2023年3月5日掲載

「デジタル補綴治療の現況」をテーマに

日本臨床歯科学会東京支部、2022年度 第3回Web例会を開催

日本臨床歯科学会東京支部、2022年度 第3回Web例会を開催
 さる3月5日(日)、日本臨床歯科学会東京支部2022年度 第3回Web例会(日本臨床歯科学会東京支部主催、植松厚夫大会チェアマン、大河雅之支部長)が「デジタル補綴治療の現況」をテーマに開催され、歯科医師・歯科技工士がそれぞれの立場から最新のデジタル歯科技術の臨床応用について提示した。演者らは当日朝より御茶ノ水ソラシティカンファレンスセンター(東京都)に集合し、Web配信形式で約300名が視聴した。以下に演者・演題および概要を示す(講演順)。

1)教育講演1「Digitally Guided Oral Rehabilitation ―Time Saving & Visualization―」植松氏(東京都開業)
 本演題ではまず、アナログ時代の治療ワークフローとデジタル時代のワークフローの比較や、演者が2016年から導入したという口腔内スキャナー(以下、IOS)の特徴、および歯科用コーンビームCT(以下、CBCT)で得られる各種情報などについて概観した後、IOSによる口腔内のデータとCBCTを融合させた「Digital Virtual Model」の製作と応用について解説。これを、既存の咬頭嵌合位で治療できる症例では大幅な時間短縮が、また中心位を基に咬合再構成を行う症例では、情報の可視化と検査・診断の効率化が得られるとし、合計3症例を提示。IOSを応用することで、患者固有の生理的な顎運動をデータとして検査に役立てること、またDigital Virtual Modelを用いることで、さまざまな基準を三次元的に可視化した検査・診断を通じて、審美と機能を考慮した補綴治療に役立てることができるとした。

2)教育講演2「客観的な基準に基づいた歯科治療 ―Digitalの活用―」貞光謙一郎氏(奈良県開業)
 本演題では、フィルムカメラがデジタルカメラに進化した例をまず挙げることで、各種のデジタル化が歯科臨床にもたらした恩恵を強調し、またみずからの学びの軌跡をさまざまな先達との出会いやその時ごとの最新歯科材料と関連付けて示したうえで、日常臨床における客観性を高めるために顎運動・咬合力・咀嚼能力・咬合接触状態といったデジタル技術で定量化しやすい部分をできるかぎり取り入れる現在の臨床スタイルに至ったことを紹介。バイトアイ(ジーシー)やアルクスディグマⅡ(カボデンタルシステムズジャパン)といった装置を用い、デジタル技術を基に集積した患者のデータを用いることで、経験値で行う歯科臨床ではなく、社会が求めるエビデンスをもった臨床に近づくことができることを、多数の症例とともに示した。

3)教育講演3「トリートメントワークフローの変遷 Transition of Treatment Workflow」千葉豊和氏(北海道開業)
 本演題では、演者が2013年に韓国のインプラントメーカーを訪問した際、当地ではすでにIOSが活用されはじめていたことに感銘を受けたという導入に始まり、従来型の補綴治療のワークフローと現在のワークフローの違いについて解説。さらに、現在「デジタルワークフロー」とよばれているものはすでに「Present(現在の)ワークフローになっている」と述べ、現在の歯科医療にデジタルがいかに浸透しているかを強調した。その後、クラウン、ブリッジ、天然歯ベースの咬合再構成、そしてインプラントを用いた咬合再構成の4パターンに分けて症例を供覧し、顔貌を基にした補綴装置の設計および治療計画、IOSデータを活かしたポンティックの経過観察、そしてインプラント埋入計画とサージカルガイドの製作、そしてスキャンボディ選択のポイントなどについて広範囲にわたり述べた。

4)一般講演 1「補綴治療で求められるラボサイドのデジタルスキル」田中文博氏(歯科技工士・コアデンタルラボ横浜)
 本演題では、教育講演1の植松氏とともに臨床に取り組む歯科技工士の田中氏が登壇。勤務先のコアデンタルラボ横浜におけるCAD/CAMへの取り組みなどについて示したうえで、上述の植松氏による「Digital Virtual Model」につき、ラボサイドの立場からその製作の流れを解説。CT撮影時のポイントや、骨データのサーフェスレンダリング時の勘どころ、下顎頭の形態をよりよくレンダリングするためのテクニックといった実践的なテクニックを示し、さらにDigital Virtual Model上での排列基準(何もない空間への排列は困難なため、アナログの人工歯排列用ガイドの形態データを利用する、など)に関しても示した。

5)一般講演2「デジタルでの検査を活用した咬合再構成」李 昌弘氏(東京都開業)
 本演題では、テトラサイクリン系抗菌薬による変色歯、骨格的Ⅲ級、バーティカルストップの欠如といった問題を抱え来院した患者に対し、標題のとおりデジタル機器を活用し検査・診断を行った症例を提示。IOSによる早期接触部位の確認やCBCT画像のトレースによる骨格分析、ソフトウェアを用いたスマイルデザイン、および挺出している歯の形成量の判断やインプラント埋入計画など、さまざまな局面でデジタル技術を応用した1症例が供覧し、特にCBCT画像とIOSデータのマッチングにより骨レベルと軟組織の情報から基準平面の設定などが行えることの有用性について示した。

6)一般講演3「多数歯欠損症例へのDigital活用」遠藤元気氏(神奈川県開業)
 本演題では、重度歯周病や多数歯欠損による上下顎歯列弓の不調和、咬合高径の低下や審美性の問題を呈していた50代男性患者への治療過程を提示。インプラント埋入計画からサージカルガイドの製作、および装着後口腔内で咬合調整を行ったプロビジョナルレストレーションをIOSでスキャンすることによる歯科技工士とのデータ共有などを経て、最終補綴に至った症例を示した。そのうえで、本症例ではデジタルとアナログの双方の技術を併用したために手技が煩雑になった面はあるものの、特にインプラントの印象採得ではデジタル(IOS)の有用性は高いと締めくくった。

 また、全演題終了後には30分以上にわたるディスカッションが行われ、配信会場に臨席していた日本臨床歯科学会の役員、そしてWeb経由の視聴者から寄せられた質問に対して演者らがていねいに応えていた。

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