日本臨床歯科学会の検査用チャート(SJCDチャート)に則った基本的な検査・診断、治療計画の立案を経て、患者にとって2回目となる上顎前歯部の歯冠長延長術、下顎前歯部のアライナー矯正治療、下顎左側臼歯部へのインプラント埋入、既存のインプラントに対するカスタムアバットメントを製作したうえでの再補綴、そして前歯部へのプロビジョナルレストレーション装着から最終補綴装置への流れなどを示し、今後のメインテナンスについての抱負を述べた。

(2)教育講演「The Porcelain Laminate Veneer Innovations in the past two decades ラミネートベニア治療の20年の変革」(大河氏、東京都開業/山本恒一氏、大阪府開業)
 本演題では、大河東京支部長と、大阪府内で開業しつつ東京支部に所属し、大河氏ときわめて近い距離で研鑽を続けてきた山本氏が共同で登壇。約2時間にわたり、「Chapter 1:The history of laminate veneer restorations」「Chapter 2:Materials in digital ceramic restorations」「Chapter 3:The accuracy of digital equipments」「Chapter 4:Preparation design suitable for digital dentistry」「Chapter 5:Clinical cases」の5部構成で、ラミネートベニア修復の黎明期から、現在行いうる最先端のデジタル技術を用いたラミネートベニア製作の実例に至るまで語り尽くした。

 Chapter 1はラミネートベニア修復の歴史や変遷、なかでもDr. Pascal Magne(歯科医師、南カリフォルニア大)とDr. Urs Belser(歯科医師、ベルン大)が著した書籍『Bonded Porcelain Restorations in the Anterior Dentition: A Biomimetic Approach』(米国クインテッセンス出版、2002年。日本語版あり〔小社刊、絶版〕)がラミネートベニア修復にもたらしたインパクトや、その後発展した生体模倣的(biomimetic)なアプローチについて、歯の構造、修復用材料に求められる物性、そして必要とされる支台歯形態などのポイントごとに示した。

 Chapter 2ではCAD/CAMによって加工できる各種材料の特徴を示し、特にジルコニアをラミネートベニアに応用する場合を念頭に接着性、光透過性、曲げ強度、適合精度を検討。そのうえで、ジルコニアは十分ラミネートベニアに用いることができるが、現状では二ケイ酸リチウムのほうが有利な場合も多いため、症例に併せて選択することが必要であるとした。

 Chapter 3では光学印象採得によって生じるエッジロスに着目し、光学印象によってラミネートベニアの印象採得を行うにあたってもっとも適合性を高められる支台歯形態について検討。そのうえで、口腔内スキャナーとミリングマシンの特性を意識したアンダーカットの排除、またCADソフト上での自動補正の解除を軸とした「AISCM」(Analog Inner Surface Correction Method、アナログ内面適合補正)法について示した。また、長石系、リューサイト系、ジルコニア強化リチウム1ケイ酸系、2ケイ酸リチウム系、そしてジルコニア系の5種のブロックを0.3mm薄および0.5mm薄で加工した実験結果を示し、現在のミリングマシンでは0.3mmのミリングも十分可能であるが、チッピングなどのエラーを予防する意味で最低0.2mmのオフセットが必要であるとした。

 Chapter 4ではラミネートベニアの支台歯形態をノンプレップ(無形成)、180°、270°、360°、およびサンドイッチベニアの5種に分類し、それぞれの特徴および注意点、そして適応症などについて示した。また、文献を基に、マージンがフェザーエッジの補綴装置が一般的なものに比べて遜色ないことも示した。

 そしてChapter 5では、Chapter 3で述べたAISCMを用いた臨床例を提示。上顎の正中離開および両側中切歯の形態変更が求められた症例に対し、デジタルの限界を追求した治療プロセスが示された。

 今回はWeb開催であったが、演者らおよび山崎長郎氏(日本臨床歯科学会理事長)、土屋賢司氏(日本臨床歯科学会専務理事)、鈴木真名氏(日本臨床歯科学会常任理事)(すべて東京都開業)らが都内の会場に一堂に会して活発にディスカッションを行うことで、例年と変わらぬ臨場感を届けていた。