2024年6月号掲載
だれも知らない口腔機能論~お口の中はふしぎがいっぱい~
【PR】なぜ“お口ポカン”が 起きるのか? 口腔機能の謎を解き明かす
※本記事は、「新聞クイント 2024年6月号」より抜粋して掲載。
口ポカンをはじめとした口腔機能発達不全症や口腔機能低下症では、まだわからないことも少なくありません。これらの原因や予防法などを解き明かすべく、独自の視点でまとめた書籍『世界最強の歯科保健指導・下巻―おもしろすぎて眠れなくなる口腔機能論―』が、本年5月に発刊されました。その著者である岡崎好秀氏に、他の書籍にはない見どころ・特徴を語っていただきました。(編集部)
読者が読みたい本は?
今、手元に次の内容の本がある。読者は、どれを読みたいだろうか?

まず、ⅡとⅣの「大切でない内容」は、時間の無駄となる可能性が高い。では、残りのⅠとⅢでは、どうだろう? Ⅰの「大切で、誰もが知っている内容」は、最低限必要な知識を得るための入門書である。では、それに興味をもち、もっと知りたければどうだろう。そう! Ⅲの「大切だが、誰も知らない内容」が求められる。本書では、この点に絞って筆者の臨床や口腔機能の進化について述べている。
“なぜ? ”を考えると本質にたどり着く
筆者は、小児歯科専門医として40数年間、多くの障害児を診てきた。その中で重度の脳性麻痺児には、夭折した小児が多い。振り返るとそれらの小児はつねに口が開いていた。重度であるから夭折したとなると、われわれはあまりにも無力だ。しかし、口を閉じるアプローチ不足が重度化の原因と考えると、われわれにできること・すべきことは山積みである。
健康な離乳期の乳児は、当たり前のように口唇を閉鎖し嚥下する。たったこれだけのことが障害のためできない。口を閉じられないので、唾液や食物を誤嚥し肺炎に至る。高齢者施設での誤嚥性肺炎も、根底は同じところにある。
昨今では、このようなことが健康な小児や成人でも起きている。うずらの卵(小学生)や餅(高齢者)による誤嚥窒息事故などは、口腔機能の発達不全症や低下症の問題である。小児においては、口腔機能が本来発達すべきレベルにまで達していないのではないだろうか。
さて、筆者は“なぜ? ”を考えることが好きである。そこに物事の本質が潜んでいる可能性があるからだ。学生時代は、1つの答えを求める勉強であった。しかし臨床では、いかに違う答えを見つけられるか? そして、それを導き出すプロセスを楽しむことが重要だと思う。
口の中は“ふしぎ”がいっぱい
口腔機能に関する“ふしぎ”は山ほどある。たとえば、乳歯は下顎前歯から萌出する。なぜ上顎前歯や臼歯からではないのか? 離乳期前期には、舌が前後運動をする。そして中期には上下運動、後期には左右運動が可能になる。どうして、この順番で発達していくのか? 上下運動から左右運動に変わり、最後に前後運動ではダメなのか?
さらに、「なぜ舌骨は宙に浮いているのか?」 「なぜ舌の知覚や味覚神経は、前方2/3と後方1/3で違うのか?」 「なぜ、歯周病菌は血液中の鉄が好きなのか?」 「なぜ麻酔針の刺入時には、息を止めるのだろう?」。このように口の中は、ふしぎ・ふしぎでいっぱいだ。しかもそこには、口腔機能の発達上の理由があるはずだ。
しかし残念ながら、この点に対し満足できる答えに出会ったことがない。なぜなのか? それは、これまで口腔機能を進化から捉えた書籍はほとんどなく、科学論文では解き明かすことができないためだ。そこで本書では、筆者の臨床経験をもとにして、“進化”や“動物との比較解剖学”の視点から推論を交えまとめている。
ダーウィン医学の視点で捉える口腔機能
ここで、ダーウィン医学(進化医学)について簡単に述べる。
ヒトは哺乳類であるが、その前は爬虫類、両生類、魚類の時代があった。さらにさかのぼると多細胞動物、真核細胞、原核細胞に行きつく。時計を巻き戻せばこの間、体は鰓呼吸から肺呼吸になり、手足を得て四足歩行から二足歩行になり、卵生から胎生になり、変温動物から恒温動物になった。さらに、舌や口唇を持ち、歯の形態や機能も大きく変わってきた。ヒトの体には、それぞれの時代の環境変化に適応するために獲得した機能が隠されている。このダーウィン医学は、病気や機能を進化の視点から捉えており、その本質を理解するためにおおいに役立つ。
舌は口唇より偉い?
では、舌と口唇を例にあげよう。舌を前に出すと口唇も前に出る。舌を奥に引くと、口唇も内側に引かれる。今度は口唇を前に出しながら、舌を引く。これはストローで吸うときの動作である。次に、口唇を後ろに引きながら、舌を前に出す。難しいが何とかできる。このことから、舌が先に動けば口唇はそれに従うことがわかる。ところが口唇が先に動いても、舌は従わない。舌は口唇より偉いのである。これを解明するのがダーウィン医学である。
ここでクイズを1つ。
クイズ 魚類に舌はあるだろうか?
魚類は“舌を持つ”が正解だ。しかし、舌骨の上に粘膜が覆いかぶさるだけで舌は動かない。体を動かして獲物を捕りにいったり、上流からエサが流れてくるため、その必要がないからだ。
さて、魚類の時代(古生代・デボン紀)に海面が下がり、初めての両生類が上陸した。当時すでにトンボがいたが、カエルが舌を伸ばして獲物を捕るようになった。両生類の舌が動くようになったのはこのためである(舌の機能の獲得)。
ヒトの体は獲物を求めて、さまざまな機能を発達させてきたことがわかる。一方、口唇は、授乳するために哺乳類でその機能を獲得している。すなわち、舌機能は古い時代に獲得したので、口唇より優位なのである。
このような発想をすると、新しい視点が開ける。
たとえば、一般的に口呼吸は、口唇閉鎖力の低下と考えられている。しかし……である。舌を口蓋に当てると、口唇も閉じ鼻呼吸となる。次に、徐々に口蓋から離すと、口が開き口呼吸となる。すなわち口呼吸は、舌機能の発達不全や低下症ともいえるのだ。
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どうだろう、“ガッテン”していただけただろうか? 本書は随所に“ガッテン”できる内容を盛り込んだ。そのたびに“智の喜び”と“楽しさ”が広がるはずだ。学生時代を振り返ると、好きだった科目は点数など関係ない。楽しいから・もっとその先を知りたいから勉強したものだ。それが結果的に点数につながった。
本書では、広範囲で難解な専門分野を、できる限りやさしく、重く、おもしろく読めるように工夫した。ぜひ、楽しみながら口腔機能を学ぶ1冊として、手元に置いていただきたい。
