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2025年6月号掲載

Airway デンティストリーの実践 気道評価の勘所とソフトウェアの選び方

※本記事は、「新聞クイント 2025年6月号」より抜粋して掲載。

 近年、気道の狭窄は成人期の睡眠時無呼吸症によるQOLの低下、小児期の口呼吸・睡眠障害などへつながり健全な顎の成長に悪影響を与えることが認識され、気道を評価する機運が高まりつつあります。しかし、気道評価は比較的新しい研究領域であることもあり、機器やソフトウェアの選択も含めて不安や悩みを抱える歯科医師も多いのではないでしょうか。 そこで、本欄では睡眠歯科医療の立場から外木守雄先生(亀田総合病院顎変形症治療センター睡眠外科部長、日本大学歯科病院教授)、開業医の立場から赤間廣輔先生(福岡県開業)に歯科的アプローチから国民の生活を支えるAirway デンティストリーの実践、そしてソフトウェアを含む製品選びについて解説していただきます。 (編集部)

睡眠や呼吸と歯科の関係性気道が変われば呼吸(QOL)が変わる

 2000年代初頭までは気道形態を計測するという概念がなく、気道の評価に関する論文はほとんど存在しませんでした。しかし近年では、睡眠や呼吸と歯科の関連性について理解が進んできたことやCT装置をはじめとする機器の進化や普及も後押しし、気道評価の分野は歯科から国民のQOL向上に貢献できる領域の1つとして成長を遂げました。
 私たち歯科医師が提供する歯科治療は、時に呼吸を支える気道に大きな影響を与えます。抜歯をともなうような矯正歯科治療は最たる例でしょう。抜歯を行うことで歯列幅計が減少することがあり、舌房の減少によって、必然的に舌は咽頭方向へ押し込まれます。その結果、気道が狭窄、もしくは閉塞することがあります。抜歯は一例ですが、歯科治療は口腔内容積に変化を与える行為と認識したうえで治療を行う必要があります。
 気道が狭くなれば呼吸の生理的機能に影響を与え、開咬、顎変形症を引き起こす可能性があり、患者さんのQOLにも大きな影響を与えます。したがって口腔内容積を減少させるような治療は、気道に与える影響も鑑みたうえで慎重に判断すべきと考えています。

いびきは呼吸の阻害によって発生する適切な気道評価に必要な基礎知識

 いびきは呼吸時に空気の流れが阻害されることによって生じます。空気は、広い空間から狭い空間へ入ると流速が早くなり、広い空間へ出ると遅くなります(エネルギー保存の法則〔ベルヌーイの定理〕)。上気道は、鼻腔から後鼻孔部にかけてもっとも狭窄し、かつ90°屈曲しているため、総じてこの部位を流れる空気の流速は早くなり、気道壁にかかる静圧(上気道壁を内側に引き込む力)が強くなることで特に吸気時に気道はより狭窄して鼻腔、上気道内で乱流が生じます。その結果、流入障害(いびき)や流入停止(無呼吸)につながることで閉塞性睡眠時無呼吸症が発生します。
 したがって気道を適切に評価するには、鼻腔より舌骨下部の高さまで上気道を撮像抽出する必要があります。これは、鼻腔内の気流の流れによって呼吸が正常に行えているかを判断するためです。後鼻腔の高さで不自然にカットされた撮像部で評価しているケースを目にすることがありますが、このような資料では正しい評価を行うための情報が不足しています。
 なお、上気道を評価するにあたり、頭位、鼻呼吸・口呼吸、呼吸サイクル、嚥下運動を一致させることは必須です。仮に頭位が下を向いていれば気道は屈曲狭窄し、上を向けば進展拡大します。また、鼻呼吸では気道が拡張し、口呼吸では狭窄します。気道形態に関連する要素を揃えて計測することで、より正しい比較が行えます。

患者さんの健康に寄り添うAirwayデンティストリーの実践

 気道の狭窄・閉塞がもたらす顎変形について、患者さんのなかにいびきがひどいもしくは口呼吸の小児はいないでしょうか。睡眠時無呼吸は小児ではなかなか見つけづらい傾向がありますが、扁桃肥大や鼻閉などから、口呼吸優位となり、顎の変形につながる可能性が示唆されています。
 歯科では、子どもたちがその成長に合わせて定期的に受診することが多いと思います。このことから歯科医療従事者は、子どもたちの口腔内の異常や表情・挙動の変化に気づき、成長発育を阻害する異常を察知して適切に対応することが期待されます。ぜひ、気道“Airway”をつうじて患者さんの健康に寄り添う歯科医療を行っていただきたく思います。

気道評価の現在地と歯科用X線CT装置の有用性

 歯科用X線CT装置(以下、CBCT)は、安価な機器ではないこともあり歯科医院で標準導入されている装置ではありませんが、近年普及が進んできているように感じます。特に、気道評価は比較的新しい領域でマイノリティな分野ということもあり、気道解析ソフトウェアを導入している歯科医院は一部に限られているのが現状です。
 CBCTを導入する利点として、イメージセンサー性能向上の恩恵もあり、医科用CTと比較して被ばく線量が少なく抑えられることが挙げられます。坐位や立位での撮影も可能であり、撮影時間もわずか数十秒で済みますので、患者さんの負担も最小限です。さらに、気道解析ソフトウェアを用いることで、上気道の三次元的な情報を可視化できます(図1)。狭窄部位が赤色で表示されるなど、視覚的に情報を把握できるため、患者説明のみならず、コンサルテーションツールとしても有用です。

CBCTとソフトウェアの選び方

ポイントは撮像範囲と操作性
外木先生より上気道を正しく評価するための撮像抽出についてご解説いただきましたが、歯科の観察範囲は基本的に口腔内であるものの鼻腔はその観察範囲の上にあります。そのため、気道評価を必要とする場合は鼻腔まで入る規格のCBCT を選ぶ必要があります。私は、小児患者を中心に評価するなかで、基本的にH110-110mmのフラットパネルディテクターを使用しており、小児患者の気道評価にはこの規格で十分に対応可能です。
 また、気道評価においては、高解像度モデルでなくても評価に差し支えのない情報が得られると感じています。ただし、小児患者は撮影中静止状態を続けることが難しい場合もあるため、ブレが生じると評価に支障が出ることがあります。撮影時には患者の様子をよく観察し、判断することが大切です(大きなサイズや解像度の高いモデルは、価格も高額になる傾向にあります)。

ユーザーインターフェース
CBCTを初めて導入する先生は、操作性がシンプルなモデルを選ばれることをお勧めします。加えて、使用予定のソフトウェアとの互換性や、他ソフトとの連携性、アップデートの頻度、メーカーのサポート体制なども重要な選定基準です。また、診療スタイルに応じてカスタマイズが必要な場合は、拡張性の高いモデルを選ぶことも選択肢に入ります。なお、予算の都合で安価なモデルに関心が向いてしまうかもしれませんが、他のモデルより定価は安価であっても気道解析ソフトがオプション扱い(有料)として販売している機種もあります。購入前に確認しておくと良いでしょう。

気道評価からつなげる医科歯科連携QOL向上へ期待高まる歯科の価値

 冒頭に述べたように、気道評価は比較的新しい領域ということもあり、まだ世界的に撮像ポジションの統一基準は確立されていないのが現状です。そこで、私が所属している一般社団法人日本小児口腔発達学会では、撮影規格の統一化に向けて研究や解析を進めています。
 医科でも気道評価の重要性が認識されつつありますが、歯科で気道解析を行っていることは、まだ十分に知られていません。まずは、歯科界から気道評価の認知と実践を広げることで気道評価がスタンダードとなるような基盤をつくることが重要です。そのうえで、呼吸機能に問題を抱える患者のスクリーニングを歯科で担い、医科との連携強化につなげていくことが望まれます。この取り組みが広がれば、関連する領域の市場拡大や「全身を診る歯科」への流れの醸成につながると考えています。
 近年の気道解析ソフトウェアの性能は、開発初期段階のモデルよりも格段に向上しています。今後、気道評価が保険収載されたり、大学教育のカリキュラムに組み込まれるようになったりすれば、気道評価は一気に普及すると思います。小児口腔機能の正常な発育支援や、睡眠時無呼吸治療によるQOLの向上は歯科が貢献できる領域であり、睡眠の質の改善を起点に、労働生産性の向上やフレイル防止・オーラルフレイル予防といった社会的課題へのアプローチも可能となります。
 適切な評価を行うためにもエビデンスを集積し、積極的に情報発信を行うことで気道評価の機運向上に努めたいと思います。そして、ひとりでも多くの歯科医師に気道評価について関心をもっていただけましたら幸いです。