2023年4月22日掲載

「ここまで進んだ!! 歯科医療DX」をテーマに832名が参集

(一社)日本デジタル歯科学会、第14回学術大会が開催

(一社)日本デジタル歯科学会、第14回学術大会が開催
 さる4月22日(土)、23日(日)の両日、神奈川歯科大学(神奈川県)において、一般社団法人日本デジタル歯科学会第14回学術大会(木本克彦大会長、末瀬一彦理事長)が開催された。今回は「ここまで進んだ!! 歯科医療DX」を大会テーマに現地開催され、同学会史上最多となる832名が参集した。以下に、主な演題の概要を示す(講演順)。

(1)大会長講演「本学におけるCAD/CAM研究の歩みと歯科医療DX」木本氏(神歯大クラウンブリッジ補綴学)/座長:末瀬氏
 初日冒頭の大会長講演では、木本大会長が登壇。「DX(Digital Transformation)とは?」「本学におけるCAD/CAM研究のあゆみ」「今後の歯科DXの方向性」「今回の企画の意図」の4点を軸に、近年話題となっている歯科とDXとの関連、また1984年に神奈川歯科大学が開発したタッチプローブとNC加工機を組み合わせた初期のCAD/CAMシステムおよび日本国内の各大学や企業が研究開発してきた黎明期のCAD/CAMシステムの紹介、また神奈川歯科大学附属病院 デジタル歯科診療科におけるDXの現状の紹介などが行われた。そして今後の展望として、現在の診断や治療のためのデジタル技術から、予防のためのデジタル技術が進化することに期待したいとした。

(2)企画講演「高精細裸眼立体視ディスプレイの歯科医学教育への応用 ~驚きのリアリティと教育効果~」板宮朋基氏(神歯大歯学部総合歯学教育学講座・同大大学院 XR 研究所)/座長:星 憲幸氏(神歯大歯学部教育企画部)
 本演題では、神奈川歯科大学でXR(Extended Reality:仮想空間)の研究に携わる板宮氏が登壇。これまでにアルバータ大学(カナダ)や愛知工科大学(愛知県)などで行ってきた研究の紹介やXR関連の用語の整理、VR(Virtual Reality:仮想現実)とAR(Augmented Reality:拡張現実)の教育への応用例などについて示したうえで、本題となる高精細裸眼立体視ディスプレイ「ELF-SR1」(ソニー)について紹介。その原理や構造について詳説したうえで、板宮氏が実装した数々のアプリケーションを提示した。STL/OBJデータやDICOMデータ、また3D化された人体の解剖データなどをゴーグルなどを用いずに裸眼で直接観察できることで、検査・診断や学生教育に非常に有用であることが示された。

(3)シンポジウム1「日常臨床における歯科医療DX 2023」山羽 徹氏(大阪府開業)、長尾龍典氏(京都府開業)、荒井昌海氏(東京都開業)/座長:近藤尚知氏(愛院大歯学部冠橋義歯・口腔インプラント学講座)、丸尾勝一郎氏(東京都開業)
 本シンポジウムでは、「デジタルテクノロジーで変革するインプラント治療」と題して山羽氏が、「『矯正と補綴の融合』GP の日常臨床にデジタル矯正治療を!」と題して長尾氏が、そして「開業医におけるDXの到達点」と題して荒井氏がそれぞれ登壇。山羽氏は院内のデジタル機器の有機的な接続やインプラント治療におけるIOSの使いどころや、デジタル技術を活かした即時プロビジョナルレストレーションの実例などを提示した。また長尾氏は、補綴治療とアライナー矯正歯科治療のコンビネーションや、一般開業医が咬合再構成においてデジタル技術を活かした矯正歯科治療を戦略的に取り入れることの有用性などについて提示した。そして荒井氏は、自院におけるCAD/CAM装置の使用歴をはじめ、10軒の歯科医院を運営する立場から歯科医院におけるトータルなデジタル技術の活用について紹介。診察券アプリや自動精算機の導入、またグループ歯科医院すべての電話を1つのコールセンターで受信することによる業務の効率化、さらに自ら開発したグループウェアの活用など、今後の歯科医院のDX活用の方向性を示す内容としていた。

(4)専門医講習会「歯科医療における金属積層造形技術の現状と未来予想図」岡崎義光氏(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、橋爪康晃氏(EOS Electro Optical Systems Japan 株式会社)、樋口鎮央氏(大歯大医療保健学部口腔工学科)/座長:大久保力廣氏(鶴見大歯学部有床義歯補綴学講座)、馬場一美氏(昭和大歯学部歯科補綴学講座)
 本講習会では、「金属積層造形技術の力学特性の到達点および今後への期待」と題して岡崎氏が、「Additive Manufacturing for Dental applications ~もう3Dプリンターは新しい技術ではない~」と題して橋爪氏が、そして「金属積層造形技術の変遷と今後の展望」と題して樋口氏がそれぞれ登壇。岡崎氏は冒頭、「レギュラトリーサイエンス」(医療機器の審査や承認に必要な科学的知見と、行政の間の橋渡しとなる科学)というキーワードを掲げたうえで、現在用いられている金属積層造形用の各種材料の力学特性や、諸外国に比較して動きが遅い日本国内での金属積層造形事情について示し、いっそうのコスト削減の必要や歯科での積極的な活用を訴えた。また橋爪氏は、日本国内でも金属3Dプリンターのメーカーとして早くから紹介されてきたEOS社の日本法人に所属する立場から、その企業概要やラインナップ、被加工材料などについて示したうえで、今後はレーザーの焦点面形態をコントロールする「free form beam shaping」や、多数のレーザー光源を用いた高速化、また設計技術の向上によるサポート形態の簡略化などが期待されるとした。そして樋口氏は、2005年前後からのIDS(International Dental Show)における金属3Dプリンターの展示の変遷や、これまでに携わってきた金属3Dプリンターの使用例などについて示したうえで、現在ではユアルレーザータイプの装置が増えたため生産性が著しく向上したこと、表面性状と残留応力の開放の問題は残るが、今後はミリングとのハイブリッド加工に期待がかかる、などと述べた。

(5)シンポジウム2「デジタル技工の最前線 今、技工所で可能なデジタルワークフロー」三輪武人氏(歯科技工士、協和デンタル・ラボラトリー)、滝沢琢也氏(歯科技工士、株式会社コアデンタルラボ横浜)/座長:疋田一洋氏(北海道医療大歯学部口腔機能修復・再建学系デジタル歯科医学分野)、清宮一秀氏(神歯大歯科診療支援学講座)
 本シンポジウムでは、「DX を見据えたラボワーク ~ガイデットサージェリーのための診断を中心に~」と題して三輪氏が、「模型自動搬送・計測システムの臨床応用」と題して滝沢氏がそれぞれ登壇。三輪氏は所属する歯科技工所におけるデータの共有方法や、自社開発によるグループウェアの活用、およびこれまでに13,997件のIOSデータを受注してきた経験をふまえたインプラント治療のサポート態勢などを示したうえで、症例も多数の写真とともに供覧。フェイシャルスキャナーとモデルスキャナーを治療に役立てたケースや、前歯部インプラント症例に矯正歯科治療を含めた包括的なアプローチを行ったケースを供覧した。また滝沢氏は、デジタルプロセス株式会社(神奈川県)が開発した「模型自動搬送・計測システム」の導入と臨床での活用について詳説。専用の模型台と模型台プレート上に装着した石膏模型を装置の中に設置すると、ロボットアームによって自動的に模型がスキャナーにセットされる本システムについてデジタルプロセス社とともに精度を高めていった過程を示し、現在ではインプラント模型やガム模型などを除く67.8%の模型を本システムでスキャンしているとした。また、スキャンに引き続く補綴装置の設計についても自動化を目指しており、この点についてもデジタルプロセス社とともに検証を進めているとした。

(6)特別講演「ロボット工学の現状と歯科医療への応用 ─最先端ロボット技術で進む歯科医療DX─」野崎貴裕氏(慶應義塾大理工学部システムデザイン工学科/医学部形成外科学教室)/座長:河奈裕正氏(神歯大歯科インプラント学講座顎・口腔インプラント学分野)、水木信之氏(神奈川県開業)
 本演題では、上記に所属し、マサチューセッツ工科大学客員研究員の経歴ももつ野崎氏がとくにハプティクス(haptics:触覚をフィードバックする技術)の見地からロボット工学について解説。さまざまな感覚のデジタル化が進む中、現在の歯科のデジタル化は「形状のデジタル化」にとどまっているとしたうえで、現在進展している各種ロボット技術について紹介。特に歯科関係で開発中の技術としては、サイナスリフト時の皮質骨と海綿骨の感触をフィードバックし、シュナイダー膜を穿孔せずに遠隔でのドリリングが可能なロボットや、Le fortⅠ骨切り術を自動化するロボットのモデルが示された。

(7)特別セミナー「社会実装が進む医療AI 現在、その可能性」副田義樹氏(株式会社エディアンド)/座長:山口徹太郎氏(神歯大歯学部歯科矯正学講座歯科矯正学分野)
 本セミナーでは、標題について「AI技術の発展と社会への影響」、「AI技術の概要」、「AIと機械学習、深層学習の関係」、「ディープニューラルネットワークのイメージ」、「シンギュラリティ(AIが人間の知能を超える転換点)」など、現在のAIにまつわるトピックスを列挙したうえで、AIの医療への応用について解説。ゲノム医療、画像診断支援、診断・治療支援、医薬品開発、介護・認知症者のサポート、手術支援などを挙げ、特に歯科領域においては診断支援や治療計画の立案支援などに応用が期待されるとした。そのうえで、AIは診断制度の向上、一般業務の効率化に資することは間違いないとまとめた。

(8)シンポジウム3「デジタル歯科診療における歯科衛生士との連携とその役割」吉久保典子氏(歯科衛生士、小池歯科医院)、柿本 薫氏(歯科衛生士、ワンアンドオンリー麻生歯科クリニック)/座長:小峰 太氏(日大歯学部歯科補綴学第Ⅲ講座)、小池軍平氏(神奈川県開業)
 本シンポジウムは、本学会初の歯科衛生士向けとして企画。「患者に響くデジタルコミュニケーション、始めよう! 自由視点の世界」と題して吉久保氏が、「Benefits of Digital Dentistry ─デジタルデンティストリーの恩恵─」と題して柿本氏がそれぞれ登壇。吉久保氏は、IOSのスキャンデータを自由自在に動かすことができる機能を、スポーツ中継などの分野で導入が始まっている「自由視点」になぞらえて紹介。歯科衛生士と患者が見たい部分を見たい方向から観察できることがもたらすメリットについて述べた。また、臨床における撮影者のポジションや撮影のステップ、および実際の臨床における患者説明シーンの動画も供覧し、理解を助けていた。また柿本氏は、消費者の購買行動プロセスを説明する代表的モデル「AIDMA」(Attention〔注意〕、Interest〔関心〕、Desire〔欲求〕、Memory〔記憶〕、Action〔行動〕)を基にIOSのメリットを紹介。患者の期待に応え、ゴールをイメージさせることがよりよい治療結果につながるとした。また、歯科衛生士業務のなかでIOSを活用できるポイントは多岐にわたり、そのことが患者の健康を増進させる「ウェルネススキャン」とよべるとした。また、iTeroエレメント5D(インビザライン・ジャパン)に搭載された近赤外光画像によるう蝕検知についても症例を基に解説した。

 なお、会場では「歯科技工作品コンペティション」も併せて行われ、最優秀賞に菅原克彦氏(歯科技工士、ケイエスデンタル)、優秀賞に井上絵理香氏(神歯大歯科診療支援学講座歯科技工学分野)と鈴木啓太氏(歯科技工士、横浜トラスト歯科技工研究所)がそれぞれ輝いた。

 次回の第15回学術大会は長崎大学において2024年5月11日(土)、12日(日)の両日に開催予定とのこと。

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