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2022年4月10日

神奈川歯科大学同窓会神奈川県支部、2022年学術講演会をWeb開催

「総義歯イノベーション ―総義歯100年の匠の技 デジタル義歯製作にどう繋げるか―」をテーマに

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 さる4月10日(日)、2022年神奈川歯科大学同窓会神奈川県支部学術講演会(神奈川歯科大学同窓会神奈川県支部主催、金子守男会長)がWeb開催され、約60名が参加した。今回は、玉置勝司氏(神歯大総合歯科学講座顎咬合機能回復分野教授)、および同窓生がこれまでに取り組んできた総義歯に関する研究・臨床を基に、それらがいかに今後のデジタル義歯製作に活かせるかについて論じられた。以下に、各演題の概要を示す。

1)「アナログ製作された総義歯のデジタルデータ化へのイノベーション」前畑 香氏(神奈川県開業)
 本演題ではまず、演者が現状で臨床に取り入れているデジタル総義歯製作システムの紹介や、3Dプリンターを用いて人工歯および義歯床、および軟質リライン部までを一塊としてプリントした義歯の研究・試作についての紹介が行われ、こうした総義歯のデジタル化が、今後ますます加速する「重老齢社会」(前期高齢者の数を後期高齢者の数が上回る社会)において患者に貢献しうることが示された。そのうえで、より簡便かつ精度高く総義歯を提供するための研究として、演者が筆頭著者となった原著論文「総義歯製作における人工歯排列の水平面的アーチの決定に関する研究」(日本補綴歯科学会誌 14巻2号、2022年に掲載予定)の内容を紹介。本研究は、総義歯製作の人工歯排列に応用可能な水平的アーチを決定することを目的に、正常咬合の天然歯列29症例、総義歯の歯列27症例の下顎を対象として、それぞれの模型をスキャン。その後、それぞれの模型ごとに46か所の計測点と14か所の抽出計測点を設定し、平均座標値を重ね合わせて分析したもの。その結果、正常咬合の天然歯列と総義歯の歯列の平均的な歯列弓形状には統計的に近似性が認められ、これまで臨床経験として語られてきた「総義歯の人工歯排列は、もとあった歯の位置を参考にする」ことを実際に示した初の論文になるとした。さらに、多項式回帰分析の結果、総義歯人工歯列の水平面的アーチを表す人工歯列弓形状が相関性の高い四次多項式曲線によって表現可能であることを示し、これを基に日本発のデータに立脚した合理的なデジタル人工歯排列の開発や、この数式に基づいたフルアーチ連結型人工歯の開発についても予想図とともに示した。これにより、高齢者の日常の義歯治療はもとより、在宅の患者や災害時の対応などにおいても迅速化と精度の向上が図られるとした。

2)「歴史からみる総義歯排列のデジタル化へのイノベーション」生田龍平氏(歯科技工士、フェリーチェ)
 本演題ではまず、古典的な総義歯の歴史に名を刻んできたDr. Gysi A、Dr. Gerber A、およびPound Eの3名を挙げ、それぞれの功績や開発した咬合器、人工歯排列の傾向などについて概観。また、人工歯排列の要諦として義歯床の転覆防止と舌房の確保を挙げ、人工歯の角度による転覆傾向の違いや、パウンドラインなどを考慮した舌房の確保について示した。さらに、同一の模型に対してDr. Gysi A、Dr. Gerber A、およびPound Eのそれぞれのコンセプトによって人工歯排列を行った例を示し、臨床で遭遇するさまざまな症例に対する対応について検討した、そのうえで、今後のデジタル化については、舌房の確保のためにパウンドラインを基準とすること、顎堤条件に応じた前後湾曲/側方湾曲の決定、および顎堤条件によるバランスドオクルージョンとリンガライズドオクルージョンの選択が重要になるとした。

3)「連結人工歯を使用した咬合採得のイノベーション」渡辺宣孝氏(神奈川県開業)
 本演題ではまず、「歯科医学は咬合学」であるという前提に立ち、咬合平面の設定基準や矯正学的な正常咬合の定義、また機能的正常咬合やDr. Guzay CMの理想咬合、そして咬筋の走行方向に応じた人工歯排列や概形印象の「あるべき形」などについて示したうえで、特に咬合採得に焦点をあてて解説。演者の経験から、「よく噛めている症例の歯列弓形態と床形態は異なる患者間でも近似しているため、演者はその形態に基づいた連結人工歯をレジンで製作しておき、それを用いて咬合採得を行っている」ことについて、2つの症例を基に述べた。そのうえで、「概形印象で解剖学的ランドマークが採得され、作業模型が規格模型となっていれば、連結人工歯を使用することで正確に生理的下顎位を採得でき、人工歯排列に費やす時間も短縮される」ことを示した。そして、演者が行っているアナログの連結人工歯製作ですでに効果が得られていることから、1)で前畑氏が示したデジタルによるフルアーチ連結型人工歯の開発が進むことは、より簡便かつ精度の高い総義歯の提供につながるとした。

4)「100年のアナログ義歯の知識と技術をデジタル義歯に、そして健康寿命の延伸に向けたイノベーション」玉置氏
 本演題では、玉置氏のこれまでの経験を基に、現在および今後の総義歯をめぐる(1)高齢者の義歯装着の現状:世界における義歯装着者の現状、特に総義歯の現状について、(2)義歯の装着意義と目的:高齢社会に向けたこれからの義歯装着のコンセプト、(3)義歯製作のアイデアのデジタル化:アナログ技術のデジタル化義歯のイノベーションについて、(4)デジタル化への教育と能力:歯科医師、歯科技工士 の意識のイノベーション、に分けて解説。中でもデジタル化に関しては、1)のフルアーチ連結型人工歯を用い、義歯床を3Dプリンターで製作する3Dプリント義歯システムに関する基礎的研究や、光学印象では困難をともなう無歯顎の印象採得を、顎骨のコーンビームCT像を基に三次元構築して行う方法を示した。そのうえで、若手歯科医師に向け、今後はすべての補綴装置がデジタル技術で製作されることは不可避であるが、今のうちに義歯の基本をよく学習し、これまでの臨床のアナログ技術をデジタル的に表現できるように準備してほしい、と述べた。

 これまでの100年あまりにわたる近代的な総義歯学をふまえつつ、主に「フルアーチ連結型人工歯」をキーワードにこれからの総義歯のデジタル化について示された本講演会。全演題の終了後には、同窓生が多数参加してのディスカッションも行われ盛会となっていた。