2026年6月1日掲載
明日からの義歯臨床をより前向きに捉えるために
若手歯科医師・技工士のための自由診療デンチャー入門が開催
さる5月31日(日)、中日ホール&カンファレンス Room 2(愛知県)において、若手歯科医師・技工士のための自由診療デンチャー入門(Comprehensive Dentistry Institute Nagoya主催、相宮秀俊主宰)が開催された。
本会は、自費義歯に対する不安を抱える若手歯科医師・歯科技工士に向けて企画された。自費義歯は特別な才能によって成り立つものではなく、患者さんに対する適切なトレーニングやデジタル技術の活用により、患者さんが「噛める」と実感できる義歯治療へ到達できるという考えのもと、デジタル時代の総義歯臨床、自費義歯を担う歯科技工士の未来、そして明日からの義歯臨床をより前向きに捉えるための視点を共有する場として開催された。
はじめに鈴木英史氏(静岡県開業)が登壇。鈴木氏は、近年深刻化する歯科技工士不足を背景に、これからの歯科医師に求められる「デンチャーコントロールスキル」について解説。現在働いている歯科技工士の半数以上が50歳以上であり、若い世代が十分に増えていない現状を示しながら、保険診療における歯科技工料金や労力に見合う対価の問題に言及。今後は、保険義歯のみならず、自費義歯を製作できる歯科技工士を探すこと自体が難しくなる可能性があると警鐘を鳴らした。そのうえで、義歯を単なる補綴装置として捉えるのではなく、患者さんが実際に使いこなし、食べることができる状態へ導く治療として再定義する必要性を強調した。
なお、同氏は義歯治療において「歯を残すことがつねに正義ではない」と述べ、多数歯欠損症例では、残存歯を活用するか、あえてフラットな状態から再構成するかを、患者さんの機能回復と長期予後の観点から判断すべきであるとした。さらに、どれほど精度の高い義歯であっても、患者さんが満足しないことはあり、義歯は動くということを前提に、患者さんがどう適応し、使いこなすかを見きわめることが重要であると説明。デジタル義歯についても、3Dプリンターによる製作や現義歯のスキャンによる可視化などの利点を紹介する一方、材料特性やリライン・リベースへの対応を理解しなければ臨床上の問題が生じると述べ、アナログとデジタルを融合させる視点の重要性を示した。
続いて橋本雅人氏(愛知県開業)が登壇。橋本氏は、治療用義歯を用いて口腔内環境を整え、最終補綴へつなげる臨床の流れを示した。義歯による疼痛や潰瘍を認める症例を例に、単に内面を調整するだけでは問題が悪化することもあり、咬合、粘膜、顎位、筋の緊張などを総合的に診査する必要があると解説した。治療用義歯は最終義歯までの仮の装置ではなく、患者さんがどのポジションで安定し、どのような咬合や床形態で機能しやすいかを確認するための装置であると位置づけた。
また、同氏は義歯治療をリハビリテーションとして捉えることの重要性にもふれた。患者さんは義歯を装着した直後から十分に使いこなせるわけではなく、調整を繰り返すなかで適切なトレーニングを行うことで緊張が取れて義歯に適応し、その過程で得られた情報を最終義歯に反映させることで、患者さんにとって合う義歯が完成する。この一連の流れやその後の経過のなかで患者さんの生活や人生に長期的に寄り添うことができると述べ、メインテナンスを通じて機能の変化を見守る姿勢が、義歯臨床の大きな魅力であると語った。
最後に、相宮氏(愛知県開業)が登壇。相宮氏は、自費による義歯治療を成功に導くための「基準」をテーマに講演。義歯治療は手技や経験だけでなく、術者の頭の中に明確な検査・診断の基準があるかどうかで結果が大きく変わるとし、無歯顎補綴や部分床義歯における顎間関係、咬合平面、人工歯排列、骨格的要因の見極めについて詳説した。特に難症例では、顎堤の位置と咬合の位置が一致していないことが多く、上顎前突傾向、下顎前突傾向、高位・低位といった骨格的条件を把握することが不可欠であるとした。
さらに同氏は、最終義歯では「あたかも天然歯が存在するかのように作る」ことを重視していると述べ、人工歯排列、歯肉形成、ステイニング、口唇から見える前歯部の位置など、機能と審美の両面から義歯を設計する必要性を示した。長期経過症例では、10年を経て顎堤や顔貌、咬合が少しずつ変化していく様子が提示され、義歯単体ではなく、それを含めて口腔全体の構造を考える重要性が示された。
今回の演者に共通していたのは、義歯治療を「作って終わり」の治療にしないという姿勢であった。義歯を支える歯科技工環境、患者さんの適応能力、治療用義歯によるリハビリテーション、そして長期安定を見据えた基準の共有、それぞれの視点が重なり合うことで、義歯臨床の奥深さと可能性が鮮明に伝わる会となった。