学会|2025年5月20日掲載
「口腔科学の任務と力」をテーマに
NPO法人日本口腔科学会、第79回学術集会を開催

さる5月15日(木)から17日(土)の3日間、松本市キッセイ文化ホール(長野県)ほかにおいて、第79回NPO法人日本口腔科学会学術集会(栗田 浩大会長、片倉 朗理事長)が開催された。本学会は日本医学会における唯一の歯科系の分科会であり、特別講演と基調講演各1題、理事長講演、大会長講演、指名報告2題、宿題報告、シンポジウム5題、ミニレクチャー2題、新人賞受賞講演など、濃密なプログラムが繰り広げられた。
特別講演では、メディアでもおなじみの、鎌田 實氏(諏訪中央病院名誉院長)が「地域で命を支える病院~救急医療・包括ケア・口腔外科・健康づくりの50 年~」と題して登壇。赴任した50年前は累積赤字4億円で、わずか6名の医師で切り盛りし、また長野県自体が脳卒中の多い県であったことを追想したうえで、やさしくあたたかな医療の提供をめざし、「時間」「診療内容」「空間」の3つを開く「開かれた病院」づくりの取り組みを進めた結果、現在では医師約100名、長野県は男女とも平均寿命・健康寿命全国1位の健康県になった変遷を、自院の歩みを交えながら紹介した。また、2005年の口腔外科の開設以降、診療科を超えた口腔ケアの実践が、院内そして県下全域に広がり大きな成果を上げてきたと述べ、急性期病院における口腔外科の存在意義を語るとともに、心のこもった医療の実現における“境界を超えた”取り組みが広がることの重要性を強調した。
栗田氏(信州大学医学部歯科口腔外科教授)による大会長講演「口腔科学の任務と力」では、昨今口腔と全身の健康との関連について多くの研究成果が得られ、関心が高まっているなかで、口腔科学は「歯科学はもちろんのこと、医学にも関連する学際的な領域を包含した学問」として重要な役割があると説明。医学会の一員である本学会こそ、歯科と医科の結びつきを探求する“任務”を果たすべきと述べるとともに、医科そして広く国民にも口腔の重要性を伝え、社会への還元をめざした“力”を発揮することが重要と訴えた。
シンポジウム「保健、福祉、社会貢献における口腔科学の任務と力」では、まず「国民皆歯科健診への道」と題し、山田 宏氏(自由民主党参議院議員)が登壇。2017年以降、政府の「骨太の方針」に毎年歯科の記載がなされるようになり、健康寿命の延伸や疾病予防における口腔の健康の重要性に対する認識の高まりを受け、年々充実が図られるようになっていると紹介。2022年に明記された、いわゆる国民皆歯科健診においては、国民の約半数が歯科受診をしない現状にあって、特に歯科がカバーされていない青壮年期への対応を充実させたいと強調。今年度より現在各社で研究開発を進めている簡易な検査キットを用いたモデル事業を実施予定であり、この普及により「将来的に国民が年一回でも歯科診療所に足を運んでもらうきっかけとしたい」との意気込みを述べた。
続いて渡邊 裕氏(北海道大学大学院歯学研究院口腔健康科学分野高齢者歯科学教室教授)が「保健、福祉における口腔科学の現状と課題」のテーマで講演。平均寿命に相当する85歳現在で20歯以上歯を有する者の割合が、2011年の17.0%から2022年は38.1%と急増する一方、75歳をピークに歯科の受療率が急減している現状から、75歳以降は残存歯が適切に管理されていない状況が推測されると指摘。医科のように歯科も高齢者の受診や健診による定期管理が重要との理解を広める必要があると強調し、「歯が残っていればよい」から、生活機能やQOLの低下に直結する口腔機能の低下に着目した対応が求められると訴えた。
最後に岩原香織氏(日本歯科大学生命歯学部歯科法医学講座教授)が「災害時における歯科医師の任務」と題し、災害時の歯科医師の人的支援における「医療救護」「歯科医療救護」「歯科的個人識別」の任務について解説。災害の種類や規模、フェーズによって必要な支援は変わることをふまえながら、歯科医師の正しい活動によって被災者の回復や復旧の力につながることが望まれると述べた。
次回第80回学術集会は、きたる2026年4月16日(木)から18日(土)の3日間、朱鷺メッセ(新潟県)において開催予定となっている。