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2020年9月13日

日本アンチエイジング歯科学会、ウェブセミナーを開催

歯周病、糖尿病、認知症の専門家が最新知見を披歴する

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 さる9月13日(日)、日本アンチエイジング歯科学会(松尾 通会長)によるウェブセミナー「歯科医が感染症医となる日 2nd Stage」が開催された。昨年10月開催の「歯科医が感染症医となる日」の続編となる本セミナーでは、昨年の演者である西田 亙氏(糖尿病専門医・愛媛県開業)、長谷川嘉哉氏(認知症専門医・岐阜県開業)にくわえ天野敦雄氏(阪大大学院教授)を迎え、歯周病、糖尿病、認知症の3つのテーマを軸にさらに進化した内容が披歴された。

 第一の演者は、糖尿病専門医の西田氏。「口腔だけでなく全身の炎症消退を通して国民に貢献する歯科医療~人生100年時代に歯科が活躍するその理由~」と題して、今後の高齢者医療や生活習慣病対策に、政府や専門医団体から歯科の働きが期待されていることを述べた。
 
 たとえば、令和2年の医科と歯科の診療報酬改定を見比べると、(1)「生活習慣病管理料」の要件や、「生活習慣病療養計画書」に歯科受診の記載が追加された、(2)周術期の口腔機能管理が必要な患者のために、医科から歯科を予約することで、「歯科医療機関連携加算2」が算定可能になった――などの変化があった。これらはいずれも医科歯科連携を強化するもので、政府が歯科治療を重要視していることを示すものだ。

 一方、専門医の団体である日本糖尿病学会は、糖尿病診療のガイドラインにて、(1)糖尿病患者の初診時には必ず歯科に依頼し、以降も定期的に歯科を受診させ必要に応じ治療を受けさせる、(2)口腔内の炎症を取り除くことで、全身的に炎症が改善することが示唆されている――と明記している。体内の炎症はインスリンの効きを悪くするため、歯周治療による炎症の改善が意味するものは大きい。実際、2019年の同ガイドラインでは、「歯周治療による血糖コントロールの改善」は、推奨グレードAに格上げされている。

 次の演者はPg 菌(Porphyromonas gingivalis )の研究で著名な天野氏。「歯周病は完治しない、バイオフィルムの病原性制御で管理する」という演題のもと、バイオフィルムの病原性の変化が口腔疾患を発症させる仕組みと、それを防ぐ対策を詳説した。

 ヒトの口腔内には、善玉菌、日和見菌、悪玉菌がいる。善玉菌は多くて2割、悪玉菌も多くて1割。残りは日和見菌で、この菌はふつうは害を及ぼさない。しかし、Pg 菌などの悪玉菌が増えると悪さをするようになりバイオフィルム全体の病原性を高める。これをmicrobial shiftといい、この病原性の変化がう蝕や歯周炎を引き起こす。どんな薬剤や抗生物質を用いたところで、細菌自体を口腔内から完全に除去するのは不可能。それゆえ、バイオフィルムの病原性が変化しないように制御することが最善の策となる。そうした考えから天野氏が重要性をあらためて強調したのが、「歯肉からの出血をとめる」こと。Pg 菌は血液中のヘミン鉄を栄養として活発化する。しかし、鉄がなければ増殖できず弱い。氏は「バイオフィルムの病原性の管理こそが令和の時代の“健口管理”」だと講演を締めくくった。

 最後の演者は長谷川氏。氏は認知症専門医でありながら、口腔の健康が認知症に与える影響にいち早く着目してきた。以前から認知症外来に歯科のチェアユニットを置いて歯科衛生士による口腔ケアを患者に行ってきたが、今年の6月には歯科クリニックを新たに誘致したという。講演では、認知症は30以上の要因が関係していること、軽度認知障害、中核症状レベル、周辺症状レベル、寝たきりレベルと段階を追って進行することなどのほか、院内で行った口腔ケアでどのような変化が患者に見られたかが述べられた。ファイナンシャルプランナーの資格も有する氏は、MPAという経営戦略モデルに基づき、医科歯科連携のためには、知識を深めること(Production)だけでなく、医科や介護業界に自分たちから接触していくこと(Marketing)や、教育やシステム構築のための資金力(Accounting)が必要だと論じた。また、認知症治療薬として現在研究が進められている「ジンジパイン阻害薬」(Pg 菌が産生する、脳の神経細胞を変性させるタンパク質分解酵素の働きを阻害する薬)については、認知症は単一の原因で起こるものではないため、ひとつのアプローチとして期待できるものの、「これだけで解決できると考えてはいけない」と評した。
 
 講演後には、坂本紗有見氏(東京都開業・日本アンチエイジング歯科学会常任理事)の司会のもと、ウェブで3名の演者をつないだライブシンポジウムが行われた。各自の講演の総括のほか、視聴者から寄せられた質問への回答が行われた。最後は、松尾会長(東京都開業)が「新しい歯科医療のあり方が求められる時代が来ている。皆さまには率先して行動に移していただきたい」と述べて、閉会となった。

 なお、本セミナーは見逃し配信にも対応しており、参加申込みをしたかたは9月20日(日)まで繰り返し視聴できる(申し込みをしていないかたは、以下から申請すれば有料で視聴可能)。
 https://www.whitecross.co.jp/events/view/1300(歯科医師専用受付)
 https://www.whitecross.co.jp/events/view/1315(コデンタル専用受付)