学会|2025年9月24日掲載
「いつも楽しく食べる~多職種による安全な食事の支援~」をテーマに
第31回日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会開催
さる9月19日(金)、20日(土)の両日、パシフィコ横浜ノース(神奈川県)において、第31回日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会(香取幸夫大会長、鎌倉 やよい理事長)が「いつも楽しく食べる~多職種による安全な食事の支援~」をテーマに開催された。
会長講演では、香取氏(東北大学耳鼻咽喉・頭頸部外科)が「いつも楽しく食べるために:リハビリテーションを補う手術治療」と題し、摂食嚥下障害に対する外科的アプローチの重要性を説いた。リハビリテーションや口腔ケアを行っても改善が難しい患者に対し、手術という選択肢がQOLを劇的に向上させる可能性を秘めていると強調した。香取氏は、手術治療を「嚥下機能改善手術」と「誤嚥防止手術」のカテゴリーに分類して解説。「手術はリハビリテーションや口腔ケアとの組み合わせで、患者さんのQOLを劇的に改善できる」と述べ、地域の耳鼻咽喉科医への相談を促した。
特別企画講演2では、超高齢社会における喫緊の課題である高齢者の誤嚥について、「口」と「のど」という2つの視点からあらためて見直すセッションが設けられた。両講演ともに、重度の嚥下障害に至る前の「フレイル(虚弱)」の段階で早期に兆候を発見し、介入することの重要性が強調された。
なかでも岸本裕充氏(兵庫医科大学)は、口腔管理の新たな概念として“オーラルマネジメント”を提唱した。これは、単なる口腔ケアにとどまらず、Cleaning(清掃)、Rehabilitation(リハビリテーション)、Education(教育)、Assessment(評価)、Treatment(歯科治療)の5つの要素を統合した包括的なアプローチで、これらが達成できれば、食べる(Eat)もしくは楽しむ(Enjoy)ことが可能となるという概念であり、頭文字をとって「CREATE」と名付けられている。特に重要なのが、嚥下障害の前段階であるオーラルフレイルの早期発見であり、岸本氏は、専門家でなくても気づける主観的なチェック項目として、覚えやすい3文字の合言葉「噛むか?」(か:かつ舌の低下、む:むせ、か:噛めない食品の増加)を提案した。岸本氏は、これらの簡単な問いかけを通じて患者の主観的な変化を捉え、必要であれば客観的な歯科的評価へとつなげることの重要性を訴えた。
シンポジウム5では、歯科関連職種が地域でどのように他職種と連携し、どのような課題に直面しているかの実態が、各専門家の立場から報告された。各職種が互いの役割を理解し、患者の生活を中心に据えることで、より質の高い地域包括ケアが実現できるという希望に満ちたメッセージが共有された。
なかでも、渡邉理沙氏(歯科衛生士、桶狭間病院藤田こころケアセンター)は、歯科衛生士の役割は口腔ケアにとどまらず、機能評価や訓練も担うことで、歯科チームと他の医療・介護チームとをつなぐ重要な“橋渡し役”になれると主張。多職種連携の起点となり得る可能性を訴えた。
さらに、谷口裕重氏(朝日大学、歯科医師)は、若手・中堅の歯科医師や教育の現場で、摂食嚥下への関心が着実に高まっていると報告。かつては一部の専門家の領域とみなされていた摂食嚥下リハビリテーションが、今や若手にとって習得すべきデフォルトのスキルになりつつあると指摘し、多職種連携を前提とした教育を受けた新世代が今後の連携をさらに進展させるとの明るい見通しを示した。
閉会式で言及されたように、一部のセッションでは立ち見が出るほど多くの参加者が集まり、大会は大きな成功を収めた。なお、次回はきたる2026年9月11日(金)から13日の3日間にわたり、神戸国際展示場および神戸ポートピアホテル(ともに兵庫県)において、第32回大会(加賀谷 斉大会長、柴田斉子副大会長)が「State of the Artを超えて」をテーマに開催予定。