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2021年4月18日

2021 ライオン健康セミナーが開催

「『人生100年時代』に向けた歯科医療をめざして」をテーマに

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 さる4月18日(日)、ウェブによるライブ配信において、2021ライオン健康セミナー「人生100年時代に向けた歯科医療をめざして」(ライオン歯科衛生研究所主催)が開催された。ライオン健康セミナーは今回で29回目となるが、新型コロナウイルス感染症の蔓延を考慮して、初のウェブ開催となった。視聴者数は約900名にのぼり、演者に多数の質問が寄せられる盛り上がりを見せた。

 最初に講演したのは、西沢邦浩氏(日経BP総研メディカルヘルスラボ客員研究員、「日経ヘルス」元編集長)。一般向け健康情報誌の元編集長の視点から、「『人生100年時代』の健康のカギを握る歯科への期待」と題し、国内外多数の論文や資料より、いま注目されている歯科のトピックを紹介した。

 新型コロナウイルス感染症予防における唾液中のIgA(免疫グロブリンA)の役割や、それにともなう専門的口腔ケアとセルフケアの重要性にはじまり、
 ・残存歯数とがん発症リスク、認知症リスク、死亡リスクの関係
 ・よく噛むことと糖尿病のリスク、最大咬合力と寿命の関係
 ・患者のブラッシング習慣と心血管系疾患リスク、生活習慣病リスクの関係
 ・専門家による口腔ケアと脳・心血管系疾患リスクの関係
 ・顔貌年齢と実際の全身や口腔の健康状態の関係
などを述べ、人生100年時代を健康に生きるには、「歯科と歯科衛生士に期待される役割が大きい」とまとめた。

 続いて、尾崎哲則氏(日大歯学部教授)が「歯科医療の今までと今後」の演題で講演。むし歯の洪水時代だった1960年代からの歯科の歩みを振り返りつつ、人生100年時代に向けた歯科医療のあり方を述べた。近年、12歳児のDMFTは1を割る方向に進み、約30年前に開始された8020運動は達成者が50%を超えている。過去に見られた「削って詰める」治療は減少し、国民の多くが定期的なメイテナンスを受けるようになった。

 このように「歯の本数」についてはある程度成果が出ているいま、求められているのは口腔機能への取り組みだという。小児なら口腔機能発達不全症、高齢者なら口腔機能低下症という病名が確立され、徐々に対応が進められているが、口腔機能の維持には継続的な管理や指導が欠かせない。しかしいまは、コロナ禍により継続受診が難しい。そこで氏はアプリを用いた遠隔診療に注目し、すでに医科ががん患者の体調管理に利用しているように、「ウェブを通じた日常の健康支援も、歯科の新たな役割になる」と述べた。

 次に、石原裕一氏(ライオン歯科衛生研究所)が「生涯自分の歯で過ごすための歯周病予防・治療」の題で講演。歯周病専門医として、歯周病罹患者の現状と、認知症をはじめとした全身疾患との関連、高齢者の歯周病予防・治療を推進するにあたってどのような指導をするべきかを述べた。
・ブラッシング指導においては、人生経験を積んできた年配の患者には「歯みがきのしかたを教えます」という言いかたは効果が薄く、「いろいろな歯みがきのしかたを紹介しますので、あなたの反応を半年から1年見せてください」という一歩引いた言葉がけをする
・いきなり口腔内全体のみがきかたを指導するのではなく、主訴のあった部位や、歯周病の進行している部位など、短期的な改善が見込めるところから始めると変化がわかり、モチベーションにつながりやすい
といった、臨床経験をふまえたテクニックが披露され、視聴者からの反響も大きかった。
 
 最後の演者は、池上由美子氏(歯科衛生士、がん感染症センター都立駒込病院)。同病院は、国内最初の発症である中国・武漢からの来日者およびクルーズ船の感染者から現在に至るまで、多くの新型コロナウイルス感染者を受け入れてきた。そうした経験から、「新しい生活様式、with コロナの中での臨床現場における歯科衛生士の役割」と題して、同病院がウイルスを持ち込まない・持ち出さない・広めないために、どのように人・環境・システムの管理を行ってきたかを説明した。

 受付での遮蔽板の設置やアルコール消毒剤の設置、診察前の問診と体温チェック、患者へのうがいのお願いなどの取り組みから、PPE(帽子、N95マスク、ゴーグル、防護衣、手袋など個人用防護衣)の着脱法や手指消毒法など、具体的な手順を映像付きで解説。くわえて、そうした感染管理をスタッフに徹底させるための仕組み作りも詳説した。

 2020年3月5日版のニューヨークタイムズ紙によれば、「新型コロナウイルスへの感染リスクがもっとも高い職種は歯科衛生士」であることを引用しつつも、「たいへんな時期だからこそ、なぜ歯科衛生士になったのか原点を思い出して!」とエールを送って結びとした。

 講演後には、演者4名によるパネルディスカッションが行われた。視聴者からの質問に演者が答えていく形式で、時節柄、コロナ禍における対応についての疑問が大半を占めた。なかでも「唾液や細菌への曝露リスクの高い環境でありながら、歯科医院でクラスターが出ていないのはなぜか?」という問いに対しては、尾崎氏が「歯科はリスクの高い環境だからこそ、もともと感染管理のレベルが高かったことが理由と思われる」と回答し、歯科医療者を勇気づけた。

 本セミナーは振り返り視聴にも対応しており、2021年4月20日(火)から5月16日(日)にかけてオンデマンド配信される予定。視聴の申し込みはこちらより(オンラインイベント予約サイトPeatixへの無料登録が必要)。