2012年5月26日掲載

日本補綴歯科学会第121回学術大会開催

日本補綴歯科学会第121回学術大会開催

 さる5月26日(土)、27日(日)の2日間、神奈川県民ホールおよび産業貿易センタービル(いずれも神奈川県)において、「日本補綴歯科学会第121回学術大会」(櫻井 薫大会長、古谷野 潔理事長)が開催された。例年どおり、各種セミナー・セッション・シンポジウム・一般口演などが活発に行われたが、今回はこれまで数年にわたって掲げられてきたメインテーマ「咬合・咀嚼が創る健康長寿」を「臨床イノベーションに貢献する補綴歯科」に改めた点も注目される。両日の会場周辺は好天に恵まれ、日本全国から2,600名あまりの研究者・臨床家が参集した。ここではとくに、臨床家向けに行われた演題の中から3点の概要を示す。

(1)臨床スキルアップセミナー「固定性補綴装置の装着時のチェックポイント」(澤瀬 隆氏〔長崎大大学院医歯薬口腔インプラント学分野〕、田中昌博氏〔大歯大有歯補綴咬合学講座〕、澤瀬 隆座長〔前掲〕)

 本セミナーでは、田中氏が「咬頭嵌合位に刮目せよ」と題し、また澤瀬氏が「インプラント上部構造の装着時のチェックポイント」と題しそれぞれ講演。前者では「咬頭嵌合位がすべての補綴治療の出発点」との立場から、各種測定装置を用いた咬頭嵌合・咬合重心の検討や咬合印象法の活用などが示された。また後者では、インプラント体と天然歯との被圧変位量を理解することの必要性や各種適合診査の方法、およびインターナルコネクション/エクスターナルコネクションそれぞれの特性や適合に影響を与える操作上の注意点などが示された。

(2)臨床リレーセッション3「理想的なインプラント上部構造をめざして」(武田孝之氏〔東京都開業〕、木原敏裕氏〔奈良県開業〕、桜井保幸氏〔大阪府歯科技工所開業〕、伴 清治氏〔愛院大歯科理工学講座〕、細川隆司座長〔九歯大口腔機能再建学講座口腔再建リハビリテーション学分野〕)

 本セッションでは、著名臨床家に加えて歯科領域におけるジルコニア研究の第一人者を招き、主にインプラント上部構造の長期予後との関連についての考察が行われた。会場では、武田氏が「理想的なインプラント上部構造を目指して」、木原氏が「長期症例における上部構造の変化」、桜井氏が「インプラント上部構造に求められる要件」、そして伴氏が「ジルコニア製インプラント上部構造の研磨仕上げと対合歯の摩耗について」と題してそれぞれ講演。臨床サイドにおける「減ることを是とした上部構造」「減らないことを目標とする上部構造」の経過観察や使い分けといった話題に加え、伴氏からは「減らない上部構造」としてここ数年注目を集めているフルカントゥアのジルコニア製上部構造について詳説された。本講演の中では、フルカントゥアのジルコニアクラウンは適切な研磨操作を行えば他種(アルミナや長石系)セラミック材料よりも表面が滑沢となり、対合歯の摩耗も少ないという研究結果が示され、注目を集めていた。

(3)特別講演「Do we really need so many implants? A prosthodontist's View」(Carlo P. Marinello氏〔バーゼル大〕、古谷野 潔座長〔九大大学院歯学研究院インプラント・義歯補綴学分野〕、櫻井 薫座長〔東歯大有床義歯補綴学講座〕)

 本講演では、現在American Prosthodontic Academyの会長であり、かつ歯周病学にも深い知識をもつMarinnelo氏を招聘。中間欠損および無歯顎症例に対するケースプレゼンテーションでは最新技術・材料の特性について言及し、また後半では教育者の立場からあくまでも歯を残すことの重要性について解説。欧米の若手歯科医師の中にも、天然歯を保存するよりもインプラントに置き換えるほうが治療が容易であるとする層が出てきたことを憂慮し、「VENI-VIDI-VICI Dentistry(ローマの将軍ユリウス・カエサルの言葉をもじったもの。来た、見た、〔すぐに〕抜いた、というような安易な抜歯への皮肉をこめた言葉)からの脱却」「歯を喪失する最大の原因は歯科医師である」と述べ、適正なインプラントの臨床応用を訴えた。

 なお、来年度の本学会は福岡歯科大学を主管校とし、福岡国際会議場にて2013年5月18日(土)、19日(日)に開催予定とのこと。

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