2025年6月号掲載
デジタル化で変わる義歯臨床の現在・未来
※本記事は、「新聞クイント 2025年6月号」より抜粋して掲載。
歯科治療へのデジタル技術の応用は、近年ますます身近なものとなりつつある。特に歯冠補綴分野では、デジタルのみで完結することも、徐々に珍しくなくなってきている。一方、有床義歯分野ではどうだろうか。
昨今、「デジタルデンチャー」という言葉が徐々に認知されつつあるように、少なくとも総義歯に関しては、すでに臨床応用可能なレベルに達している。そしてその精度や再現性、タイムパフォーマンスの面でもすぐれているという報告も多くみられる。これに対し、部分床義歯では、支台装置の製作に加え、最終義歯に必要な高い剛性を確保するためには、今もなお金属フレームの使用が有用とされており、デジタル工程のみでの製作は課題が多く残されている。
しかしながら、近い将来、マテリアル物性の向上や製作手法のパラダイムシフトが進むことで、部分床義歯においてもデジタル製作の応用範囲が広がり、ラボサイドは大きく変化すると推察される。歯科技工士はこの変革に備えておく必要があるだろう。一方、チェアサイドでは歯冠補綴とは異なり、補綴装置のマージン(床縁)が明瞭でないことや、被圧変位への配慮が求められるため、機能印象の重要性は依然として高い。また、その他のステップにおいても、歯科医師に課せられている本質的な役割は変わらず、デジタル技術を用いるだけで良い結果が得られるというわけではない。
したがって、歯科医師が備えるべき知識や技術は、今後も変わらないことを再認識しておく必要がある。