2023年1月22日掲載

「the discussion とことん語り尽くす」をテーマに

第7回 Greater Nagoya Dental Meeting開催

第7回 Greater Nagoya Dental Meeting開催
 さる1月22日(日)、名古屋コンベンションホール(愛知県)において、第7回 Greater Nagoya Dental Meeting(飯田吉郎大会長、以下GNDM)が「the discussion とことん語り尽くす」をテーマに開催された。2017年に「名古屋から世界へ」を合言葉に立ち上げられて以来、すでに新春の恒例行事となった感のある本ミーティング。今回も昨年に続き対面型の開催となり、全国から200名あまりが参集。全5題のセッションは、いずれも前回話題となったディスカッション形式を踏襲し好評となっていた。以下に、各セッションの概要を示す。

(1)「矯正セッション 価値のあるⅠ期治療を考える」(座長:味岡武志氏、プレゼンター:押村侑希氏、河村光輝氏〔すべて愛知県開業〕)
 本セッションでは、「矯正治療のゴール、Ⅰ期治療の目的」「ケースの見極め、診断」「ケースを通じて、Ⅰ期治療の価値を探る」の3つのテーマを軸に、演者らが順次講演。「Ⅰ期治療から行えた症例の9割は非抜歯、Ⅱ期治療からの患者は9割が要抜歯」「Ⅰ期治療に時間をかけて、Ⅱ期治療は速く終わらせるのが理想」(いずれも河村氏)といった、Ⅰ期治療がもたらすメリットや注意事項、そして着手してもよい症例とそうでない症例の見極めなどについて示された後、押村氏がⅠ期治療が効果的であった3症例を供覧。そのうえで、Ⅰ期治療は慎重に行われるべきもので、医療経営的な魅力から安易に手を出すのではなく、あくまでも患者のために考慮されるべきものであると締めくくられた。

(2)「歯科技工士セッション これからのチェア-ラボコミュニケーションへの提案 〜新進気鋭とエキスパート、それぞれの視点から〜」(座長:吉木雄一朗氏〔愛知県開業〕、鬼頭寛之氏〔歯科技工士、CURA ESTHETIC DENTAL CENTER〕、プレゼンター:西村好美氏〔歯科技工士、デンタルクリエーションアート〕、倉本慎也氏〔歯科技工士、岩田歯科医院〕)
 本セッションでは、すでにチェア‐ラボコミュニケーションに関する講演・執筆で多くの結果を示してきた吉木氏と鬼頭氏を座長に、本多正明氏(大阪府開業、日本臨床歯科学会副理事長)をはじめ多数の著名臨床家との臨床に携わり、すでに40年以上のキャリアをもつ西村氏と、岩田 淳氏(兵庫県開業)の院内技工士として、臨床歴8年目ながら活躍が注目されている倉本氏が登壇。倉本氏はデジタル時代を生きる院内歯科技工士の立場から、そして西村氏は上述の本多氏が1979年に治療を開始し、1988年にみずから製作した補綴装置が装着され、現在でもメインテナンスが継続されている症例を軸に、歯科医師と歯科技工士が同じゴールを見据えることや共通言語をもつことの重要性、そして口腔内スキャナーやフェイシャルスキャナーといった最新デジタル機器を用いたこれからのチェア‐ラボコミュニケーションについて展望を示した。また、吉木氏と鬼頭氏が行っている、Web会議用ソフトを用いた歯科技工士の立ち会い「OC(Online Communication)System」についても紹介された(本セッションの内容は「QDT」2023年4月号(予定)にて再録予定)。

 なお、本セッションの後にはGNDMが事前に行っていた、地元・愛知学院大学歯科技工専門学校の学生を対象にしたワックスアップのコンテストの結果発表が行われ、表彰状の授与が行われた。最優秀賞に吉田唯花氏、優秀賞に見並 輝氏、入賞に藤原愛未氏が輝き、それぞれ喜びのコメントを述べていた。

(3)「補綴セッション 床義歯臨床にデジタルをどう活かすか?」(座長:相宮秀俊氏〔愛知県開業〕、プレゼンター:松田謙一氏〔大阪府開業〕、岩城謙二氏〔歯科技工士、Dental labor IDT〕)
 本セッションでは、近年の発展著しいデジタルデンチャーについて歯科医師と歯科技工士それぞれの立場から解説。松田氏からは各国から発売されているデジタル総義歯システムの紹介、またその中でも演者らが用いている「Ivotion」(Ivoclar Vivadent)を用いた臨床ステップの詳細、そして「歯科医師からすると、デジタルデンチャーの術式はほぼ従来どおりだが、印象用トレー、試適用義歯ともに適合にすぐれているため、スムーズに進めることができる」「デジタルデータなので試適時と完成時の差が非常に少ない」「完成義歯の適合/咬合は驚くほど高精度で、調整量が少ない」といったメリットについて示された。また岩城氏からは、今後の歯科技工士の減少を見据えた歯科技工デジタル化の重要性、アナログ時代に行われてきた埋没〜填入〜脱ろうにおける危険性やエラーの回避、試適用義歯が完成時に近い状態で提供できることの利点などについて示された。その後のディスカッションでは、「デジタルを用いることで何が変わったか?」「デジタルを用いることの問題点は?」「デジタルの教育への応用は?」「デジタルを用いた床義歯臨床の将来像」など、現在考えうるデジタルデンチャーにまつわるトピックについて存分にディスカッションがなされた。

(4)「ペリオセッション セメント質剥離の常識を縛るルールを壊せ!」(座長:安藤壮吾氏、松浦貴斗氏〔ともに愛知県開業〕、プレゼンター:辻 翔太氏〔大阪府開業〕、白石大祐氏〔石川県勤務〕)
 本セッションでは、座長の安藤氏がセメント質剥離の概要とその症例について、また同じく座長の松浦氏がセメント質剥離に関する現時点で得られるエビデンスについて示したうえで、「原因」「診断」「治療計画」の3本を柱に症例供覧とディスカッションが行われた。白石氏は33歳男性患者の上顎左側中切歯に生じたセメント剥離に対し、マイクロエキスカベーターで除去したところ骨吸収が収まり5年後にも経過良好な症例、また辻氏は下顎左側中切歯のセメント質剥離に対してSRPを行った後、アパタイトと自家骨による骨造成、およびコラーゲンメンブレンによる被覆によって対処した症例をそれぞれ提示。そのうえで、ディスカッションでは「ストレスのかからない歯には生じないので、原因としてはメカニカルストレスが大きいと考える」「治療計画は、骨欠損がどのような形態かによって対応が変化する」「治らないと思われがちなセメント質剥離だが、早期発見により対応できる」など、座長および演者が現状で考えるセメント質剥離への臨床的対応が示された。

(5)「時事セッション 国民皆歯科健診は歯科界に何をもたらす? 〜公衆衛生と歯科医院経営の視点から〜」(座長:飯田氏、プレゼンター:相田 潤氏〔医歯大大学院医歯学総合研究科健康増進科学分野〕、荒井昌海氏〔東京都開業〕)
 本セッションでは、公衆衛生に関する研究を専門とする相田氏と、臨床はもちろん歯科医院経営に関しても多数の発表を行ってきた荒井氏が登壇。相田氏からは、WHOによる世界の疾病負担研究において、全291疾病中う蝕が1位となったこと、また歯科疾患は有病率が高いために受診が多く、国全体の医療費を押し上げる一方で、「歯科疾患は少なくなった」というイメージをもつ人が日本の国民のみならず歯科医師や研究者にも多いこと、そして定期健診を除けば実は5年以内に9割の市民が歯科を受診しているというデータを示し、現在の日本における歯科健診にまつわる諸問題を提示した。また荒井氏は臨床家の立場から、「歯科は、術者が自分の手で治しているという意識が強いために、自分たちの仕事を否定しかねない健診というものが普及しにくい分野になったのではないか」「一般の人は自分の口の中の歯の本数を知らないし、気にしていない」「介護中に、親族の口の中に指を入れることを躊躇する人がいる」といった現状について述べたうえで、「昨年からの報道で広まった『国民皆歯科健診』というキーワードが一般市民の歯に対する思いに訴えかけ、今後の意識改革のきっかけになるのではないか」とした。

 いずれのセッションも入念な準備のもとで行われ、演者どうしでのディスカッションはもちろん来場者からの質問にも多数回答されていた今回のミーティング。次回以降の内容にも期待がかかる。なお、次回の第8回 Greater Nagoya Dental Meetingはきたる2024年1月21日(日)に開催予定である。

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