学会|2025年11月14日掲載

「保険適用疾患の特徴と顎顔面・矯正歯科治療:アップデート(矯正、口腔外科、形成外科)」をテーマに

2025年東京矯正歯科学会秋季セミナー開催

2025年東京矯正歯科学会秋季セミナー開催

 さる11月13日(木)、有楽町朝日ホール(東京都)において、2025年東京矯正歯科学会秋季セミナー(小野卓史モデレーター、西井 康会長)が開催され、646名が参集した。

 今回のセミナーでは「保険適用疾患の特徴と顎顔面・矯正歯科治療:アップデート(矯正、口腔外科、形成外科)」をテーマに、矯正歯科から犬束信一氏(愛知県開業)、形成外科から坂本好昭氏(慶應義塾大学)、口腔外科から加持秀明氏(東京科学大学)の3名が登壇し、矯正歯科治療が保険適用になる先天性疾患を有する患者に対して行われる形成外科・口腔外科における治療、そして地域医療としての矯正歯科治療の実際について講演がなされた。

 矯正歯科治療が保険適用になる先天性疾患は66症例ある。「保険適用先天性疾患における矯正歯科治療―地域矯正歯科医院での治療実践―」と題し登壇した犬束氏は、そのうち口唇口蓋裂、ヌーナン症候群、プラダー・ウィリー症候群、ウイリアムズ症候群、マルファン症候群、神経線維腫症、ソトス症候群、口腔・顔面・指趾症候群、ピエール・ロバン症候群、歌舞伎症候群、染色体欠失症候群の患者に対し行った矯正歯科治療を供覧したほか、検査・計測項目や地域の医療機関として行っている他科や大学病院との連携やチームアプローチについても解説した。

 また「先天性疾患を普通にすることの難しさと挑戦」と題し登壇した坂本氏は、プロテウス症候群、顔面半側萎縮症、神経線維腫症、線維性骨異形成症、スタージ・ウェーバ症候群、下垂体性巨人症の症例を挙げつつ、疾患の解説および治療方法、そして矯正歯科治療がどの時点で実施されるかなどについて解説した。さらに、自身のライフワークとして取り組んでいる頭蓋縫合早期癒合症の治療についてもふれた。氏は、「first bone, then the soft tissue」という顎顔面外科の大家であるHans Pichler(1877–1949)の言葉を引きつつ、しかし上顎の成長を妨げうる軟組織の緊張の改善を考慮した治療を行っていくこと、患者の身体的・社会的負担を考えていつ治療を行うべきか、矯正歯科治療との兼ね合いも含め患者・家族とともに治療プロトコールや治療目標を決定していく旨を述べた。

 最後に加持氏が「口腔外科からみた保険適用先天性疾患の特徴と顎顔面外科治療―機能と整容の調和を目指して―」と題し登壇した。氏は歯科医師と医師のダブルライセンスをもつ立場から、口唇口蓋裂、第一第二鰓弓症候群、小下顎症、中顔面低形成について、疾患の説明と咬合および患者・家族のQOLを考慮した治療の流れについて解説した。そして治療には美容外科に分類される要素が含まれることもあるが、最終的に医療側が目指すのは患者の長期的なQOLと社会適応の向上であり、それには矯正歯科医と口腔外科医の密な連携に加え、多職種チームによる集学的治療が不可欠であるとした。

 ディスカッションでは、「構音機能はどのように検査するか」「眼球の垂直的位置に差異のある患者などで正中線はどうやって決めるのか」「成人患者でこうした症候群が疑われた場合、どの科に紹介すればいいのか」などといった質問に演者が答え、矯正歯科が成しうる医療的貢献対する関心の高さがうかがえた。

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