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2021年7月10日

有床義歯学会、デジタル義歯ミーティングをWeb配信にて開催

「デジタル義歯Best Buy後悔しない機器選び」をテーマに

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 さる7月10日(土)から、有床義歯学会(山崎史晃実行委員長、亀田行雄会長)によるデジタル義歯ミーティングが「デジタル義歯Best Buy後悔しない機器選び」をテーマに、7月31日(土)までWeb配信にて開催されている。

 本ミーティングは、ここ数年での発展著しいデジタル技術による総義歯の製作について、国内および海外の歯科医師・歯科技工士・デンチュリストが実際に発売されているシステムを基に紹介し、その最前線について語るもの。ディスカッションを含む全9演題、延べ6時間近くにわたり、デジタル義歯の現在を把握できるトピックスが満載の内容となっている。以下に、各演題の概要を示す。

1)「デジタル義歯に何を期待するのか?」(前畑 香氏、神奈川県開業)
 本演題ではまず、2020年に有床義歯学会が会員に対して行ったアンケート「デジタルを用いた歯科治療に関する実態調査」の結果を供覧。設問の中から「デジタル義歯に興味はあるか」「現在、デジタル義歯システムを所有しているか」「現在、デジタル機器を所有しているか」「デジタル機器を所有している場合、何の用途に用いているか」「デジタル義歯導入に何を期待するか」「義歯製作のどの工程にデジタル装置を用いたいか」の6問への回答についてそれぞれ紹介・分析し、デジタル義歯関連装置に興味をもつ回答者が94.7%である一方で実際の普及率は10.5%であること、また導入後は人工歯排列や重合作業の簡略化に期待している回答者がとくに多いことなどが示された。また、前畑氏自身が使用しているシステムとして歯科用コーンビームCT「トロフィーパン スマート オシリス3D EVO」(トロフィー・ラジオロジー・ジャパン,ヨシダ)や3Dプリンター「ゼニスD」(Dentis、ヨシダ)などを紹介し、それらを活用した複製義歯の製作例について紹介。歯科用コーンビームCTとしては唯一とされる義歯のスキャン機能をもつトロフィーパン スマート オシリス3D EVOの利点と使用上のポイントについて示した。

2)基調講演「Digital Dentures the New Frontier」(Mr. Eric Kukucka、デンチュリスト・The Denture Center〔カナダ〕)
 カナダにてデンチュリスト(一部の国において認められている、患者の口腔内に直接触れて義歯の製作と装着を行うことができる歯科技工士の資格)として活躍し、Ivoclar Vivadent社やNobel Biocare社のオピニオンリーダーを務めるKukucka氏は、主にIvoclar Vivadent社のデジタル総義歯製作システム「Ivotion Denture System」について紹介。(1)上下顎の印象採得と仮の咬合採得、(2)デジタル対応フェイスボウによる上顎位置の記録、(3)閉口機能印象とゴシックアーチを用いた咬合採得、(4)試適用義歯を用いた試適、(5)(4)を基にモディファイされた最終義歯の装着、の全工程について解説した。また、Kukucka氏はかねてから有床義歯学会名誉会長の阿部二郎氏(東京都開業)が提唱する「下顎総義歯吸着理論」を学んできたことから、デジタル義歯によって下顎吸着義歯が製作できることも示した。そして、以前からデジタル義歯の課題とされてきた試適用義歯についてもスムーズに製作できることも示し、従来の試適用義歯にくらべて咬合力で人工歯がズレることもなく合理的であることを示した。ミリングマシン「PM7」(Ivoclar Vivadent)による加工精度の高さについても示し、同じデータによる総義歯製作を3回繰り返して計測した結果、誤差が±0.1mmの範囲であったとした。さらに口腔内スキャナーとスマイルデザイン用ソフトウェア(Ivosmile、Ivoclar Vivadent)を用いた即時義歯症例、アナログ工程も交えながらの部分床義歯症例なども示し、まさにIvoclar Vivadent社のシステムで可能な総義歯製作の現状について網羅した。

3)「Digital Dentureの活用法 for Ivoclar Vivadent System」(岩城謙二氏、歯科技工士・Dental Labor IDT)
 本演題では、前項のMr. Kukuckaと同様に「Ivotion Denture System」を導入している岩城氏が登壇。(1)Ivotion Denture Systemを用いたDigital Denture、(2)Digital Denture Bank System~Second dentureの案内~、(3)The Future of Custom Artificial Teeth and Digital Denture、の3つのテーマに分け、(1)ではIvotion Denture Systemの紹介(基本的な工程に加え、人工歯排列のコツや導入の動機)、(2)では歯科技工士がラボ用スキャナーで完成した義歯の形態をスキャン・保存することで、紛失や災害時などに備える「義歯データバンク」の構想について、そして(3)ではデジタル技術を活かし、これまでに発売されてきた各種の著名な人工歯の形態を参考にした機能的な人工歯をジルコニアや二ケイ酸リチウムで製作する方法について示した。

4)「DGSHAPE DWX-52DCiを用いたDigital Denture(CA-DK1、CA-DK1-TRキットの特徴)」(野澤康二氏、歯科技工士・シンワ歯研)
 本演題では、ローランドディー.ジー.社の100%子会社であるDGSHAPE社のミリングマシン「DWX-52DCi」を使用する野澤氏が登壇。DWX-52DCiを中心としたシステム導入に必要な材料・導入費、およびDWX-52DCiを用いた臨床例などについて示した。DWX-52DCiにおいて総義歯を製作するためのカギとなるのは、オプションの「CA-DK1」と「CA-DK1-TR」である。前者では型枠に任意の常温重合レジンをユーザーが注入して義歯床用レジンディスクを製作し、義歯床にはソケットを設けた状態でミリングを完了させ、その後既製の人工歯を常温重合レジンにて接着することで完成させる。また後者では、まず人工歯の配列位置を規定した咬合面形態の陰型を透明なディスクにミリングしたうえでそこに既製人工歯をはめ込み、その上から常温重合レジンを注入して「人工歯つきレジンディスク」を作り、それを最終的にミリングする。前者の利点は試適後に人工歯排列が微調整できる点と、試適時から最終的な人工歯が使用できる点、そして後者の利点は人工歯と床用レジンが接着された状態でミリングできるため接着による誤差が少ない点であるとされた。そして最後に、すでに臨床での実績がある人工歯や床用レジンを用いることができる本システムは、修理、リベース、人工歯交換などこれまでの経験や工程を活かせることがメリットであるとした。

5)「Amann Girrbachのデンチャーシステムについて」(亀遊宏直氏、歯科技工士・KIYU Dental Studio)
 本演題では、「Ceramill Denture System」(Amann Girrbach、朝日レントゲン工業)を使用する亀遊氏が登壇。石膏印象のスキャンから解剖学的ランドマークの設定、その後の人工歯排列や歯肉形成、そして人工歯および義歯床のミリングに至るまで詳説した。本システムでは、専用の義歯床材料(VITA VIONIC Base)と人工歯(VITA VIONIC)、そして接着材(VITA VIONIC Bond、以上3点はいずれもVITA Zahnfabrik、日本国内未発売)を用いることで人工歯の接着精度が高いことが特徴で、人工歯の審美性も高いが、日本国内での薬機認可が取れておらず、その導入が待たれるとした。また、Ceramill Denture Systemで使用できる「Baltic Denture System」(Merz Dental、日本国内未発売)の紹介や、安価なペンタブレットからワコム社製の医療向けペンタブレットに移行して歯肉形成などの作業効率を向上させたエピソードなども示した。

6)「Dentsply Sirona inLab Software 20.0 Denture Module & Digital Denture Work」(小田垣 享氏、歯科技工士・金沢歯科技研)
 本演題では、デンツプライシロナ社のラボ用CADソフトウェア「inLab SW 20.0」に加わった義歯製作機能について紹介。その特徴として、3Dプリンターとミリングのいずれにも対応すること、ソフトウェアがシンプルで使いやすいこと、そしてクラウン・ブリッジ用として実績のある人工歯排列機能「バイオジェネリック」が利用できる点などを示したうえで、3Dプリンターで総義歯を製作した臨床例を提示。現在のところデンツプライシロナ社純正の口腔内使用可能なレジンの薬機認可が取れていないため他社のレジンを用いてはいたが、デンツプライシロナ社ならではの使用感、操作法を示していた。また、3Dプリンティング義歯はミリング法によるものと比較して適合精度にばらつきがあるためにクリニカルリマウントが必須とした。また、最終的には術者のアナログ的な経験・能力が技工のクオリティーに表われるとした。

7)「DENTCAシステムによる3Dプリント義歯」(山崎史晃氏、富山県開業)
 本演題では、デジタル総義歯の世界的な嚆矢のひとつとして著名なDENTCAシステム(DENTCA、クルツァージャパン)を院内に導入している山崎氏が登壇。2013年にデジタル関連装置の導入を開始して以来、現在に至るまでのさまざまなハードウェア・ソフトウェアの紹介を行ったうえで、院内での印象採得から3Dプリンティング、仕上げまでの工程を示した。DENTCAシステムは、ユーザーが個々のPC上にソフトウェアをインストールするのではなく、米国にある本社のサーバーにWebブラウザ経由でアクセスしてWebアプリケーションとして使用するため、つねに最新のソフトウェアが利用可能であるといった利点やその使用工程について示し、また旧義歯形態をラボスキャナーでスキャンしたうえで、取り残した部分をIOSで追加スキャンする「ハイブリッドスキャン法」の紹介、また3Dプリント時のサポート位置と精度の関係に関する考察など、歯科医院内で3Dプリント義歯をワンストップで製作・装着している演者ならではのエピソードが満載の内容であった。

8)「Autodesk Meshmixerについて」(今田裕也氏、歯科技工士・協和デンタルラボラトリー)
 本演題では、CADソフトウェア「Autodesk Meshmixer」(Autodesk)について紹介。2017年ごろからIOSデータにおける技工作業のオーダーが増える中、多くは各メーカーが用意する歯科用CADで問題ないものの、「あんなことができたら……」という要望をかなえてくれるのがこの「Autodesk Meshmixer」(歯科用ではなく、汎用のCADソフトウェア)であるとしたうえで、その事例について紹介。ポリゴンデータを彫刻、変形、合成、分離する機能を活かし、穴の空いたデータの補修、義歯辺縁のデータのバリ取り、広範囲に撮影されたCTデータの部分的な選択、口腔内スキャン(無圧印象)と従来の石膏模型(加圧印象)のデータを重ね合わせることによる義歯床の「当たり」の予測、フラビーガム部への応用、そして口腔内スキャンを基に咬合床を製作する「モデルレス義歯」への取り組みなど、多くの可能性について提示した。

 なお、これらの講演をふまえたディスカッション「デジタル義歯の可能性と問題点」(司会・須藤哲也氏、歯科技工士・Defy)も併せて配信され、講演内容をふまえた10個のポイントについて演者本人も交えた活発な質疑応答が繰り広げられている。視聴の申込みは2021年7月26日まで可能とのこと。