学会|2025年7月11日掲載
特別講演は「寝る子は育つ、見守ろう子供の睡眠:Pediatric Sleep Health
東京矯正歯科学会、第84回学術大会を開催

さる7月10日(木)、有楽町朝日ホール(東京都)において、東京矯正歯科学会第84回学術大会(西井 康会長)が開催された。本大会では、13題の一般口演の他、1題の症例展示、43題のポスターによる症例報告、1題の特別講演が行われた。
そのうち特別講演では、西井氏を座長、千葉伸太郎氏(医師、太田総合病院記念研究所、太田睡眠科学センター所長)を演者として「寝る子は育つ、見守ろう子供の睡眠:Pediatric Sleep Health」が行われた。Pediatric Sleep Healthは小児における睡眠の健康的な質・量・習慣を維持するための研究分野であり、小児の年齢に応じた適切な睡眠時間や睡眠リズム、睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害および睡眠と発達・学習・情緒の関係および医学的介入について取り扱うものである。
本講演では、「Pediatric Sleep Healthとは?」「小児の睡眠関連呼吸障害(Sleep Related Breathing Disorders: SRBD)」「重要な正常鼻呼吸習慣」「我々ができること、役割、そしてその先へ」の4点に絞って解説された。氏は日本人の睡眠時間は世界でもっとも短いとするデータを示しながら、子どもの睡眠は「寝ないで頑張ったほうが報われる」といった日本独特の睡眠の考え方や、テレビやスマートフォンの登場など経済優先の社会や大人の生活習慣に大きく影響されていると述べた。そして小児の睡眠時間が肥満や発達、学習能力に与える影響に関するデータを示しつつ、「子どもの睡眠の質・量を良好なものにするには、大人の睡眠を改善しなければ、大人の生活習慣の影響を受けざるを得ない子どもの睡眠も改善しない」と強調した。
また、アレルギー鼻炎や鼻閉、アデノイドや口呼吸などに起因する睡眠時無呼吸症候群およびSRBDに関して、大人の睡眠時無呼吸症候群は一般に認知され治療も多く行われるようになったのに対し、小児はそれに追いついていない現況から、日本における睡眠時間の短さおよびSRBDの悪影響に対する理解不足に警鐘を鳴らした。そしてゼロベース・バイオプログレッシブ法で著名な根津 浩氏(東京都開業)からヒントを得て調査を始めたという鼻呼吸と睡眠の関係、および脳機能への影響についての研究レビューを紹介した。氏は最後に「我々ができること」として、医療従事者の睡眠学の理解、既存の健診を活用した小児の睡眠チェック、歯科医院を含めた医療施設に来院した小児の呼吸・睡眠機能のチェック、保護者への説明、エビデンスの蓄積および医療連携システムの構築を挙げた。
本講演で扱われた話題に対し、呼吸や咀嚼嚥下など顎顔面口腔機能を扱う矯正歯科に従事する参加者からは耳鼻咽喉科との連携などについての質問が寄せられ、講演終了後も質問者が氏を囲むなど、興味深く多くの示唆をもたらす講演となった。