学会|2024年5月14日掲載

「AIによる歯科医療 ―ディープラーニングの活用―」をテーマに約650名が参集

一般社団法人日本デジタル歯科学会、第15回学術大会開催

一般社団法人日本デジタル歯科学会、第15回学術大会開催

 さる5月11日(土)、12日(日)の両日、長崎ブリックホール(長崎県)において、一般社団法人日本デジタル歯科学会第15回学術大会(澤瀬 隆大会長、末瀬一彦理事長)が開催された。今回は「AIによる歯科医療 ―ディープラーニングの活用―」を大会テーマに現地開催され、一般参加者および企業関係者など含め約650名が参集した。以下に、主な演題の概要を示す(講演順)。

(1)大会長講演「長崎大学でのデジタルへの取り組みと本学術大会への期待」澤瀬氏(長崎大生命医科学域口腔インプラント学分野学)、座長:末瀬氏

 初日冒頭の大会長講演では、澤瀬大会長が登壇。昨年4月に開催された第14回学術大会の大会テーマ「ここまで進んだ!! 歯科医療DX」を受けて、今回はその延長線上にある「AIによる歯科医療」をテーマに据えた経緯について述べたうえで、AIの歴史や長崎大学での医科・歯科領域におけるAI研究の現状について紹介。とくに歯科においてAIは、診断支援、治療計画、ロボット支援手術、患者管理、そして教育に役立てられることを示し、以後2日間にわたる演題・プログラムがそれぞれどの領域を示しているのかを紹介した。

(2)企画講演「進化した医療AIとディープラーニング」藤田広志氏(岐阜大工学部)、勝又明敏氏(朝日大)、座長:疋田一洋氏(北海道医療大歯学部口腔機能修復・再建学系デジタル歯科医学分野)、金田 隆氏(日本大学松戸歯学部放射線学講座)

 本演題では、「医療AIの基礎から生成AIまで ―歯科画像領域へのインパクト―」と題して藤田氏が、「AIを用いた歯科診療の進化」と題して勝又氏がそれぞれ登壇。藤田氏は主に米国における先進的な医療画像に対するAI研究・活用事例や国内での現状、および今後の生成系AIに望まれることやその基盤となる各種技術について詳説した。また勝又氏は、AIによるエックス線画像からの歯および病変部位のセグメンテーションの現状や、オトガイ孔の位置で下顎骨下縁皮質骨の厚さと下顎皮質骨形態指標(Mandibular Cortical Index:MCI)を評価することで骨粗鬆症のスクリーニングに役立てる方法の現状と今後の展望などについて述べた。

(3)シンポジウム1「工学技術が切り拓く歯科医療の未来」玉田泰嗣氏(長崎大病院義歯補綴治療室/北大大学院歯学研究院口腔健康科学分野高齢者歯科学教室)、佐々木 誠氏(岩手大学理工学部システム創成工学科バイオ・ロボティクス分野)、東森 充氏(阪大大学院工学研究科)、座長:玉田氏

 本シンポジウムでは、「AIと共に挑む超高齢社会の摂食嚥下障害」と題して玉田氏が、「歯科分野における技能伝承システム」と題して佐々木氏が、「ロボット咀嚼シミュレーションの新展開 ―食塊形成マニピュレーション―」と題して東森氏がそれぞれ登壇。玉田氏は嚥下障害の指標となる舌骨の運動範囲の計測・分析法と、そこにおけるAIの活用について示した。また佐々木氏は、XR(仮想現実、拡張現実、複合現実などの総称)について概観したうえで、遠隔地から要介護者に対する歯磨き法を教育する「遠隔介助歯磨き指導システム」の開発などについて紹介した。そして東森氏は、ヒトの口腔内で行われている食塊形成をロボット上で行うための研究過程について多くの動画とともに紹介。本研究を通じ、介護用食品開発の進展や咀嚼困難な患者の病態理解に役立てられる可能性を示した。

(4)特別シンポジウム「歯科医療における匠の技のデジタル化 -歯科技術の遠隔教育への挑戦-」田中由浩氏(名古屋工業大大学院工学研究科/稲盛科学研究機構)、大竹義人氏(奈良先端科学技術大学院)、小川 匠氏(鶴見大歯学部クラウンブリッジ補綴学講座)、座長:馬場一美氏(昭和大歯科補綴学講座)

 本シンポジウムでは、「触覚の情報化による技能の記録、学習、そして伝承へ」と題して田中氏が、「AIによる筋骨格画像解析とデジタル歯科への応用」と題して大竹氏が、そして「歯型彫刻実習における触覚情報の応用について」と題して小川氏がそれぞれ登壇。田中氏は触覚の基本特性および主観的な触覚というものを情報化するための方法、そして触覚の共有やフィードバックのために現在行われている各種の研究について示した。また大竹氏は、AIを用いたCT画像からの筋肉・骨格のセグメンテーション技術の研究や、それをふまえた摂食・嚥下の評価への可能性などについて述べた。そして小川氏は、シンポジウムのタイトルとなっている「歯科医療における匠の技のデジタル化」と「歯科技術の遠隔教育への挑戦」について提示。歯型彫刻の教育におけるAIおよび触覚転送によるオンライン技術教育の開発について詳説した。

(5)シンポジウム2「ここまで来た!矯正歯科治療のデジタル化」三林栄吾氏(愛知県開業)、中嶋 亮氏(東京都開業)、山田尋士氏(大阪府開業)、道田将彦氏(愛媛県開業)、座長:橋場千織氏(東京都開業〕、浜中 僚氏(長崎大病院矯正歯科)

 本シンポジウムでは、「矯正歯科治療のデジタル化の進展とAIへの応用」と題して三林氏が、「矯正治療におけるDental Avatarの利用」と題して中嶋氏が、「歯科矯正治療における3次元診断について」と題して山田氏が、そして「AI処理を用いたサージカルガイド作製やセットアップ模型への活用」と題して道田氏がそれぞれ登壇。三林氏は、デジタル矯正診断においては従来よりも情報量が増えるためにむしろ診断が難しくなる局面があることや、バーチャルペイシェントの活用および昨今の加速矯正のトレンド、そしてAIがもたらす歯の自動セグメンテーションの有用性などについて示した。中嶋氏は、口腔内スキャナーとCT、そしてフェイシャルスキャナーのデータを融合した「Dental Avatar」の臨床での利活用について、実際の症例を基に詳説した。山田氏は、昨今急速に普及したアライナー矯正歯科治療によるトラブル症例を示しつつ、デジタルによって詳細に得られるデータを確実に活かして検査・診断を行う必要性を強調した。そして道田氏は、昨今気軽に得られるようになった3Dデータをそのままの形で利用するのでは、従来の印象材と石膏模型の組み合わせと大差ないとした上で、歯科医師がチェアサイドで役立つデータの編集法について解説。ブラケットを撤去する前にリテーナーをあらかじめ設計しておく方法など、効率化のヒントを示した。また、無料/有料の各種ソフトウェアについても多数紹介され、3Dデータの活用法の幅広さを示した。

(6)歯科技工士セッション「光学印象データを用いた歯科技工に必要な知識」野林勝司氏(歯科技工士・OFFICE en CRAFT)、一志恒太氏(歯科技工士・福岡歯科大学中央技工室)、座長:野林氏

 本セッションでは、「歯科技工における光学印象を考える」と題して野林氏が、「光学印象データからはじまる歯科技工の要点と将来像」と題して一志氏がそれぞれ登壇。野林氏からは口腔内スキャナーがもたらす効率化といったメリットとともに、スキャンデータの欠落や光学印象に適しない症例があるといった注意事項が示され、今後はチェアサイドとの連携がよりいっそう必要になる旨などが示された。また一志氏は、(1)光学印象とは?(2)光学印象の臨床は?(3)光学印象における歯科技工士とは?(4)光学印象の情報共有とは?(5)光学印象の展望は? の5パートに分け、光学印象データからの技工作業を扱ったことのない参加者にもわかりやすく詳説。演者の豊富な経験に基づく臨床のコツが随所にみられる内容としていた。

(7)緊急企画講演「CAD/CAM冠の適用拡大・材料の留意点」(末瀬氏、宮﨑 隆氏(日本デジタル歯科学会監事)、疋田一洋氏(日本デジタル歯科学会学術委員会委員長、教育問題研究会委員長)

 本企画は、今回の学術大会の企画立案以降に種々決定された令和6年度歯科診療報酬改定の内容をふまえつつ、現在保険診療で使用できるCAD/CAM冠の現状およびPEEK材の解説、そして臨床応用の注意点を示すもの。末瀬氏は「社会保険診療報酬改定にともなうCAD/CAM冠の適用拡大について」、宮﨑氏は「CAD/CAM冠材料の基本的知識」、そして疋田氏は「CAD/CAM冠臨床応用の留意点」と題してそれぞれ登壇。2022年時点で小臼歯部に関してはCAD/CAM冠の本数が金銀パラジウム冠を上回ったことや、PEEKの登場ですべての大臼歯にCAD/CAM冠が適応可能となったこと、また従来のCAD/CAM冠材料のコンポジットレジンとPEEK材はまったく異なる材料であるために特有の注意点があることなどが述べられた。

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